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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第一章】始まりの迷宮

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19. ブリュー村と剣

シドは、アーマーベアと対峙した場所から南へ下り、少し遠回りに回り込む様にして村へ向かう。


いくらアーマーベアの気配が無くなったと言えど、アルミラージもまだ警戒して、先程の場所の近くには出ないだろう。そう考えての行動である。

そして村に近くなった辺りで、薄い気配が広がっている事に気付く。アルミラージだ。大型の気配が無くなったので動き出したのかもしれない。低木や草に隠れる様にして群れている。


シドは気配を殺し近付いて行く。しかし、シドはその手前ではたと立ち止まる。

そこでやっと思い出したのだ。“剣は使えない”のだと。


(仕方がない。魔法でいくか)

握っていた剣から手を離し、再び歩み寄る。アルミラージが魔法の射程圏内に入り、シドはそこで詠唱する。


礫の風(ストーンブリーズ)


礫の風(ストーンブリーズ)は威力は小さいが、風に砂利や小石を含ませて放つ魔法で、広域に効果が出る。今の場合は小さい魔物で数が多い為、威力よりも範囲に重きを置き使用したのである。


「ピキー」

「キキー」

あちこちでアルミラージの鳴き声がする。


ここにいるアルミラージを、元々全滅させるつもりはない。ある程度の数を減らしここに“敵がいる”事を認識させて、元居た生活圏に戻ってくれればそれで良いと考えての事だ。

このアルミラージ達も、アーマーベアから脅威を受けただけであるのだから、村への被害が無くなればそれで良いと、そう思っていた。


気配を探れば、今の一撃で少数が倒れたらしい。シドは、アルミラージ達に気付かれる様に姿を見せると、歩き出し、今度は風の道(ウインドブレス)を木々に当てた。突風が木々を揺らし木の葉が舞い落ちる。

アルミラージ達は、更なる危険が迫った事を察知し一斉に北へ向かって走って行く。走り抜けた直後、その風圧で木の葉が舞い上がった。まさに“脱兎の如く”である。


シドは倒れているアルミラージを回収すると、村へ向かった。


森から畑に出た。村は然程の大きさでは無いようだが、畑がきれいに並んで広がっていた。その畑に、作業中であろうか、人がちらほら立っている。シドが畑の畦道を歩き村へ入ると、近くの畑にいた者から声が掛かかった。


「何か用か」

不審者として警戒されている様だ。それはそうである、シドはちょっとばかり怪しい。


「俺はギルドの依頼で来た。ここはブリュー村だろうか」

「そうだ。アルミラージの件か?」

「ああ、その事で話があるのだが、誰に話せば良いんだ?」

「そうか…一人か?」

「ああ」

男は一つ頷いた。

「村長に話してくれ。俺が案内する」

「頼む」


一応は話が通ったらしく、村長の所へ案内してくれるらしい。

「こっちだ」

首から手拭いを垂らしている男が、畑から出てシドの隣に並んで歩き出した。


「兄さんがアルミラージをやってくれるのか? 3日位前から畑に現れてな。追い払っても又来やがる。山側の畑がやられちまって困ってるんだ。 何とかしてくれ…」

どうやらこの男は、これからアルミラージの討伐をすると思っているらしい。


「そうだったのか、だがもう来ないと思うから大丈夫だ」

「え??…もう討伐してくれたのか?」

「ああ」

「そりゃー良かった。…ここだ。村長を呼んでくる」


男は、村長の住まいであるらしい家に勝手に入って行くと、すぐに一人の男を連れて戻った。


「話は少し聞きました。私はブリュー村の村長をしているポールです。昨日出したアルミラージ討伐の件とか…」

「ああ。冒険者ギルドの依頼で来た。俺はシドと言う。今しがた、山の中を探ってアルミラージの数を減らして来た。全滅はさせていないが、もうこちら側へ来ることも無いだろう」


