15. 旧知の友
この辺りから少しバタバタし始めます。
引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします。
シドはギルドを出て街の通りを進む。
まだ夕方になったばかりで、人々は仕事帰りであったり、これから買い物をしたりと大変賑わっていた。
それを見るともなく歩くシドに、声が掛けられた。
「シド、戻ったのか!」
声の主に視線を向ける。見れば、シドと同じく冒険者であるジョージクだった。
「ああ、さっき戻った」
「疲れてなけりゃ、メシに行かないか?」
少々疲れてはいたシドではあるが、折角の誘いなので受ける事にした。
「いいぞ」
こうして2人は手近な食堂へ入る。すぐさま席につくと適当に料理とエールを注文する。
「久しぶりだな、シド。3年振りだぞ」
「久しぶりだな。変わらず元気そうだな、ジョージク」
ジョージクは剣を使うB級冒険者で、3年前の滞在時には、何度も一緒に魔物討伐へ行った事がある旧知の仲だ。
シドより一回り大きい体躯を持ち大剣を振り回す、赤茶の癖のある髪に翠眼をした熊を思わせる大男である。
「いつこの街へ来たんだ?」
「2週間くらい前だな」
「あー丁度俺が出てる時か。戻ってきたらケイシーから “シドが来ている” と聞かされてな。すれ違いだったな」
「ああ。俺もすぐ依頼で街を出たからな」
「ったく、休む間もなく依頼を受けてやがる。シドは変わらんなぁ」
ジョージクは笑う。
「3年位で変わる訳がないだろう…」
「ははは。まぁ、そう言うこったな」
そしてエールで喉を潤したジョージクは続ける。
「シドは、ここの前は何処へ行ってたんだ?」
「ロンデだ」
「そうか。そう言やロンデでは、<ハノイ>ダンジョンが復活したらしいなぁ。シドは見たか?」
「俺がいた時にはまだ、復活していなかった。俺がコンサルヴァに来てかららしい」
「そーか。俺も久々にダンジョンに潜りてーなぁ…」
「ん?昔は潜っていたのか?」
「おう。隣の領のダンジョンに暫く潜っていた時期がある。ダンジョンマスターも倒してたぞ?」
「そうなのか。ソロだから、ずっと地上で活動していたかと思っていた」
「まぁその時は、パーティを組んでいたからな。パーティをやめてからはダンジョンには入ってねーな」
「なるほどな」
「お?今度、俺とダンジョンに潜りに行くか?」
「2人でか?それはやめておく…」
「ははは。相変わらず、おもしれーなぁシドは」
「そうか…」
「それはそうと、ジョージクはパーティを組んでいたんだな」
「ああ。それも昔の事だ。人が集まって行動すると、考え方の違いも出てくる訳だ。何だか嫌になっちまってめんどくせーって、2年位で辞めた。それでソロになった」
「ああ。なんとなくだが解る…」
「まぁ俺はソロでも問題ないしな。時々シドとつるんで暴れるのも楽しいぜ」
「そうだな」
シドはソロで活動しているが、依頼のミスもない事から、依頼の同行を頼まれることも多い。3年前、半年程コンサルヴァに滞在していたが、その時はジョージクの他に何組かのパーティにも依頼に誘われたことがあった。シドは、誘われれば断る事は余りない為、それを含めた声掛けは、知らぬパーティからでもよくある事だった。
ただジョージクとは、たまたま受けようとした依頼が重なり、“それでは一緒にやるか”と言うノリで同行したのが始まりだ。それが割と気が合い、付き合い易かった事もあって度々行動を共にしていたのだ。それにジョージクもソロで活動していた為に、人付き合いの煩わしさも無く、気遣う事も無く“楽”であったのも関係していた。
「んじゃ、近々魔物の討伐だな。また頼むぞ」
「わかった。こちらこそ頼む」
そう言って、食堂の前でジョージクと別れシドは宿へ向かった。
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翌朝シドは依頼を受けるべく、冒険者ギルドへ向かう。
