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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第三章】共に生きる者

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38. 薬草採取

翌朝2人は朝の混雑時間を避け、少し遅めの時間にギルドへ行く。

ギルドの分厚い扉を開けて中へ入った。


依頼書の掲示板を見れば、昨日のD級依頼は誰も受けた様子もないまま貼ってある。シドは依頼主の情報を覚えると、リュウの選んだ薬草採取の依頼を受付へ持って行った。


「おはよう。今日はこの依頼を受けたい」

「あら、おはようございます、シドさん。リュウさん。薬草採取ですね?この薬草ですと東の森で採れる様ですよ。近場で危険も少ないでしょうが、お気を付けて下さいね」


「ああ、わかった。ところであのD級討伐依頼主の“トワ”という人物は、どう言う人か知っているか?」

「トワさんですか?少し変わった方でして、お一人で森の奥に住んでいます。時々街へ買い物に来る事もありますが、殆ど出てこないですね。60歳位の男性ですよ」


「そうか。その人の家はどの辺りだ?」

「この街から東へ1時間ほど、森に入った所だと聞いています」


「そうか。助かった」

「いいえ、またいつでもお声を掛けてくださいね」

そう言って受付の女性は嬉しそうに笑った。


シドとリュウは受付に背を向け、そのままギルドを出て東門まで歩く。街中を門へ向けて歩いていると、リュウがポツリと零す。


「もう引っかけちゃったわね…」



-----



シドとリュウは街の東門を抜け、すぐ先に見える森へ向けて進む。


ギルドで貰って来た周辺の地図では、この森がリーウッド領の東側の国境一面に繋がっている。昨日の“トワ”という人物の依頼には、この広い“森の中”としか書かれてはいない上、何か特定の魔物の討伐依頼が出ている風ではあるが、要点が一切書かれていない何とも大雑把な依頼書だな、とシドは感心する。


2人はそのまま獣道が出来ている森を、薬草を探しつつ進んで行った。


1時間程森の中を歩いていたところで、大きくはない手作りの家らしき物が見えてきた。

手作りと判るのは“いかにも素人が作った”と言わんばかりの外観からである。実用的と言えば聞こえは良いが、言うなれば“掘っ建て小屋”なのである。


(こんな森の中で、良く一人で生活しているな…)


シドは内心感心もする。

街に慣れた者であれば2日も生活できないだろうと思う程、何もない場所に見えた。

取り敢えずはリュウが扉をノックする。


コンコン

少し待つが声は無い。

コンコン

再度叩いてみたところで同じだった。


「いないみたいだね」

リュウの口調は、2人だけの時でも気を付ける様にしているので、少年口調である。


「そうだな、どうするか…」

「先に薬草でも取りに行く?帰りに又出直しても良いし」

「そうだな」


そう言って2人は家から離れ、北へ移動する。リュウが聞いてきた採取場がこちらの方角らしい。


「多分こっちで合ってると思うんだよね…多分だけど」

前回の白い花の時も、良く分かっていないまま探していた事もあり、今回も採取場所の位置をリュウは胸を張って言えないらしい。でも前回も、間違ってはいなかったので気にする事も無い気もするが、リュウは繊細な様である。


