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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第一章】始まりの迷宮

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18. 魔物討伐

シドが気配を頼りに辿り着いた先に居たのは、アーマーベアと小柄な人物だった。


アーマーベアは褐色をした体毛を持つ巨大な熊型の魔物で、目の前に居る個体の体長は4m位あると思われた。

手の先には長く鋭利な鉤爪を持ち、獰猛で気性も荒く、一度目の前に立てば執拗に狙われ続け、逃げる事も困難な冒険者泣かせの魔物である。


その近くに立つ者は、フードを頭から被った少年の様だ。


その少年は、アーマーベアにも怯まずに立ち向かっているが、手に持つ剣が届くまで近付かせてはもらえず、間合いを取りながら応戦している。


(逃げれば良いものを…)

シドは堪らずそう思ったが、一度対峙してしまえば見逃してはもらえぬものと、シドも解っていた。


(何故こんなに村の近くに、アーマーベアが居るんだ)


この場所は地図に当てはめると、ブリュー村からは森へ入り、北東へ向かって1時間もかからず辿り着く場所だ。よく、人への被害が出ずに済んでいたなと、違う方向に意識が向かっていた。


その時、フードの少年が動く。

一気にアーマーベアへ突っ込み、剣を突き入れた様に見えた。


(まずい!)


シドは、身体強化と風衣(フロー)を掛けて、集中(フォーカス)を入れる。

そしてその場から掻き消える様にして、アーマーベアと少年の間に移動した。


だがその時にはもう、少年はアーマーベアの鉤爪に当たって左腕から血を流し、飛ばされて10mほど先の木に当たって倒れていた。


(チッ 遅かったか)


シドは、援護するタイミングを見誤ったと悟る。もう少し早く割り込んでいれば、少年は怪我をしなかっただろう。

シドはそう考えつつも、目の前のアーマーベアに意識を集中させる。対峙するものは大きく、腕のリーチも長く鉤爪は鋭い。


アーマーベアもシドが自分の標的になったと認識した様で、シドへ、血の様な紅い目をひたと向ける。


アーマーベアが先に動く。

2本足で立ち上がり咆哮を一つ上げると、シドへ向かって腕を振り回す。大きいくせに動きも素早い。ヒュン ヒュン と風音を立てながら腕が迫って来る。集中(フォーカス)を掛けているのにコイツは対応してくる。



シドはその鉤爪を剣で受け流し、間合いを詰める。アーマーベアの力を受け流してはいるが、それでも一撃はとても重い。間合いを詰めつつ、少しずつ魔物に傷を負わせてゆくが、浅い。まともに対峙していれば、こちらが力負けし、限界が来るのかもしれない。


シドは剣を振りかぶり、一撃を入れようと懐へ入る。だが振り下ろした剣を鉤爪で弾かれた。


「ぐっ…」


思わずシドから声が漏れた。

この4年、一度も刃こぼれする事もなく使ってきたシドの剣、その剣先にヒビが入ったのだ。


(拙いな、剣が耐えきれないかも知れない…)


シドは間合いを取る為に後退すると、風衣(フロー)に流していた魔力を止めた。

そこで、すかさず詠唱する。


爆風(ウインドボム)


その魔法はアーマーベアヘ当たり、爆風を起こす。


―― ドォーン! ――


アーマーベアを中心にして周辺の物を巻き上げ、辺りが土煙に埋まる。この爆風(ウインドボム)の風圧程度では、この魔物は倒れない事は解っている。

シドは再び風衣(フロー)を掛けると、その土煙の中へ突っ込んで行った。


アーマーベアは視界を塞がれ、シドへの対応が遅れた。一気に迫ったシドの剣が現れ、アーマーベアの首を撥ねる。


―― ザシュッ ――


シドは、切ったと同時に退避する。


土煙が納まってきた頃にアーマーベアが倒れ、また土煙が立つ。


―― ドーーンッ ――


シドは魔物が動かなくなった事を確認すると、剣を納め少年の方へ向き直った。


「…うぅ…」

気を失っていたらしい少年が、気付いた様だ。

シドは近付く事なく、そこから声を掛けた。


「生きてるか?」


「…ええ。助けられた様ね、ありがとう…」

そう掠れた声を出し、剣にすがって立ち上がった時、少年のフードがハラリと落ちた。


フードの中からは、新緑色の長い髪をサイドで編み込み、蒼眼がぱっちりと開いた柔らかな、形の良い顔が出てきた。


シドは目を開く。

(女だったのか…)


