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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第一章】始まりの迷宮

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20. ギルドの喧騒

ゴードンとシドは店の中へ戻ると、シドは剣の支払いを済ませる。

「安くしといたぞ」とゴードンは笑った。それでも金貨10枚であるのだが。


因みに、この剣も修理は無理だと最初に念を押され “折るなよ” と忠告を受けた。シドも剣を折りたくて折った訳ではないのだが、ここは大人の対応で “大事に使う” と言っておいた。ゴードンも口角を上げ “頼むぞ” と返し、シドは武器屋を出た。



店を出たシドは、少し先の裏道へ滑り込むと、人の居ない事を確認し亜空間保存(アイテムボックス)を開く。中から残っていたアルミラージを取り出し、腰に差していた剣を入れると、亜空間保存(アイテムボックス)を閉じた。

そして、手に持っていた新しい剣を腰に下げると、アルミラージを片手に冒険者ギルドへ向かった。



辺りはもう暗くなり始め、街中では店々の明かりが灯り始めている。人通りの多い道からシドは、冒険者ギルドの扉の中へ入った。


入ったギルドの中は大勢の人で溢れ、奥のテーブルでは皆、酒を飲んでいるらしく騒がしい。人の合間を縫ってシドは受付へ辿り着いた。


「何だ?今日は皆凄いな…」

「シドさん、お帰りなさい。先程、“竜の翼”の方々の昇級試験が終わったので、皆さんそのお祝いで浮かれているようです」

「そうか」

「はい、ギルドマスターも、今日は少し騒がしくても大目にみる様にと、言ってました」

シドは一つ頷く。昇級試験は3人共、上手くいったのだろうと思えた。


「で、忙しいところすまないが、今日の依頼報告なんだが」

「はい、承ります」


それを聞き、シドは手にしていたアルミラージを出した。

いきなりのアルミラージに、目を見張るケイシーも可愛い。


「えっと、シドさんは今日、アルミラージ討伐でしたね?という事は無事に終了という事で宜しいでしょうか」

「ああ、そうなると思う。だがそれについては一つ報告がある。ギルマスの時間をもらえるか?」

「ちょっとお待ちくださいね」

そう言ってケイシーは確認してくれる。


「はい、今は大丈夫の様なので、奥へご案内しますね」

ケイシーと一緒に、シドは奥の扉へ入ると、ギルドマスターの執務室へ案内された。

「こちらへお入り下さい」

そう言ったケイシーは一礼して入室すると、アーロンとシドにお茶を入れて戻っていった。




「ご苦労だったな、シド。何かあったか?」

アーロンが切り出す。


「ああ。一応報告なのだが。

俺は今日、ブリュー村のアルミラージ討伐依頼を受けた。だが、アルミラージが村へ入ったのは、別の魔物に追い立てられたからだった様だ。俺はたまたま村の近くの森でその魔物と、ソルランジュ領から来たという冒険者にあった。それで話を聞いたところ、その魔物にソルランジュの村人が襲われ、討伐依頼が出て追っていたらしい」

「それでその魔物は?」

「アーマーベアだ。その冒険者が討伐した」

それを聞きアーロンは唖然とするも、安堵の息をつく。


「それで俺は、アルミラージの討伐だったんだが、アーマーベアが来たせいで、巣に戻れなくなり村へ来た様だから、アーマーベアもいなくなったし住処に戻ると踏んで、全滅はさせていない」

