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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第三章】共に生きる者

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35/108

35. 始動 【登場人物まとめ・地図】

本日からまた、シドの物語が始まります。

引き続きお付合いの程、よろしくお願いいたします。

※下部に追加の登場人物などのまとめと、略地図があります。


木々は青々と生い茂り、夕方になっても気温は下がらない。涼しくはない風を受け、シドは空を見上げて雲行きを見る。


(夜は雨になるな)


シドはあの日の翌日に、リュシアンはその翌日にネッサを発ち、2人の痕跡はそこで途絶えた。


一応はオーツにだけ、リュシアンが“旅に出るけれど心配しないでね”と伝えてある。2人が何をするのか解っていたのかも知れないオーツは、ただ頷いてくれたとの事だった。


2人は別々にネッサを出発し、トロイヤまで続く道の途中で森へと入り、待っていたシドと合流すると、それからはずっと森の中を移動した。

あれから一ヶ月、今は国の北東にある国境沿い“オロンジェ領”の北部にいた。


「リュシアン、今夜は雨になりそうだ。洞窟を探そう」

「わかったわ」


2人は地図を手に、大凡の現在地は把握しているが、流石に森の中の洞窟までは地図に載っていない。


(洞窟が見付からなければ仕方がない、タープを張ってやり過ごすか)

そうシドが考えていると、リュシアンが言う。


「タープは遠慮したいわね…」

顔を見れば眉間にシワを寄せている。


先日、雨が降った際にタープを張ってやり過ごそうとしたが、思いのほか長雨となり、結局はタープの下まで水浸しになって“雨宿り”の意味がなかった経験がある。

夏のこの時期は篠突く雨となる事も多い為、出来ればゆっくりと出来る場所を見付け、体を休めたいものである。


「向こうにありそうだな」

「行ってみましょう」


人の余り入り込まない森は下草が生い茂っている。足元に気を付けつつ進んで行く。


「そろそろ食料もなくなるのよね?」

「そうだな、近くにある街まで行く必要があるな。明日辺りにでも俺が買い出しに行ってくる」


そんな呑気な話をしていると、洞窟が見付かった。

シドがまず確認の為、入口付近を見る。魔物の気配もないしダンジョンでもないとみると、一つ頷き中へ入った。


2人はもう手慣れたもので、声を掛けずともリュシアンが歩きながら集めた枝で火を熾し、休憩の支度をする。その間にシドが洞窟内を確認しに行くという動作となっていた。


「ここは少し奥が続いている様だ。ちょっと待っていてくれ」

「了解」


シドは、リュシアンが火の準備を始めた事を確認すると、気配を探りながら奥へと入って行った。

(思っていたよりも続いている…どうするか)


今は集中(フォーカス)を使い、洞内を探っている。生き物の気配自体は何も感じないが、とにかく奥が深い。

だが、最深部まで確認するつもりもなく引き返そうと、踵を返し歩き出す。

だがその時、後ろに何かの気配がした。


シドは振り返りざま飛び退り、剣を抜く。

見れば魔物が地面から湧いて出たところだった。


(!!)

出てきた魔物はゴブリンである。


(…湧いて出た?)

疑問に思うも、まずは目の前の魔物に集中する。スキルは先程切ったので、身体強化と風衣(フロー)のみを掛け、ゴブリンに突っ込んだ。

ゴブリンは5匹いたが、シドのスピードの方が速い。瞬く間にゴブリンを倒すと周りを確認する。


(コレだけか?)

そう考えていると倒したゴブリンが徐々に薄くなり、消えた。そしてそこには魔石が5つ落ちている。


この現象は“ダンジョン”だ。だが、入口には名前がなかったはず…。

シドがそう考えていると白いモヤが現れた。


(やはりダンジョンか…)


≪………≫

現れたモヤは何も言わない。言わないので、シドから話しかける事にした。


≪誰だ?≫

シドは精神感応(コネクト)を入れて話す。


≪………≫


いつもならダンジョンはシドを知っており、まるで知り合いの様に話しかけてくるのだが…。

(コイツは無口なのか?)