「あの…全滅していないのであれば、また村へ来てしまうのでは…」

シドは一つ頷く。

「確約は出来ないが、それは大丈夫のはずだ。アルミラージは他の魔物が居たから、巣に戻れなかったらしく、それで村へ近付いた様だった。その魔物は対処したから巣へ戻れるだろう」

「え?アルミラージを追い立てる魔物が、森に居たのですか?」


「アーマーベアがソルランジュ領から侵入してきていた。ソルランジュの冒険者がそいつを討伐したから、アルミラージも巣へ戻ったはずだ」

「何と!」

そう言って村長は言葉を失った。

村の近くに、知らぬ間に危険な魔物が来ていた訳で、何もしなければ、今頃はこの村が襲われていたのだ。


「そうですか…それを討伐して下さったのですね。それではアルミラージも、もう大丈夫かも知れません。有難うございました」

「いいや。でもまたアルミラージが出る様なら、冒険者ギルドへ連絡してくれ。俺の方からもギルドには伝えておく」

「はい。そうさせて頂きます」


話は終わった。だが、シドは動かない。

まだ何かあるのか、と村長が声を掛けようとした時…


「村長、肉はいらないか?」

シドも、いきなりである。空気も前置きも何もない。


だが、この村の畑に被害が出ていると聞いていたので、アーマーベアの肉をこの村へ渡そうと、先程もらっておいたのだった。これを是非に渡したい。不器用なシドの心遣いなのだ、許してほしい。


「あの…肉ですか?」

村長が顔に“?”をくっつけて聞いてくる。

「ああ。まだ血抜きをしていないので手間は掛けてしまうが、村の皆には行き渡るだろう」


そう言ってシドは、村長の返事も聞かぬ内に亜空間保存(アイテムボックス)を開き、アーマーベアを取り出した。

村人達は、2重の意味でビックリである。


先程案内してくれた男も傍で話を聞いていた為、これがアーマーベアだと気付いたらしく話に加わる。

「村長、皆で分けよう!畑の収穫も減っちまったし、こいつのせいで畑が荒らされたんだ。美味しく頂こう!」

首から手拭いを下げた男は、顔を赤らめ興奮している。

村長はチラリとその男を見ると、シドへと向き直った。


「お気持ち、有り難く頂戴いたします」

と頭を下げた。

「貰ってくれ。あぁ後、アルミラージも少し狩ったから、置いていく。これも貰ってくれ」


シドは無造作に、10匹のアルミラージを取り出す。

またまた目を丸くした村長を気遣う事無く、シドはブリュー村を後にしたのだった。



-----



村からの帰りはのんびりと歩き(それでも普通の人よりは速いが)コンサルヴァへ戻った。


数日かかると思われたアルミラージだが、割とすんなりと終った。だが、今はもう夕方で、遅くなると店が閉まってしまう。

シドは街へ戻ると、真っすぐに武器屋へ向かった。


(やはり予備の剣は買っておくべきだった)


4年間つかっていた剣は、気持ちよく働いてくれていた為に、予備の剣を持つという事を疎かにしてしまっていた。

だが、これでも一応は街々で武器屋も覗いていたのだが、やはりコレと言う物がなく、購入には至らなかったのだ。

しかし、贅沢を言ってはいられなくなってしまった。シドの剣は使えない。これ以上無理をして使えば、刃先が完全に折れてしまうだろう。

この剣を修理に出すにしても、その間を手ぶらで過ごす訳にも行かず、武器屋を訪れる。


武器屋は、冒険者ギルドへ続く通りにある。

この辺りは武器屋や防具屋、道具屋や薬屋など、冒険者に必要な品が揃う店が並ぶ。

シドは通い慣れた道の、一軒の武器屋へ入った。


この店は、シドも良く利用していた。

剣は買わずともナイフや他の物を購入していたので、店主の顔も名前も知っている。


「おーシドか、どうした?」

店の扉を開け入店すると、それに気付いた店主から声が掛かる。


途端、シドの眉間にしわが寄る。

「剣が折れた…」

「はぁ?? お前の剣が折れたのか!?」


ここの店主ゴードンには以前、剣を見せた事がある。こんな感じの剣をもう一本欲しい、と相談したのだが、“こんな剣はここにはあるはずが無いだろう!”と、何故か怒られたのも、良い思い出だ。


