表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第三章】共に生きる者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/108

41. 古い噂

今日の報酬は子供のお小遣いの様なものだが、駆け出しの冒険者達はそれを日々熟し、その日を凌いでいる。


だが、シドとリュウは金の心配はない。そもそもシドは、今まで稼いできた金に殆ど手を付けていなかった事もあり、実は結構持っている。2人が一年間依頼を受けずに生活したとしても、全く問題はないのである。


とは言え、これからはパーティとしてやっていく上で、依頼を受けない訳には行かない。少しずつでも依頼を熟して、リュウのランクアップを手助けするつもりである。その為にできれば、D級の依頼を受けたかった。


しかしこの街の冒険者ギルドには、D級依頼が殆ど無かった事を考えると、街を移動した方が良さそうだ。


歩きながらシドが、そんな事を考えていると隣にいるリュウのお腹が鳴った。

“きゅぅ~”

音の主を見れば、顔を真っ赤にしている。


「何か旨い物でも食べて帰るか?」

シドがニヤリと笑い、リュウに聞いた。

「…うん」

小声で返事が返ってくる。


リュウは今日、魔力をかなり消耗した為お腹が空くのは当然なのだが、本人は少々恥ずかしかったらしい。

シドはリュウの頭をポンッと叩くと、2人は食堂が並ぶ通りへ向かった。


そして、いかにも“町の食堂”という雰囲気の店に入る。今は夕飯の時間、店内はほぼ客で埋まっている。

2人は空いている席へ座ると、給仕の女性がすかさず注文を取りに来た。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」

「リュウ、“お勧め”で良いか?」

「うん」

「では、“お勧め”を2つ」

「はい、ありがとうございます。少々お待ちくださいね」

注文を聞くと、女性は奥へと引っ込んで行った。


それを、目で追っていたリュウがついでに店内を見渡すと、座っている人達は割と冒険者が多い事に気付く。

冒険者達が居るという事は、この店は“当たり”だろう。冒険者達はいくら安くても、マズイ店には入らないのである。


「この店は“当たり”みたいだね」

「その様だな」

シドも店内の客層に気が付いている様だ。


「今日は本当にお腹が空いちゃったよ…」

「あれだけ動けば、腹は空いて当然だろう。いっぱい食べてくれ」

「うん、そうする」


暫くすると、店のお勧め料理が運ばれてきた。

今日は、ライスに黄色いトロリとした汁が掛かった物で、中には大振りの肉と野菜がゴロゴロと入っている。ワンプレートだが、量もたっぷりで腹も満たされそうである。


「少し辛いね。外が暑いから余計に汗が出そう…」

「そうだな。これは少し辛めの物だから、汗が出るな」

「でも美味しい…」

「リュウはこれを初めて食べるのか?」


「うん。南部に、この料理は無かったよ」

「そうか。これは北部で良く出る物だからな。冬の寒い時に食べると、体が温まるぞ」

「そうだね」

「だが、暑い時期で食欲がない時でも、コレは食べられるから不思議なんだ」

「うん。何だかこの辛さが癖になりそう…」


そんな食べ物談義に花を咲かせていると、近くの席の冒険者らしき男が、会話に入ってきた。

「ここの“カルー”は旨いだろう?」


シドとリュウは突然の声にビックリするも、一応は返事を返す。

「ああ、旨いな」

リュウもコクリと頷く。


「ここの店のカルーは、他の店の物より旨いんだ。皆、コレが食いたくて、この店に通っている様なもんだ」

そう言うと、ニカッと男が笑った。

その男をよく見れば、昨日冒険者ギルドで話しかけてきた、20歳代後半に見える黒髪の男だった。


「おや?昨日のお二人さんだったか」

そう言ってこちら側に体を向けてくる。


「俺はC級の“シェンカー”だ。今日は依頼を受けたのか?」

「ああ。俺は“シド”こっちは“リュウ”だ」


「昨日はD級の依頼を見ていた様だが、今日も殆ど無かっただろう?ここはD級が多い街だから、朝一で依頼が無くなるんだ。何か残っていたか?」

「いや、E級の依頼を受けた」

「そうか。残念だったな」


シェンカーが上辺で言っている様なので、さらりと流す。

「別に気にしていない。あんたはソロなのか?」

「いいや、パーティを組んでいる」

「あんたは、メンバーとは一緒に行動しないんだな」


昨日といい今日といい、他にメンバーらしき人物は周りにいない様だ。

「いつも一緒とか肩が凝る。俺は仕事中だけだな、一緒にいるのは」

「そうか」


世の中には、色んな考え方をする者がいるので不思議ではないが、だったらソロでも良さそうなのに、と思うも、パーティの方が依頼を熟す上で、効率が良いのは確かである。


「そう言や、兄さんの眼は翠色なんだな」

「何だ?急に」

「あーいやぁ。もう何年も前だが、この街で人を探しているという噂があったんだ。それも貴族がな」

ニヤリと口角を上げてシドを見る。


「それが、翠色の眼で金髪の若い男だという話でな。どうやら何処かの貴族が、若いツバメに逃げられでもして探しているんだろうって噂だった。兄さんの眼が翠色なもんで、少し思い出しちまった。そいつは金髪だって事だから、兄さんとは別人だがな」


