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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第二章】動き出す者達

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31. ネッサの街

今日は朝から、“ダンジョンの様子が違う”と潜った冒険者により報告が入っていたが、具体的な変調には辿り着かず、夕方まで冒険者達はダンジョンへ入っていた。


そして10階層にいた冒険者が魔物の大量発生を確認し、急ぎ戻りながら冒険者達を外へ避難させ、今しがた冒険者ギルドに報告されたところだと言う。

もう今は魔物達も、入口に迫ってきているかも知れない。


「分かったわ。私達で何とか、食い止めないといけないわね」

走りながら事情を聞いていた、リュシアンは言う。


一緒に走っている人々はC級以上の冒険者だという。B級はハケットのパーティと、もう1組のパーティで7人とリュシアン、A級はおらず後はC級の冒険者達で、総勢50人程だ。


「街への避難指示は?」

「ギルドから伝わっているはずだ」

「そう。でも日暮れなのはちょっと厳しいわね…」

辺りが暗くなれば、人々は不安に駆られ易くなり避難も遅れるだろう。


道の先に見えてきた若手の冒険者達が、ダンジョンの入口を固めている。幸いまだ外には出てきていない様だ。


「いくぞ!」

「「「「「おおーー!!!」」」」」


B級冒険者であるハケットが声を上げ、皆でダンジョンへ入って行く。

先頭にはハケットとリュシアン、B級パーティとシドがいる。その後方から他の冒険者達が続いている。

魔法を纏う者、スキルを発動している者がいて、皆、張り詰めている。

シドはチラリと入口の名を確認して後へ続く。


リュシアン達が2階層まで降りると、奥から物々しい地鳴りが聴こえてきた。


「来るぞ!!」


シドも身体強化・硬化(インデュレイト)風衣(フロー)を発動させて飛び出す。


「無理はするなよ!」

「おう!」


あちこちで戦闘が始まった。幸い魔物からの出口は狭く、並び出てくる様に押し寄せる為、こちら側の対応は今のところスムーズにいっている。シドも1匹ずつ確実に仕留めつつ、剣を振っていった。


今は2階層で食い止めているが、どれだけの魔物が上がって来るのか見当も付かない。戦闘が長く続けば人間が先に体力が尽き、魔物に飲み込まれるだろう。

リュシアンもシドも一日中歩き続け、体力は残り少ない。だがシドの集中(フォーカス)を使っても、捌ききれる数でもない。


シドの額から汗が流れる。切っても切っても、魔物は途切れる気配はない。


(拙いな…皆が疲れてきている…)


周りの様子を伺えば、皆黙々と魔物と相対しているが、汗を流しポーションを飲んでいる者もいる。


(行くか…)


シドは無謀にも魔物が群れている中へ突っ込んで行った。


「シドッ!!」

リュシアンの声が飛ぶが構ってはいられない。



「ドュルガー!」

シドはダンジョンの名を叫んだ。その瞬間、魔物に埋もれていたシドが消える。



シドは浮遊感を抜けると、薄明るい穴の中にいた。


≪シドよ…頼む≫

「わかった」

漂う陰に頷くと、すぐさま跪き手にしていた剣をおいた。


シドはダンジョンへ入った時に理解した。<マイトレイヤ>から話を聞いた事もあったが、ダンジョンのスタンピードは迷宮(ダンジョン)をリセットすれば、危機を回避できるのではないかという事を。

だから、リセットさせろと<ドュルガー>の名を呼んだ。そして多分、その答えは間違っていないという事だろう。


そして今は、一刻も早くスタンピードを何とかしなければならない。


「一つ聞く。再生させている間、仲間たちはどうなる?」

≪少し地面は揺れる。だが、それだけだ≫

「了解した」


目を瞑りシドから魔力が立ち上ると、迷宮(ドュルガー)の様子が脳裏に浮かび上がる。16階層の大型だが<ハノイ>と同じ規模だ。そして今度は走査(スキャン)をオンにして、より詳細を診る。

事細かな姿が視える。人の動き、魔物の発生源。入口近くまで溢れ出す蠢く物達を鎮め、理を戻す。<ドュルガー>の(のぞ)む通りに…。


集中(フォーカス)入れたシドは、詠唱する。



聖魂快気(スピチュアルアライヴ)



迷宮(ダンジョン)をほぐし、魔物を吸収し、耕し、攪拌させて…戻す。


シドの纏う魔力が消える。続けてスキルが切れると、シドはその場に崩れ落ちる。体力が限界に来ていたのだ。

それを気力だけで繋いでいたのだが、それも今、切れてしまった。


≪礼を言う…再生者よ。今は戻り休むと良い…我も休息がいる様だ。仲間のもとへ送ろう≫


意識のないシドを影が包むと、その姿は一瞬で消えたのだった。



-----



リュシアンは焦っていた。近くにいたシドが、いきなり魔物に突っ込んで行ったのだ。そして魔物にのまれ見えなくなったと思った後、地震が起こった。


ダンジョン全体が揺れている様で、皆立っていられずに転ぶ者、しゃがみ込む者、壁に掴まる者。揺れが納まるまでは身動きも取れず、ただ唖然としていた。


リュシアンはしゃがみ込んでいた体を起こし、揺れが納まっている事を確認する。皆を見れば無事の様だが…

――魔物は!!――

そう思って見渡しても魔物はいなくなっており、魔物があふれ出ていた辺りには、シドが倒れていた。


「シドッ!」


リュシアンはシドの下へ駆け付ける。怪我は見当たらないが、意識が無いようだった。

鞄から魔力ポーションを出し自分で飲むと、シドに手を添える。


全回復(パーフェクトヒール)