小柄な少年に見えていた人物は、どうやら女性だったらしい。

女性に怪我をさせてしまった、と少し心が痛んだ。ちょっと思考がずれているシドである。


その女性は、腕を押さえながらこちらへ歩いて来た。


「あなた一人で殺ったの?」

「あぁ、そうだ」

「本当に助かったわ。ありがとう」

「…礼はもう聞いたから、いらない」


それを聞き、女性は苦笑する。だが、シドの言葉だけで苦笑した様ではない様だった。

「う…」

女性から声が漏れる。

しゃべっているだけでも傷に響いたのかも知れない。傷は深そうで、まだ血も流れている。


「ポーションは持っているのか?」

「いいえ、もう使い切ってしまって、無いわ」

「そうか」


シドは自分のショルダーバッグからポーションを取り出すと、女性へ突き出した。

「…飲め」


そしてシドはもう1本ポーションを出すと、徐に自分で飲んだ。

「俺は、疲労回復用に、だ」


女性は少々面食らった顔をし、シドの顔をもう一度見てからそれを受け取った。

「ありがとう。いただくわ」

そう言ってから、一気にポーションを飲む。


すると流れていた血が止まり、傷は塞がった。女性は左の掌を何度か開閉させると、1つ頷いた。


「もう一度言わせてもらうわね、ありがとう。私はソルランジュ領から来た“リュシアン”。これでもB級冒険者なのよ…一応」

シドは一つ頷き返答する。

「俺は“シド”。C級だ」


そう発すると、リュシアンの目が更に大きくなった。

「え?C級ですって?本当に?」

「嘘ではない」

「…そう。では私が驕っていたという事ね、もっと精進するわ…」


リュシアンの声が小さくなっていったので、魔法とスキルを解除したシドには、何を言ったのかは聞こえなかった。

「…?」

キョトンとしても、シドはむさ苦しかった。



リュシアンは落ち着いたのか、ここへ来た経緯を説明した。


「私はソルランジュ領の、ニールという街にある冒険者ギルドの依頼で来たの。ここより東にあるソルランジュ領の山間にある村で、人がアーマーベアに襲われて、その討伐依頼よ。村から辿って来てここで遭遇したのだけど、こいつ、随分と広範囲で動いていた様ね。ここまで結構な距離だったわ…」


「この先に行った所にも村がある。こいつは、次はそこへ行くつもりだったのかも知れないな」

シドは南西を指さし言った。


「俺はその村に出てくる、アルミラージの群れの討伐で来た。最近になってアルミラージが、村の畑に出てくる様になったと。もしかすると、アーマーベアが移動してきたから、逃げ出して村へ行った…?」

「その可能性はあるかも知れないわね。では貴方はこれから村に?」

「ああ、森側から村へ行ってみるつもりだ」

「そう…」

リュシアンは一言呟くと、考え込んでしまった。


「で、このアーマーベアはどうするんだ?」

とシドが聞く。


「え?討伐したのは貴方でしょう?貴方がギルドへ報告するんじゃ…」

「俺はたまたま通りかかっただけだ。依頼を受けたのは君だから、君の好きにすると良い。俺はアルミラージの討伐があるしな」


「へ?」

リュシアンから変な声が聞こえてきた。

「何言ってるのよ…この人」

少々呆れているらしい。少し間があってからリュシアンは伝える。


「では、このアーマーベアの討伐は、私の方でギルドへ報告させてもらうわね。それで良いかしら?」

「ああ、頼む」

「じゃあ、討伐の証として耳は貰うわ」


冒険者ギルドへ報告をする際の完了の証として、魔物の一部を持って行く決まりがある。

リュシアンは、アーマーベアの片耳を切り落とすと、何かで包んで鞄へしまった。


「肉はいらないのか?」

「持って行ける訳ないじゃない……」

リュシアンにジト目で見られ、バツが悪くなったシドは頭を掻いた。


「では肉は貰っても良いか?」

「ええ、好きにしてくれて良いわ」


返事を聞いたシドは、横たわるアーマーベアに近付き身体強化を掛けると、無言で亜空間保存(アイテムボックス)を開き、その中へアーマーベアを放り込んだ。


「…貴方、亜空間保存(アイテムボックス)持ちなのね」


もう会うことも無い者だからと、目の前で亜空間保存(アイテムボックス)を使用したのだが、驚かれてしまったようだ。


「ああ…小さいヤツだ」

適当な事を言っておいたシドである。


これでこの場所に何もなくなった。


「では俺は村に行く。気を付けて帰れよ」

「ええ、色々とありがとう。シドさん」


そう言って2人は別れると、シドはブリュー村へ向かい歩き出したのだった。



スキルについての補足です。

前回スキルについて記述していますが、迷宮再生(ダンジョンリペア)については触れておりませんでした。何となくご理解下さっていらっしゃるかも知れませんが、それについてです。

このスキルは魔力を使って発動するスキルで、魔力を纏う事によりオン、魔力を消すとオフと言う感じです。その時に詠唱する言葉は、待機からの実行Keyの様な物だとお考え下さると助かります。

色々と粗はあるかと思いますが、笑って流して下さると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ポーション代を払おう
[良い点] あかん妄想が止まらない。 風衣で飛び回るムサイ冒険者、、、インド映画で実写化して欲しい。
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