「リュウ、心配しなくて良い。こっちで良いんだ」

「?何で?」

「この先に人の気配がある。だからこっちで合っていると思うぞ?」

「僕には感知できないよ…集中(フォーカス)?」

「ああ。今使っている」


「やっぱりシドは、色々と反則だよ」

「…それは済まないな…」



それから少し行けばリュウにも判ったらしく、足取りは真っ直ぐにその方向へ向かっていた。

暫くすると、木々の隙間から目的地周辺が見えてきた。そしてそこに一人、人が座り込んで草を摘んでいる。

シドとリュウはそこへ向かって足を進めた。


その人物に近付けば、解熱に使う薬草と毒消しに使う薬草を中心に摘んでいる事が分かる。

わざと足音を立てながら、リュウが近付き話しかける。


「こんにちは。僕達もご一緒して良いですか?」

すると話しかけられた人物は顔を上げた。

「ああ…構わん」

それだけ言うと、また薬草を摘み始める。一心不乱に薬草だけを見つめて黙々と。


シドとリュウは顔を見合わせるが、気にせず受けた依頼の薬草を摘むことにした。


そうして20分位作業を続けた時、その人物が立ち上がった。しかし体勢を崩し、又しゃがみ込んだ。


リュウが慌てて駆け寄る。

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ、大丈夫だ。有難う」

そう言って男は顔を上げた。先程は良く見えていなかったが、ちゃんと顔を見れば、その人物は大分憔悴している様に見える。自分の為に薬草を摘んでいたのかと、思える程に。


だがその者はもう一度、今度はしっかり立ち上がるとフラフラと歩きだし、シド達の来た方へ向かって行く。

リュウがシドの顔を不安げに見るとシドは頷き、その人物の傍まで行って肩を貸した。


「送る」

一言シドが伝えると

「悪いな…」

と返事が返ってきた。


「おじさん、その薬草は何に使うの?」

「あ?コレか?…怪我をしてる奴がいるんだ。そいつに使う…だが余り効き目が無くて困ってはいるがな」

声の主は尋ねたリュウを振り返り、困った顔をしている。


「キズの熱か?」

男性の隣からシドが問う。


「ああ…多分そうだと思うんだが分からねえ」

「他の薬は試さなかったのか?」

「試したが何も変わらなかったんだ。唯一この薬草が、辛うじて効いている様だった」

「そうか…神官とかには見せないのか?」

「…見せられねぇ」

「金か?」

「そう言う訳でもない……」


この人物との会話は、何かスッキリとしない…。シドはそんな印象を持つ。

リュウを見れば、リュウも顔を横に振っている。

そのまま彼を支えて歩いていけば、シド達が先ほど訪れた家に辿り着いた。


「ここまでで大丈夫だ。助かった…ではな」

そう言うとシドの肩をスルリとはずし、一人、家の中に入って行ってしまった。


「「………」」


2人は顔を見合わせ困惑気味な顔をする。

「どうする?」

「どうするか?」


その時、家の中から声が聞こえた。

「おい!おい!!しっかりしろ!」


2人は一つ頷き合うと、勝手に家の中へ入って行く。

広くはない家の奥、その床に大きな布団が敷かれてあり、そこに大きな魔物が横たわっていた。


この家の主“トワ”であろう男が、その魔物に寄り添って声を掛けている。


(――?!――)


しっかり見なくても判る。その魔物は“フェンリル”だ。

何と言うヤバイ魔物を家の中に入れているのだろうか…。シドはそう思ったが、リュウは違った様である。

足音を響かせてリュウはトワの傍まで行った。


「リュウ」

シドが堪らず呼びかければ、リュウは頷いただけだった。


「おじさん、トワさん?その魔物の具合が悪いんだね?」

「…人の家に勝手に入ってきたのか…」

「だって大声が聞こえたから、心配になるでしょ?さっきの薬草も、この子に?」


リュウの声が優しいからか、ただ誰かにすがりたいだけかは分からないが、トワはリュウを見ると話しだした。


「こいつは俺の家族同然なんだ。俺と一緒にずっとこの森で暮らしてきた。それが2カ月前、帰ってきたと思ったら家の前で倒れて、それからずっとこのままだ。傷は治らねぇし熱もある様で、もうずっと目を覚まさずに苦しそうなんだよ」


トワは愛おし気な目に心配を滲ませ、その魔物を見つめている。トワも苦しそうだ。


「何が悪いんだ?」

シドも2人の傍によりトワに聞く。


「分からねぇ」

「少し診させてもらっても良いか?」


トワはパッとシドを振り仰ぐ。

「お前、薬師か?」

「すまないが違う。だが診る事は出来ると思う」


「そうか…こいつを傷つけないなら、原因だけでも診ちゃくれないか?」

「ああ」


シドの返事を聞き、トワは場所を譲る。その場所にシドは腰をかがめ、魔物に手を付いた。

そして発動させる“走査(スキャン)”。


シドの触れた場所からゆっくりと全身に向けて知覚が巡って行く。


(-?-何だこれは…)


診れば、フェンリルの腹の中には拳より一回り大きな何かがあり、そこから少しずつ毒が出ていた。この異物が身体に悪影響を及ぼしている様だ。

シドは走査(スキャン)を切るとトワに告げる。


「腹の中に何か埋まっている。それが毒を出し続けていて体力を低下させている様だ。よく2ヶ月もこの状態で持ったな。…で、どうしたい?」


「…助けたい…」


「では答えは一つだ。こいつの腹からこの異物を取り出せば良い」

「そんな事をすれば、傷が治らず死んでしまう…」

「取り出した後、解毒と傷を癒せば問題はないだろう?」

「どうやってこいつに大量の毒消薬を飲ませればいいんだ?量はどれ位あれば良い?そんな事をしている内に、コイツは死んじまうよ…」


トワの言を聞きシドはリュウを見る。リュウは一つ縦に首を振った。


「俺達なら出来ると思うが?」

「何だって?薬師でもないのにどうするんだ?」

「俺達は冒険者だ。多少、魔法も使える」


トワは目を見開く。

「治癒魔法が使えるのか?だったら頼む!今まで来た冒険者達は誰も治癒魔法を使えなかったし、自分で頼める魔術師もいねえから、もう駄目だと思ってたんだ…頼む!」


「分かった。こいつの時間も残り少ない様だし、俺達でやる」


そう告げると、シドとリュウは頷き合ったのだった。


いつも拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

誤字報告も併せて感謝申し上げます。


次の更新は明後日となります。

引き続きお付き合いの程、宜しくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ギルドって詳細不明・内容不十分な依頼でも受け付けるの…?
[一言] フェンリルの強さってどれくらいなんでしょうか? やばい魔物ってのは分かりましたが、程度が知りたいと思いました。作中で分かるのを楽しみにしてます。 毎回、更新楽しみにしてます。
[良い点] 続きが気になる引きだぁ
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