シドを淡い光が包む。

まだ目は覚まさないが、時間が経てば大丈夫だろう。


そう思ってリュシアンは立ち上がろうとし、膝を付いた。

自分も疲労がピークに来ている事は解っている。今度はポーションを出して飲む。あと少し持てば良い。

そこへハケットが来た。


「お嬢、大丈夫か?」

「ええ。少し疲れているけれど、大丈夫よ。貴方に怪我はない?」

「大丈夫だ。他の奴らは怪我人を治療しているし、あっちも大丈夫そうだ。それにしても…何があったんだ?」

「解らないけれど、皆助かった事だけは確かね」

「その様だな」

ニヤリとハケットは笑う。それが思いのほか清々しい顔をしていた事は、皆同じであった。


こうして冒険者達の安堵の息と共に迷宮(ドュルガー)のスタンピードは、最悪を免れたのだった。



-----



次の日の昼、リュシアンはシドのベッドの前にいた。この前の時と、また同じだ。


多分あの魔物達は、シドが何かをしたのだろう…そう思い、未だ目を覚まさないシドを見る。

リュシアンが全回復(パーフェクトヒール)で治癒し、体の不調は取り除いたはずが、まだ眠ったままなのだ。


「シド…」


シドは、前日から何かを感じ取っていた様に時々不安を見せていた。そこへ強行でネッサへの移動の提案だった。理由如何を問わず、従う他リュシアンに選択肢は無いと思った。


シドは不思議な人だ。私よりも強いくせにC級冒険者を続け、自分の限界まで動き、傷つき倒れても、また同じ事をする。

リュシアンにはそれが何故か放っておけなくて、気になっていた。今も眠っているシドをただ見ているだけだが、離れがたかった。


「シド、何をしたの?」


そう言ってシドの頬を撫でる。

今は結っていた髪も解かれ、顔も髭で覆われていても、何故か穏やかな顔をしている事はわかる。

「シド…早く起きてくれないと知らぬ間に、私が居なくなるかも知れないわよ…」


今回の<ドュルガー>ダンジョンのスタンピードは、ブルフォード領内に話が行き渡るだろう。そうなればリュシアンが居た事も知られ、実家から何らかの行動があるかも知れない。連れ戻されるにしても、せめてシドが目を覚まし、ちゃんと別れの挨拶をしてからにして欲しい。

そんな仮定の思考に、リュシアンは躍らせられていた。


リュシアンが顔を上げる。少し考えこんでしまった様だ。そう思ったとき、シドの翠色の眼がこちらを向いた。


「…大丈夫…か…」

シドがリュシアンに問う。


「それは私のセリフよ。何度倒れれば気が済むのかしら、シド?」

「…そう…だな、迷惑をかけて済まない」

「……」


リュシアンは、そんな事を言いたい訳ではなかった。だが口からはそんな言葉しか出てこない。

リュシアンの頬に温かな雫が流れる。

シドはそれを、手で拭ってやった。


「皆、無事だったか?」

「…ええ」


「ダンジョンは?」

「今は立入禁止になっているの。内部の安全が確認出来てから再開、と言う事らしいわ」

「そうか。ダンジョンも無事という事か…」


少しの沈黙が流れる。

リュシアンが堪らずシドに抱きついた。その肩は震えている。

シドはどうしたものかと思いつつも、リュシアンの頭をそっと撫でてやる。


(また迷惑を掛けてしまったな…)


寝ていなかった上に休みなく移動し、魔物と対峙した後、魔力の殆どを放出してしまった。全てが重なり、流石のシドも限界だった様だと、今更ながらに思ったのだった。


そんな事を考えていると、撫でていたリュシアンの頭の重みが増した。シドが撫でている手を止めても動かない。

少し見ていれば、規則正しい息遣いが聴こえてきた。


(寝ているのか…)


横になったシドに抱きついたまま、リュシアンは眠ってしまった様だった。シドは眉を八の字にさせ、暫くこの状況を考察していた。


(仕方がないな)


多分昨夜は、リュシアンは眠っていなかったのだろう。起こす事も憚られ、リュシアンをシドの布団へ引き入れると、シドも又そのまま眠りについたのだった。




それから数時間後、シドの様子を見に来たハケットが扉を開けて固まった。

リュシアンとシドが、何故か一つのベッドで眠っている。

「………」

どうしたものかと思いつつもハケットは、ただ寝ているだけの2人を見なかった事にして、そっと扉を閉めて戻って行った事は、2人は知らぬ事であった。



そして、ぐっすり眠ったリュシアンが目覚め、どこに寝ていたかを理解して、真っ赤になって自室に戻った事はシドには秘密である。


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― 新着の感想 ―
[一言] そっ閉じw
[良い点] ドゥルガーにスキルを使い、一石二鳥ですね!良かった良かった! [気になる点] 今回はスキルを貰えないのな…ちと残念… [一言] …おいシド…嫁入り前のお嬢さんを自分の布団に引き込むなや…責…
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