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4. 冒険者ギルド

 空が茜色に染まり、人々が道々に足を速める頃、シドはこの街の常宿にしている“くものうえ”へ戻った。


余談であるが、この“くものうえ”という店名の由来は、『雲の上の様な心地・地上とは思えぬ空間』をイメージし、『お客様に快適な場所を提供する宿』をコンセプトにして付けた、との事であるが利用感は至って普通である。


「シドさん、お帰り」

受付から女将の声がした。

視線を向けるとそこには、ふくよかな体に笑顔をのせた“ネリイ”がいた。

「ただいま、ネリイさん」

「もうすぐ夕食が出来るけど、食べるかしら?」


今朝の時点で、宿には夕食の有無を話していなかったと思い至る。


「そうだな。もらいたい」

「わかったわ。出来たら声を掛けるわね。部屋に声を掛ければ良い?」

「ああ。部屋に居る」


そう言ってから、シドは部屋に足を運ぶ。




程なくして部屋に女将が呼びに来た。


 コンッ コンッ

「シドさん、夕食が出来たわよ!」


ドア越しに呼び掛けるその声に、剣を手入れしていた動きを止める。

「ああ、すぐに行く。ありがとう」

そう伝えると女将の去った足音がしてから、シドは剣を鞘に収めると、それを手に部屋を出た。


1階食堂のテーブルに着いたシドの前に、早速大振りの肉が入ったシチューとサラダ、そして大量のパンが出る。

「たくさん食べてね」

そう言うとニッコリ笑って、女将は厨房へ戻っていく。


今日は体を使っていなかった為さほど腹は減っていないと思っていたが、思いのほか食が進む。

食欲をそそる魚介ベースのシチューの香りと口でとろける肉に、手が止まらなくなってしまったのである。


「美味かった。ごちそうさま」


-----


空腹も満たされ部屋へ戻ると、扉に鍵をかける。


亜空間保存(アイテムボックス)


荷物確認の為、おもむろに“亜空間保存(アイテムボックス)”を出現させ、中から物を取り出し始めた。


ポーション、毒消しポーション、魔力ポーション、水袋、干し肉等の携帯食、着替え一式とマント、それとこの街まで来る間に討伐した魔物の魔石。それで全て。

それを眺めて見るも(カバン1つに入る量だな)と苦笑する。


シドの荷物は多くない。

森や未整備道など、足場の悪い場所での依頼を受ける事が多い為、移動の邪魔にならない様、手荷物を最低限で抑える習慣がついていた。

(これでは(アイテムボックス)の持ち腐れだな)

今日買ってきた物も、薬草や小物なので(かさ)は大して増えなかった。



(そう言えば『アイテムボックス持ち』だという者の噂も、余り聞いたことがないな。どれ位の割合で、保持者がいるのやら…)


こちらのスキルも便利故に他人に知られると厄介そうだと思いつつ、やはり書物で調べる方向に思考は辿り着く。

(明日はスキルを調べよう。)


コンサルヴァには以前半年ほど留まっていたのだが、ギルドにばかり通っていた為にシドは図書館の場所を知らない。

(ギルドにも多少は書物があったな。取り敢えずはギルドに寄って、図書館の場所も聞いてみるか)


そう思い、思考を閉じた。




-----



翌朝また賑わう時間を外し、シドは冒険者ギルドへ来た。


(ん?今日は何だ?)


遅めの時間に来たはずが、昨日より多い人数がまだ残っていた。

そしてその殆どが、受付脇の壁際にある掲示板を取り囲む様にして立っている。

シドもそちらへ向かい、人の隙間から掲示板をみると一枚の掲示物が見えた。


『ロンデ・冒険者ギルドより通達~<ハノイ>ダンジョンを再調査したところ、ダンジョン機能の復調が散見された。よって、前回通達した“封鎖”を撤回し、引き続き<ハノイ>ダンジョン攻略者を歓迎する~』


(そうか…。)


<ハノイ>が無事に復帰した様でホッとする。

あの時 “消滅を止めてくれ” と乞われたものの、自分に出来るとは思ってもいなかった訳で、実は半信半疑だったのだ。



「ダンジョンが復活したってすごくねぇか?!」

「珍しい現象らしいぞ。原因らしい何かを見つけたら“発見”じゃね?」

「俺はそろそろ街を移ろうと思ってたから、ロンデに行ってみるのもアリかもな!」

「じゃぁ俺もついてってみようかなぁ~。ちょっと興味あるし」

「あたしも行ってみたいかも…」



意識を向ければ、周りはロンデの話で盛り上がっていた。

それを横目に、シドは受付へ足を向ける。


「ケイシーおつかれ」

「あぁシドさん、おはようございます。今日はどうしましたか?」

「あーちょっと調べたい事があってな。ギルドにある書物は魔物の物ばかりなのか?」


ギルドにも冒険者が閲覧できる書物が置いてある。

しかしシドが見た事がある物は、殆どは魔物の特性や出現場所、性質といった事柄が書いてある物で、魔物関連以外の書物を見たことがなかった。


「そうですね、ギルドの書物は魔物や薬草といった“依頼”に関するものが主体なので、他は置いてないですね。私はそれ以外で何かあれば、図書館で調べています」


(やはり図書館か…)