シドが斜め上の事を考えているとモヤが揺れた。


≪ワ…ワタ…≫

≪ん、何だ?≫


≪ワタ…ワタシ…は、迷宮(イーリス)

迷宮(イーリス)?≫


≪そう…迷宮(イーリス)、お前が来た…事で目覚めた≫


(――!!――)

≪どういう意味だ?俺が何かしたとでも?≫

≪お前が“迷宮(イーリス)に入る”という出来事を起こした事により…ワタシは目覚める事が出来た≫


≪では迷宮(イーリス)は、たった今生まれたと?≫

≪そうとも言う≫


(……)

今度はダンジョンを生み出してしまった、迷惑なシドである。


≪お前の考えている事は、必ずしも正解ではない。迷宮(ワタシタチ)はいつも生まれており、その上で何かの切っ掛けを得て目覚め、迷宮(ダンジョン)として活動を始める≫


≪俺が来た事により、それが引き金となって迷宮(ダンジョン)として始動した、という事か?≫

≪正解だ≫


何とシドは、ダンジョンの誕生に立ち会ってしまったらしい。しかも、シドのせいで生まれたダンジョンだ。

(ここでは休めなくなってしまったではないか…)

シドはまた、あらぬことを考えていた。


≪そう案ずるな。今出た魔物は、ワタシの目覚めの反動の様なもので、もう出ては来ぬ。ワタシはこれから迷宮(ダンジョン)としての成長を始める。よって今すぐ魔物が湧き出ることも無い。1日・2日は全く問題ないはずだ≫


≪そうか≫


≪それにしても、ここは静かで良い場所だ。迷宮(ダンジョン)としてやっていくのが楽しみであるの≫

<イーリス>は、結構やる気に満ちているらしい。


迷宮(ダンジョン)として落ち着いたら、冒険者を入れたいか?≫

≪そうよの。折角だ、楽しく過ごしたい由に、人間と遊ぶのも良さそうだ≫


≪では俺から冒険者ギルドへ迷宮(イーリス)の事を伝えておく。その後は国中から、冒険者が来る事になるだろうから、賑やかにはなるだろうが≫


≪おお、そうか!それはそれで楽しみである≫


≪いつ頃、準備が整う?≫

≪そうよの。一ヶ月程あれば調整はできる≫


≪分かった。それ位にギルドへ連絡を入れる。楽しみにしていてくれ≫


≪それは感謝するぞ。ところでお前は只人ではないな?≫

≪…俺は“シド”という“再生者”だ≫

<イーリス>は迷宮(ダンジョン)として生まれたばかりの為か、知らなかった様だ。


≪そうか、再生者であったか。お前がここに入るという事が、重要な意味を持っていたのだな。再生者は迷宮(ワタシタチ)とある意味、繋がっておるからな≫


≪そうか…≫


≪シドよ、感謝の意を伝える。“借受(ボロー)”のスキルを追加した。使ってくれ≫

今回の<イーリス>も問答無用である。


≪それは何だ?聞いた事がないので分からないのだが…≫


≪“借受(ボロー)”は文字通り“借りる”スキル。近くにいる人間の持つ魔法属性を、借りる事が出来る≫

≪すまないが…それでは意味が分からない≫


≪言葉とはもどかしいものよの。例えば、今入口におるお前の番である者の魔法属性を火種と例え、お前も自分の魔力を使いそれを発動させる事が出来る。と言うものだ≫


≪では、俺は風魔法しか発動出来ないが、彼女を介して彼女が持っている魔法を使う事が出来る、という事か?≫


≪そうだ≫


その答えを聞いたシドは、物は試しとばかりに借受(ボロー)を入れる。

彼女は回復(ヒール)を使えるはずなので、それを自分に掛けようとするも何も起きない。


≪今やってみたんだが、何も発動しなかったぞ?何が悪いんだ?≫


≪ああ、それは距離だ。“近くにいる人間”と言った通り、対象はお前と“半径50m程までの距離にいる者”という事だ。それ以上離れれば使えん。そのスキルは、近くに魔法を使える人間がいる時のみ活用できるものだ。大したスキルではなくて、すまないな≫


