21. 首途(かどで) 【登場人物まとめ・地図】
この回は、区切りの関係で少し短めです。ご了承下さい。
そしてページの下部に、ここまでの登場人物などのまとめと、略地図があります。
引き続き、お付き合いの程よろしくお願いいたします。
“竜の翼”がB級パーティになり一週間ほどが経った。
彼らがB級に上がった頃は、コンサルヴァに所属する冒険者達も、自分達の街から上位パーティが出た事に浮かれ賑わっていたが、今はもう慣れてきたのか、ギルドは落ち着きを見せている。
シドはその間も、朝の混雑を避けてギルドへ行き、細々とした依頼を受けての通常運転であった。
因みに、先日絡んできた男(リッコらしい男)とは、あれ以来顔を合わせていないが、どうやらシドに剣を買われた事が悔しかったらしく(意味が解らない)八つ当たりで絡んで来た様だと、ジョージクが謝ってきた。
だがそもそも、ジョージクが悪い訳でもなく、それをただ受け流したシドは、元々そんな事は気にもしていないが。
そのシドが買った剣は、あれ以来、腕の一部になった様によく働いてくれていたし、シドも大切に扱っているので何の問題も無い。
それに、新しい剣の確認を終えた事もあり、そろそろ折れた剣の修理をする為に、街を出るつもりだ。
シドが街を離れれば、細かい事は時間が解決してくれるだろう。
シドは昨日、武器屋のゴードンと話し、新しい剣の具合と“ネッサ”に行く旨を伝えてある。そして、ギルマスにも、街を出る事を連絡し、そして本日、今から出立する予定である。
今朝シドは、まだ陽も登りきらぬ内に宿を出た。女将のネリイには昨日、挨拶を済ませている。この時間は人通りもまばらで、酔っぱらい位しかいない。静かな街中を北門へ向かって一人歩く。
そして街を出たシドは一度、立ち止まり振り返る。その内にまた来る事もあるだろう。コンサルヴァの街を一瞥し歩き出そうとした時、門の所に人が立っている事に気付いた。
その人物は、シドへ向かって手を上げる。
その大きなガタイは見間違えようもない、ジョージクだ。
シドも、それに手を上げ応えてからジョージクに背を向けると、コンサルヴァを出発した。
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これから行くネッサは、コンサルヴァの北北東に繋がるソルランジュ領を越えた、更に東にあるブルフォード領の奥、山岳に囲まれた場所にある。高い山々に囲まれていて、その頂を越えると隣国となるが、その険しい頂を越える者はまずいないだろう。
そして、その山々では上質な鉱石が取れる事もあり、ネッサは武器等の金属加工が盛んな、工業都市としての一面を持った賑やかな街でもある。
その上、ネッサにはダンジョンもあり、冒険者も多く滞在している。
シドも4年前にネッサへ一度行った事があり、その時にこの剣を手に入れた。滞在は2週間ほどだったが、種種雑多な街であった事は覚えている。
その様子を思い浮かべ(あの武器屋はまだあるだろうか…)とシドは失礼な事を考えていた。
そのネッサまで休みなく行っても、1週間近くかかる。道中の事を今は何も考えてはいない。行き当たりばったりで進む予定だ。それもシドらしい考えである。だが、一応は最初の道筋は決めてあった。
まずは、ブリュー村の近くを通り、その先の分岐で東へ入る。そこから暫く道なりに進むとソランジュ領へと繋がっていて、ニールの街が見えてくるはずだ。先日会った冒険者は、ニールから来たと言っていたな。そんな事をふと思い出すが、それも一瞬の事で、シドは黙々と北へ向かって歩いて行った。
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まだ朝と呼ばれる時間に、シドはブリュー村へ到着する。村人の多くが畑に出て作業をしているらしく、すでに村は活気付いているようだった。
村へ入って行くと、先日見た顔が見えた。村長のポールだ。
シドはポールに向かって近付いて行くと、ポールも気が付き、シドの顔を見て笑顔で挨拶をして来た。
「おはようございます。先日の冒険者の方ですね、色々とその節は有難うございました」
そう言って一礼する。
「おはよう。近くを通りかかって寄ってみたんだが、その後アルミラージは出るか?」
「いいえ、あれからは姿を見せていません。やはりあの魔物のせいだったのでしょう。静かなもんです」
そう言ってニッコリ笑った村長は、少し肌の艶が増しただろうか。血色も良さそうだ。
「あぁっ先日の肉はとても美味しく頂きました。皆で分けても十分なほどありましたので、皆大喜びです」
「そうか。それは重畳」
「はい。本当に色々と有難うございました」
「また何かあれば、ギルドへ相談してくれ」
「ええ、そうします。…あの、これは大した物でもございませんが、この村で採れた物でして、宜しければお持ち下さい。」
村長はそう言って、真っ赤な“トムト”を籠に入れて渡してくれた。シドは有難く受け取る。村長はそして、と続けた。
「これは、あの魔物から出てきました。こちらはあなた様にお渡しする物だと思いますので、お渡しいたします」
そう言って渡された物をみると、1つの魔石であった。シドは、もう一度村長の顔を見れば「お持ち下さい」と促されたので、こちらも有り難く受け取る事にした。
こうしてシドは、笑顔の村人達に手を振られつつ、ブリュー村を後にした。
街道へ戻ったシドは、今貰ったばかりの真っ赤なトムトを齧る。
採れたてなのか、瑞々しく優しい酸味があり、とても旨い。それは早々にシドの朝食になった。残りのトムトと貰った魔石を亜空間保存へ入れると、北へ向かい歩みを進めた。