「そうか。では、図書館の場所を知りたい。教えてもらえないか?」

「おや? シドさんはまだ、図書館へ行った事がなかったのですね」

「そうだな。以前はギルドと宿の往復ばかりだったから、他の場所は未確認が多いんだ」

「わかりました。街の地図をお渡ししますね。

それから図書館の利用についてですが、朝の9時から夕方4時までの間で利用可能です。入館にはギルドカードの提示が必要になります。その際に利用料として20ダラルを支払います」

「分かった」


「…はい、こちらが図書館の場所が載った街の地図です」

「ありがとう、助かったよ」


こうして図書館の情報を得たシドは、冒険者ギルドを後にした。


-----


ギルドを出ると、図書館の開館時間であった為、そのまま向かうことにした。


地図を見る。

冒険者ギルドは街の北側、図書館は東側にある。シドは西側にある宿をいつも利用していた為に、東側へは今回初めて足を向ける。


図書館は誰もが使える施設で人々に開放はしているが、皆が文字を読むことが出来る訳ではない。

その為に、利用者はおのずと商人や貴族などが多くなる。

シドが今まで寄り付かなかったのは、用事が無かった事もあるが面倒事を避ける為でもあった。

貴族に関わるとろくな事にはならない。シドはブレない男だった。



ギルドから30分位も歩いたであろう頃、シドは図書館の建物へ着く。

図書館の外観は、“優美”というより“実用的”な佇まいで窓も然程多くない様である。

但し、建物の規模は大きそうだ。

入口から見ても全体の大きさは把握できなかった。


(神殿の様な幻想的な建物を想像していたが、無駄の無い重い雰囲気なんだな)


シドは建物の入口へ向かう。

図書館入口は観音扉になっており1枚ごとが大きく高い。多分、数人がかりで開けるのであろうと思しき重厚な扉は、今は開けてあった。開館時間は常に開いているのだろう。

扉を抜け、足を踏み入れる。


「こんにちは。ご利用ですか?」


右手から声がした。

入口、入ってすぐの場所に受付らしき部屋があり、その小窓から人が覗いていた。


「ああ。入館したい」

「では、こちらで手続きをお願いします」


そう言われ、シドは小窓の前に行く。

そこに10代後半と思しき男性がこちらを見ていた。司書になったばかりなのか、受付に回されて気の毒だな、などと失礼な事を思いつつ手続きを終えたシドは、図書館へ入館した。


入口で受けた利用説明は、ギルドで聞いた通り朝9時から夕方4時までの間で利用でき、入館に20ダラル取られる。開館時間内であれば、ずっと居られるらしい。

但し、一度外に出てしまうと再入場には再び20ダラル必要との事だ。


20ダラルと言えば食堂で2回程、定食が食べられる位の金額なのでそこまで高額な訳ではない。

だが、1日に2回も支払うのは気分的に嬉しくはなさそうだ。


(スキル関連の書物は、魔法の書物が置いてあるエリアだな)


入口で凡その分類を聞いてきたので、魔法関連書籍のある場所を探す。

広く静かな廊下を歩きながら、各扉の横にある案内板を確認する。


『歴史・考古学・社会・貴族年鑑…』

『芸術・音楽・美術・工芸…』

『言語学・児童文学・小説…』


(流石に広いな)


案内板を読みながら、今日中に目的の書物が見付かるのか不安になってくるレベルだ。

廊下をいくつか折れた先、回廊脇に小さな中庭があった。


(ここで休憩するのは気持ちが良さそうだな)


建物内は広いが窓が少ない為、所々に魔石を使った明かりが灯されていたが、自然の採光拡がる空間が突如として現れると、解放感と眩しさが身体に染み渡るかの様だった。



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― 新着の感想 ―
> 20ダラルと言えば食堂で2回程、定食が食べられる位の金額なのでそこまで高額な訳ではない。 9時-16時の7時間が冒険者向け定食2食(酒抜き)分って令和漫画喫茶と同額程度だよね? 令和基準でも単価が…
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