そう聞いたアーロンは頷く。


「村へは?」

「報告はした。全滅はさせていないが、村に来る事はもうないはずだと、説明はしてある。だが、また万が一現れる様なら、ギルドへ伝えてくれと言ってある」

「解かった。ご苦労だったな。シドの依頼も一応は完了で受けるが、又出る様なら対応してくれ」

「ああ」


アーロンへの報告は終わったが、アーロンはまだシドを見ている。


「シド…剣が違うな」

アーロンには直ぐにばれた。


「ああ…今日、折れた…」

「は?あの剣がか?」

「…刃先にヒビが入った」


アーロンも又、シドの剣が普通の物ではない事に、気が付いていた。その為、あの剣が折れるとは思ってもいなかった様だ。


「何でまた、アルミラージで折れたんだ?」

シドは眉間にシワを寄せ、黙る。


「…おいシド。今度は何したんだ?お前」


これは黙っていても逃がしては貰えそうもないと、渋々、シドの口が開く。

「…アーマーベアの鉤爪で折れた」

「何だよ、シド。アーマーベアはお前がやったんだな?」


「いや…ちょっと…助太刀で入っただけだ…」

シドの声が小さくなる。

アーロンに睨め付けられ、シドは頭を掻く。


「ああ、そうだ。俺がアーマーベアを殺った。でも俺が受けた依頼じゃないし、その冒険者に報告は頼んだ」

「何やってんだ、お前の手柄だろう…しかもアーマーベアは、B級の討伐対象だぞ」

「別に手柄が欲しかった訳でもないし、たまたま行き当たっただけだ。それに俺はアルミラージの依頼があったから、そちらを優先したまでだ」

シドは開き直った。やけくそと言う奴かもしれない。


「は~~」

アーロンのため息が漏れる。

「そうかよ…。どうせまた、知られると面倒くせーとか思って、黙っていようとしただけだろうが…」

大当たりである。


「まぁいい。アーマーベアは取り敢えず討伐もできた訳だし、な」

アーロンの言葉に、シドは胸をなでおろす。


「それで、臨時の剣か?」

新しい剣を見て、アーロンは言った。

「急きょ、帰りにゴードンの所で買ってきた」

「見せてくれ」


アーロンも元剣士(ソード)だ。剣には未だに興味がある。


シドは腰から剣を鞘ごと抜くと、アーロンへ渡す。アーロンは渡された剣を鞘から抜くと、キラリと光る刀身を見た。

「キレイな剣だなぁ」

「ああ、俺もそう思う。それに軽くて手に馴染む」

「ん?軽いか?」

アーロンは不思議そうに剣を見ている。


「俺には軽すぎる事はないな。むしろ他の剣より重く感じるぞ?」

「?…そうか?まぁダンジョンから出た剣の様だから、何か不思議な事でもあるのかも知れないな」

「ダンジョンから出た剣か…そうかもな」


そう言ってアーロンは剣を仕舞うと、シドへ返した。


「折れた剣が直るまで、当面はこいつを使うつもりだ。あぁそれで、さっきアルミラージの件を受けたところで悪いんだが、近々、剣の修理でコンサルヴァを出ようと思う」

「この街では修理できないって事か?」

「ゴードンには、買った所へ持って行けと言われた。だから“ネッサ”まで行く」

「そうか、ネッサで買った剣だったか…」

アーロンは思案顔で黙り込んだ。


そしてシドへ目を向けると「わかった」と伝える。

「アルミラージの件は大丈夫だろう。だが一応、出発前にも声を掛けてくれよ」

「了解した」




こうして、執務室での報告の様な雑談を終えると、シドは受付へ戻った。


ケイシーが目ざとくシドを見つけ、声を掛ける。

「シドさん、ご報告は終わりましたか?」

「ああ。だから今日はもう上がらせてもらう」

「はい。お疲れさまでした。気を付けてお帰り下さいね」


そう言ったケイシーに手を上げ、シドは冒険者ギルドの扉へ向かって歩き出した。


するとそこへ声が掛かる。


「あ!お前の剣、あの武器屋のクソ剣だろう!」

そう大声で絡んでくる奴がいた。どうやら酔っぱらっているらしい。


シドはそれを無視して扉へ向かうが、そいつは絡みついて来た。

「そんな切れない剣を持ってどーすんだ? お前そんな剣で魔物が殺れるのか? お飾りの剣か? えぇ?」


こいつは大概である。そう言えば、ゴードンが試し切りをさせた奴がいると言っていたが、こいつの事だったのかも知れないと、思い当たる。


シドは立ち止まると、その男を真っすぐに見て、腰の剣に手を掛ける。

「切れるかどうか、お前の首で試そうか?」


俄かに雲行きが怪しくなってきたところへ、声が割り込む。


「おい!リッコ!やめろ!!」

こいつはどうやらリッコと言う名前らしい。どうでも良いが。


その男は引きずられる様にして、奥へと連れ戻されて行く。

そして入れ替わる様に、奥のテーブルから熊が出てきた。


「悪いシド。あいつ酔っぱらってやがるんだ。ここは引いてくれないか?」

言ったのは、熊ではなくジョージクだった。


その顔を見たシドは、剣から手を離した。

「俺も本気じゃないから大丈夫だ。祝いの席で騒がせて、すまなかったな」


「昇級おめでとう」

そう言ったシドは、奥に居た“竜の翼”の4人に手を上げて、冒険者ギルドを静かに出て行った。



11月8日:前書きの「気分を悪くするかも」という記載は、削除いたしました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 身構えてましたが全く不快感はありませんでした のんびり癒やし系ですね
[良い点] ここまで一気読みしました。 今のところ、わりとのんびりした作品ですね!こういうのも好きです。 前書きのお気遣い、ありがとうございます。 私個人的には、最後のあれは他の作品の様々な主人公へ…
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