昼頃になり、道の分岐路へ差し掛かる。
ここから北へ向かえばエポの街、東に向かうとソルランジュ領へと繋がる。だが、東側の道は余り整えられておらず、馬車の轍が残っている。その先では森の中を貫く道になっている為、見通しは悪くなる。シドは遠方に見える森を確認すると、東への道を歩き出した。
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シドがコンサルヴァを出た、その日の同時刻、ノックス領のキリルの街にある冒険者ギルドへ、E級の冒険者パーティが飛び込んできた。その者達は朝、薬草採取の依頼を受けて出て行ったばかりのはずが、戻るなり大声で話し出した。
「ダンジョンだ! ダンジョンが出た!!」
興奮気味で要領を得ない、まるでお化けでも出た様な言葉であったが、聞いていた者達はすぐに意味を理解して、色めき立つ。
すると、ギルドの奥からこの街のギルドマスターが出て来るなり、そのE級パーティを連れて引っ込んで行く。
昼の時間でいくら冒険者達も少ないとは言え、これはすぐに街中の噂になるだろう。
冒険者ギルドは真実を確認し、事実を公表する義務がある。
それから数時間の間、キリルの街の冒険者ギルドの中は、大変な騒ぎであった。
そして、話を聞いたギルド職員らにより検証を行った後の翌々日、キリルの街の冒険者ギルドから国中の冒険者ギルドへ、通達が届く。
『キリル・冒険者ギルドより通達~キリルに新しくダンジョンが発見された。そのダンジョンの名は<ウラノス>。ダンジョンの内部調査を含め、多くの果敢な冒険者を求む~』
と。
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――【ここまでの登場人物等のまとめ】――(ここまでのネタバレ含む。下部に地図あり)
舞台…アルトラス国
▶主人公「シド(シルフィード)」…頑なにC級ソロ冒険者として活動する剣士、189cm、スラリとしているが筋肉質、くすんだ金髪を後ろで束ねている、切れ長の翠眼、顔半分が髭で覆われている、23歳、年齢詐欺、出身ファイゼル領
<魔法=風魔法、スキル=身体強化・迷宮再生・亜空間保存・集中>
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●ロンデの街(迷宮<ハノイ>)国の北西に位置、シュナイ領
・B級冒険者「カラム」…剣士、シドをパーティへ誘っている
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●コンサルヴァの街(ダンジョン無し)国の南部に位置、港町、スワース領の南東
○冒険者ギルド
・ギルドマスター「アーロン」…50歳代、体格が良く頬に傷跡が残るワイルドな男、面倒見が良い
・ギルド受付「ケイシー」…20歳代、丁寧で気が利くギルド職員、スレンダーな美女
○冒険者
・B級冒険者「ジョージク」…ソロで活動、大剣を使う剣士、シドよりも一回り大きい体格、赤茶の癖のある髪に翠眼、28歳、3年前にもシドと一緒に討伐をしていた、友人
・B級冒険者「ペリン」…パーティ竜の翼(C級→B級)のリーダー、槍使い、185cm、藍色の髪に碧眼、24歳、頼りになる存在、イケメン
・C級冒険者「ルナレフ」…竜の翼のメンバー、魔術師、178cm、赤髪に柑子色の眼、24歳、後にB級へ昇格、少しお調子者
・C級冒険者「ミード」…竜の翼のメンバー、神官、180cm、薄茶の長髪に琥珀色の眼、23歳、後にB級へ昇格、静かだが誠実
・C級冒険者「テレンス」…竜の翼のメンバー、盗賊、170cm、黒髪に黒眼、22歳、後にB級へ昇格、皆のサポート役
・D級冒険者「チェチェ」…弓使い、158 cm、黒髪に茶色の目、18歳、幼馴染のリサ(神官)とイオネル(剣士)・トラス(盾使い)とパーティを組む
○街人
・商人「マッコリー」…41歳、コンサルヴァで商いを営む。妻(38歳)と長男(14歳)・次男「デュラン(7歳)」の4人家族、御者はロニ
・武器屋「ゴードン」…武器屋の店主、58歳、冒険者ギルドの傍に店を構える、シドを密かに気にかけている
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●エポの街(ダンジョン無し)王領の南に位置するノックス領の南部
○ノックス領/エポ配属騎士団「マルムス」…騎士団長、190 cm、45歳位、実家は男爵
○冒険者ギルド
・ギルドマスター「ダリル」…40歳位、198 cm、ガタイが良い元冒険者、豪快
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●キリルの街(ダンジョン無し→迷宮<ウラノス>)ノックス領の北部、王都エウロパまで1日の距離
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●エガニ村(ダンジョン無し)チーピのハンスがいる
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●ブリュー村(ダンジョン無し)コンサルヴァの北、村長はポール
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●ニールの街(ダンジョン無し)ソルランジュ領の南部、コンサルヴァの北北東
▼出てきた場所までの名前が入った略地図です▼(上手く描けなくてすみません)