距離の制限はあれど、それでも“大したスキル”の様な気もするが、有難く言葉のまま受け取っておく。

≪充分だ、感謝する≫


≪なに、ワタシを起こしてくれた礼だ。気にせんで良い。それにしてもこの世は楽しそうだな≫

白いモヤが機嫌良さそうに揺れている。


≪では一ヶ月後を楽しみにしている。近日はゆるりとして行くが良い。シドよ、また会おうぞ≫


≪ああ。準備も程々にな≫


シドは手を上げてイーリスを見送ると、踵を返し思考を巡らせながら、リュシアンの元へ戻って行った。





――【追加・登場人物等のまとめ】――


▶主人公「シド(シルフィード)」…頑なにC級ソロ冒険者として活動する剣士(ソード)、189cm、スラリとしているが筋肉質、くすんだ金髪を後ろで束ねている、切れ長の翠眼、顔半分が髭で覆われている、23歳、年齢詐欺、出身ファイゼル領

<魔法=風魔法、スキル=身体強化・迷宮再生(ダンジョンリペア)亜空間保存(アイテムボックス)集中(フォーカス)硬化(インデュレイト)走査(スキャン)精神感応(コネクト)借受(ボロー)

---

・B級冒険者「リュシアン」…貴族令嬢、シドとはアーマーベア討伐で出会う、21歳、ソロの剣士(ソード)、160cm、新緑色の長髪をサイドで編込んでいる、蒼眼、シドの彼女?<魔法=治癒魔法、スキル=軽量化(レウィス)

---

●ニールの街(近くに迷宮<ヘルメス>があるが、人々には知られていない)ソルランジュ領の南西

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●ギャヴィンの街(迷宮<マイトレイヤ>→消滅)ブルフォード領の南西

○冒険者

 ・A級冒険者「ディーコン・ホーラント」…タルコスの街所属・A級パーティ天馬の眼(ペガサスのひとみ)のリーダー、37歳、斧使い(バトルアクス)、195cm、金髪で蒼眼のイケメン、リュシアンの親戚

---

●ネッサの街(迷宮<ドュルガー>)ブルフォード領の南東

○冒険者

 ・B級冒険者「ハケット」…B級パーティ“緋色の流星”のリーダー、剣士(ソード)、190cm、碧色の髪に薄茶色のつぶらな瞳、34歳、リュシアンの知人

○街人

 ・武器屋「ビリー」…武器屋の店主、4年前シドに何の説明もなく“ハヤブサ”を売った

 ・ノウェイン工房「オーツ・ノウェイン」…名の通った武器職人、錬金術師、62歳、シドの剣“ハヤブサ”の製作者、修理して“ハヤブサ・改”を渡す、リュシアンに懐かれている<スキル=錬金術(アルケミィ)対話(ディアログス)



▼シド達の現在地は、地図右側のオロンジェ領北部のダンジョンの所です▼

(見え辛くてすみません)

挿絵(By みてみん)

いつも拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

誤字報告も併せて感謝申し上げます。


また、“ブックマーク・☆☆☆☆☆・いいね”を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。


これからは一日置きの投稿とはなりますが、これからもC級冒険者シドを見守って下さると幸いです。


盛嵜 柊


10月20日修正:作中の“借受ボロー”の距離制限を、半径100mから半径50mに変更いたしました。

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― 新着の感想 ―
すでに番認定されてた!
[一言] 地図は保存して、読むときに横に出しておかないとね
[良い点] …前回の話から1ヶ月…か…そして、相変わらずの二人…そして生まれたてのダンジョンからスキルゲット…人生が濃いなぁ… [気になる点] …そういえば今さらですが、シドやリュシアンが追われてるな…
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