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3. 港町コンサルヴァ

ロンデの街を出て約一ヶ月。

シドはアルトラス国の南にあるコンサルヴァという街にいた。


コンサルヴァは街の南東側に海が広がり、海の幸も豊富で人々の元気な声が飛び交う、陽気な港町だ。


シドはロンデの街から街々のギルドを経由して、昨日の夕刻このコンサルヴァに着いたばかりである。

昨日は宿を取りすぐに休んでしまった為、今朝は冒険者ギルドへ顔を出す予定だ。

シドはゆっくりと朝食を取ると宿を出た。



ここコンサルヴァには3年程前に一時期逗留していたことがあり、多少は“知ったる街”である。


治安も問題はなく、冒険者ギルドも雰囲気が良い場所だったはずだ。

今回も、特に気負う事無くギルドへ向かった。



朝の受付が賑わうより少し遅く、シドは冒険者ギルドへ到着した。

(朝はみな忙しいからな。この位の時間なら大丈夫だろう)


ギルドの年季の入った扉を開け、受付へ向かう。

「おはよう、ケイシー」


そう声を掛けると、スレンダーな美女がにっこりと笑った。

「おはようございます、シドさん。お久しぶりですね。いつコンサルヴァに着いたのですか?」


前回逗留した時に世話になった受付担当のケイシーが、嬉しそうに返した。


「昨日の夕方着いた。ここも忙しい時間だったから今日寄らせてもらった」

そう返すシドに、ケイシーは丁寧に応対する。

「お元気そうで何よりです。コンサルヴァでしばらく滞在されますか?」

「ケイシーも元気そうだな。ああ、多分しばらく居ると思う」


そんな気安い会話をしていると、ギルドの奥にある飲食場のテーブルから一人、近づいてきた。


「ああ!!やっぱりシドさん!!」


元気に近寄ってきたのは、まだ10代の女の子“チェチェ”だった。

「やぁチェチェ。相変わらず声がデカイな」

笑いながら答えると、チェチェはプックリと頬を膨らませた。


「も~久しぶりに会ったのにそれですか?!」

シドもケイシーも哄笑する。

「チェチェさん。シドさんは昨日こちらに着いたばかりなので、近況報告でもしたらいかがですか?」


ケイシーの言葉にシドも続く。

「そうだな。チェチェ、少し時間はあるか?」


その瞬間、ご機嫌の直ったチェチェは

「はい!!勿論です!!」

と、元気にシドをテーブルまで案内する。


3年程コンサルヴァを離れていたのだから、その間の出来事について知りたいと考えていたところでもあった。

渡りに船である。


「ケイシーありがとう。また依頼を受ける際はよろしく頼む」

「はい、お待ちしておりますね」


そんなやり取りだけ残し、急かされる様にテーブルへ向かった。



席に着いて早々、チェチェは目を輝かせながら身を乗り出した。

「それでね、シドさん。私、D級になりました!」

シドはその勢いに瞬く。


「おお…それは頑張ったな」

「はい!でもそれも、シドさんが街を出てからパーティメンバーが増えたお陰なんですけどね」

少し悔しそうに照れくさそうに話すチェチェを、微笑ましく見る。


「そうか」


「あの頃ちょっと迷ってて…受けられる依頼も少なかったですし。

私が弓使い(アーチャー)、リサが神官(プリースト)だから、薬草採取以外の依頼を受けられそうにないなぁって。そう思って行き詰っていた時に、イオネルさんという人が声を掛けてくれたんです。

イオネルさんは剣士(ソード)で、あともう一人、盾使い(ガーディアン)のトラスさんと2人でパーティを組んでいたらしいのですが、サポートと回復役を探しているから、一緒に組まないかって」