ゴードンの前に、シドは剣を置いた。

「ゴードン、修理は出来るか?」

「……。この街じゃ無理だな」

「そうか…」


「その剣は作った処へ持って行かなければ、修理できないだろうよ。ったく、その剣を折りやがるとは…」

「アーマーベアの鉤爪にやられた…」

「ほえ?お前さん、アーマーベアと遊んできたのか?」

「…ばったり会った」

「そりゃー気の毒になぁ…」

2人の会話はいつもこんな感じであった。


「そーか。それじゃその剣は使えんなぁ。だが、お前さんの気に入る様な剣は………」

そう言ってゴードンは黙り込んだ。


だがすぐに、ポンと手を打つと

「そういや先日、他の街のダンジョンで出た剣が、回ってきたんだった。シド、見てみるか?」

「ああ、見せてくれ」


そう言うとゴードンは、一度店の奥へ入ってすぐに戻った。


「コレだ。ファイゼル領の<ボズ>ダンジョンで出たらしいんだが、変わった奴でな。いくら研いでも切れ味が悪いと言うんで、誰も欲しがらずに流れてきたんだ。ちょっと持ってみろ」


シドは言われた通り鞘をつかむと、店主から離れて剣を抜いた。


―― シュリーン…ッ ――


抜いた剣が鳴く。刃先は光を受けてキラリと輝き、角度を変えると虹色に見える。


「キレイだな…」

シドは思わず呟く。

「そうだろう?見た目は美しいんだが、切れ味が悪いってんで買う者がいないんだ。この前も冒険者が見せろと言って出したんだが、使い物にならねぇ屑だと言ってやがった。自分で見せろと言ったくせに…」

ゴードンの後半は愚痴になっていた。

シドはそれを、聞くともなく聞きながら剣を見ている。


(手に馴染むな。刃も綺麗だ。そのうえ軽い…)


「ゴードン、ちょっと振ってみていいか?」

「ああ。だが周りには気を付けてくれよ」

コクリと頷いたシドは、更に店の中央まで下がると、剣を振った。


―― シュンッ ― シュンッ ――


「いい感じだ」


シドは気に入った様だが、まだ切れ味の問題が残っている。それを見たゴードンが声を掛けた。

「裏へ廻れ」


ゴードンに促され、試し切り場になっている店の裏へ出る。そこには丸太、矢の的や藁を十字に立てた物などが、試し切り用に並んでいる。

シドは、そこから丸太を1本、腰ほどの高さの台の上に立てると、剣との間合いを取って剣を抜いた。


「切れるか判らんが、試してくれ」


ゴードンからの言葉に一つ頷くと、剣を構え横なぎに払う。


―― スコーーン ――


丸太の半分が飛んだ。

シドは、剣を確認するも傷が無い事に安堵し、丸太を乗せた台へ近付く。丸太は綺麗な切り口をして、負荷がかかった様子もない。


「切れたなぁ…」

ゴードンが後ろで呟いている。


「どうだ?シド」

「ああ、いいな。こいつにする」

「そうか…。この前の奴は丸太に剣が半分埋まってな、抜くのが大変だったんだが…」

ゴードンは眉毛を下げて、困ったように笑っている。


この剣で、当面の問題はなくなった。


シドは一つ懸念事項が減った事に気を取られていたが、ゴードンは“この剣は人を選んでいる”と、はっきりと確証し、コイツは大物かよと、C級冒険者のシドを呆れた顔で見ていたのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 他人の成果にして、昇級の危険はシレッと回避w
[良い点] 欠かさず手入れをする割に無頓着なのね。
[一言] 試し切りが藁じゃなく丸太…せっかく藁があるのに丸太… 人には切り付け叩きつけても故障しない筋肉と骨を、剣には木に叩きつけても欠けず折れず曲がらずを要求する世界なのか
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