シェンカーはそう話すと、グイッと自分のグラスに入っている酒を飲んだ。


「それはどれ位前だ?」

「えーと、確か6年位前だったかな。今も探しているのかは知らないけどな」

「そうか…」


「お?兄さん、自分がイケメンだからって取り入ろうとしても無駄だぞ?」

「…それは無い」

「ははっ!そうだよな」


シェンカーの話を聞きながら、シドは半分上の空だった。その頃には既に食事も終わっていた為、リュウが呼びかける。


「兄さん、そろそろ戻ろうよ…」

「ああ、そうだな」

「おや?君は弟だったんだな。兄弟揃って顔が良いとか、親の顔が見てーわ。はははっ」


「じゃあ俺達は先に失礼する」

そのコメントは、思いっきりスルーしたシドである。


「それじゃーな」

と男がひらひらと手を振った。


リュウもペコリとお辞儀をすると、2人はそそくさと食堂を出て行った。




≪リュウ、明日はもうこの街を出よう≫

精神感応(コネクト)を入れ、シドは話す。それにリュウは一度頷くと、2人は足早に宿へと戻った。



部屋に戻った2人は、しっかりと扉の鍵を閉める。


「ふー。お腹が一杯だわ」

以前の言葉遣いに戻っているリュウが、お腹をさすりながら満足そうに話す。


「悪いな。さっきの話は多分、俺だ」

「そうなのね。でも“燕”とも言っていたけれど、燕も一緒に逃がしてしまったのね」


シドはリュウの顔を確認するも、リュウは真面目な顔で話していた。

「……。そうだな」


そう一言だけ返すシド。

リュウは本気で、鳥の話もしていたと思っている風だった。わざわざ説明するつもりも無かったシドは、“リュシアンだしな”と言う事で終わらせたのだった。


「明日はまた移動だ。今日はゆっくり風呂に浸かって、明日に備えてくれ」

「そうするわ」

すっかり口調がリュシアンだったが、今は2人きりだ。咎める事無くシドはそのままにしておいた。


そして2人は翌日食料を買い込むと、昼前にはにウェヌスの街を出発したのだった。



-----



シド達が街を出たその頃、ウェヌスの街の冒険者ギルドには、トワが依頼の取り消しに訪れていた。


「すまなかったな。面倒をかけた」

トワは、受付で処理に対応していた女性に話す。


「いいえ。取り下げという事は、解決できたのですか?」

「ああ。俺の勘違いだった様だ」

「そうですか。はい、こちらは処理いたしました。また何かあればご利用下さい」

そんな会話をしてトワはギルドを見回すと、一つ息を吐いて帰って行く。


受付の職員は思う。

この件を気にしていた2人組の冒険者達は、今日は現れなかった。D級の依頼が少ないので、もしかすると彼らはこの街を去ってしまったのではないか、と。


「は~。また来てくれないかしら…」

そんな独り言を、言ったとか言わなかったとか。


★曖昧な討伐依頼についての補足

自分が住んでいる場所に魔物が出たという体で、トワは冒険者ギルドへ駆除依頼を出しました。曖昧な依頼ではあるが、人に被害が出ている事でギルドは特例で承諾したという所で、落としどころとして頂けると幸いです。


次の更新は10月15日の日曜日です。

引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
シドはあれかな。王族の妾腹の三男あたりで、権力争いで殺されそうになっての逃亡とかで、彼の執事さんが必死に探してるとかなんとか、そんな感じ?
[良い点] ご丁寧な感想返信、誠に、ありがとうございました。 [一言] 感想返信の割愛の件は了解しました! 元々、感想欄も返信も、作者さんの個人の自由ですし、個人的には、こういった返信を、されるだけで…
[良い点] シドは変装して正解みたいですね! …あとはカラーコンタクトをすれば完璧!(笑) [気になる点] …シドは美形だし…燕って~よりは、家出した貴族の坊っちゃんか…その探してる貴族が必要になった…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