「それでパーティを組む事になったんです。それからは受けられる依頼も増えたので、グングン成長しました!」

眼をキラキラさせ一生懸命に報告するチェチェが微笑ましい。

「ははっ。そうか、良かったな チェチェ」


チェチェは3年前、まだ駆け出しで受ける事の出来る依頼も少なかった。

当時も、幼馴染だと言う“リサ”と一緒に依頼をこなしていたが、どうにも手詰まりだったようで、シドとも1~2回一緒に依頼を受けた事があった。


「最近って、商人の護衛依頼が多いんです。

でもそれは、剣士(ソード)魔術師(ウィザード)がメインのパーティが人気みたいで…。私達だと“護衛”っていうよりも、魔物の討伐向きだし」

悔しそうに下を向いてしまったチェチェの、頭をなでる。


「焦らず、一つ一つの依頼を確実に熟せば、自ずと先は見えてくるものだ」


シドのその一言に顔を上げ、復活するチェチェ。

割と単純かもしれない。

「そうですね!焦らずに頑張ります!」


「そう言えば、今日はチェチェ一人だけなのか?」

「あっそうなんです。リサは神官の用事があって神殿へ行ってます。

それからイオネルさんとトラスさんは、装備品の補充があるとかで別行動してるんです」


そう言って元気になったチェチェと1時間ほど話し、満足そうな顔になった彼女を見送った。




(特に此れと言って変わったことも無かった様だな)


3年間の大筋の話を聞いたシドは、情報を整理する。

チェチェは出会った当時まだF級冒険者だったが、頑張ってD級まで上がったらしい。


(もうすぐ追いつかれるなぁ)


そう思い苦笑する。


シドはロンデの街でカラムに言われた通り、昇級試験を受ければ確実に(・・・)B級へ上がる。

それに、ギルドマスター等と顔を合わせると“受けろ”とせっつかれてもいる。

B級以上の冒険者が増えると、ギルドも強化されて、懸念材料が減るらしいのだ。

だがシドは、C級より上にあがろうとは思っていない為、いつも回避に徹している。


冒険者はB級以上になると、国や貴族からの依頼を強制的に受けなければならなくなる。

頻繁に依頼が出る訳ではないが、首に紐を付けられ“管理”される冒険者には、いくら賛辞が降り注ごうともご免である。

・・・と思っているのは、シドだけかも知れないが。


(まぁ特に、異変もなくて何より…か)

ギルドを出たシドは、手荷物の補充にコンサルヴァの店を回る事にした。



-----



久しぶりの街にじっくり見て回る事にしたシドは、ギルドを出てすぐの武具や防具を扱う店が並ぶ通りを歩く。


(剣もサブが欲しいところだが。予備の剣を持つとなると、荷物か…。

そう言えば<ハノイ>に付与された“亜空間保存(アイテムボックス)”だが、容量を聞きそびれたなぁ…。

いくらあの時、混乱していたとはいえ迂闊だった)


店を見るつもりが視線は(くう)を見ている。

いちど嵌ったシドの思考は戻ってこないらしい。


亜空間保存(アイテムボックス)”は、何でも入れる事が出来るのか。許容量を超えた場合にアイテムは戻ってこないのか、溢れ出してしまうのか…用法・容量を知る事は大切である。


(何も解らん…当分は少しずつ出し入れして、調整しながら様子をみるしかないか)


この世界では自分の持っているスキルであっても自力で認識する事は、ほぼ無い。たまたま使えるようになって初めて、スキルを認識する事が常である。


但し“身体強化”は、冒険者には“欲しいスキル”であり、冒険者になった者は“身体強化”を使えるようになるべく、意識して体を使う為、持っていればスキルがあると気付く者も多い。その為“身体強化”は唯一、認識し易いスキルと言える。


(それと“迷宮再生(ダンジョンリペア)”か…。コレについては書物で調べてみるか。効果は先日のアレが全てだとは思うのだが。一応、な)


だが、効果云々よりも引っかかるのは、“迷宮再生(ダンジョンリペア)”が『ごく稀にしか現れないスキル』と言われた事である。


(これは、他人に絶対に知られたらダメなヤツ、だろうな)



国にいる希少なスキル持ちは、存在が知られてしまうと、国や貴族に目を付けられて飼われる、と言われている。

そんな事にはなりたくない。極力、回避したい事項だ。


(そんな奴らと関わりあうのは、まっぴらご免、だ)


そこでやっと思考が止まったシドは、今度こそ店を回る事に意識を向けた。




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― 新着の感想 ―
[一言] アイテムボックスの中身からっぽにしてから、一旦ひたすら海水とか川の水入れて、それを出せた量はかればだいたいの容量わからんかな?
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