別に金に困って依頼を受けなければならない訳ではないが、要は“手持無沙汰”なだけである。
ジョージクにも笑われる位、働き過ぎる傾向なのだ。
幸い、昨日までの旅の疲れも抜けていた事もあり、ギルドへ向かったのだった。但し今日は、前回よりも少し早目の時間であったのだが。
シドは冒険者ギルドへ入ると、何事もなくそのまま壁際の依頼書を見に行く。まだ人が多い時間のため少々見え辛い。
ざっと辺りを見たところ、今日は“竜の翼”は居ない様である。遠征後であり、しかも昇級試験を控えているのだから“それもそうか”というところだ。
後方からざっと依頼書を見ながら、やはり護衛依頼が多いなと感じる。という事は、最近は近隣で魔物の被害が少ないのだろう。
ここはダンジョンがない街で、冒険者はダンジョンからの実入りがない。その為、普通は魔物の討伐依頼を受ける事が多いが、目撃情報や被害が出ていなければ、おのずとそれも少ない。そうなると護衛依頼が中心になってくるのだ。
(チェチェが言っていた通りだな)
そう考えていると、受付奥の扉からケイシーが飛び出して来た。
「皆さん緊急要請です! 港に“ハンマークラブ”の大群が現れました! C級以上の冒険者は、全員討伐に加わって下さい!それ以外の冒険者はギルドで待機願います!」
ケイシーの大声を初めて聞いた。それだけ異常事態という事だろう。
一気にギルド内が騒がしくなった。
もう依頼を受けて出てしまっている者もいたが、ここにもまだ大勢の人が残っていたのが幸いだ。大群がどれ位かは判らないが、考えていても始まらない。
シドはケイシーに近づくと騒がしい中、声を張り問いかける。
「港へ行けばいいんだな!」
シドに気付いたケイシーの眉が、少し下がる。
「シドさん!良かった、いらしたんですね! はい、港へ行けば自警団の人達が対応しているので、すぐにわかると思います! あとはそちらで情報を入手して下さい!」
ケイシーも声を張り上げ、返す。
「わかった」
シドは一つ頷く。
それを周りで聞いていた者達もまた声を上げ、一斉にギルドの扉を抜け港へ走る。
シドもそれに紛れ、港へ向かい走り出す。すると脇から声がした。
「シド!!何があった!」
大声を掛けたのは、昨日夕食を共にしたジョージクだった。
「緊急招集だ! 港で魔物が出たらしい、C級以上が対象だ!」
「わかった!」
大声で話しながら走るシドにジョージクも合流する。
コンサルヴァの港は街の南東にある。シドの居たギルドは街の北側で、街自体は横長の地形ではあるが、港はギルドとは正反対の位置だ。普通に歩けば30分程かかる距離を、冒険者達は走って移動していた。
「これじゃ皆、港に着く前にへたばりそうだな」
走りながらもジョージクの声は普通である。
「ああ、そうだな…それよりも走って10分か。被害が少ないといいが」
「物はなんだ?」
「ハンマークラブだ。その上、大群らしい」
「チッ 厄介だな。1匹でも堅いのに大群だと?」
「ああ。どれくらいの数かは判らない。港で確認だ」
「ぐだぐだ言ってもしかたねー。急ぐか」
「おお」
港が見えてきた辺りで、通りに人が多くなってきた。港に居た人達がここまで避難してきたのだろう。
「どいてくれー!」
「港まで道をあけろ!」
冒険者達から声が飛ぶ。
そこにいた人々は、大勢の冒険者達が走ってきた様を見て、道を空けてくれた。
人々が道から捌けると、港の様子が目に飛び込んできた。
「これはまた…」
ジョージクが絶句した。
港に面した見える処すべて、興奮したハンマークラブの赤い甲羅で一面が染まっていた。
港の現状は、自警団が街へ入らぬようギリギリ何とか押しとどめていて、それを突破されるのも時間の問題である事がわかる。負傷している者もいるらしく、現場は混乱し、怒号が飛んでいる。
「何だコリャー!」
「何匹いるんだよ!」
「マジかよ!」
冒険者達も余りの光景に戸惑いを見せる。
「お前ら! 怪我をしたら一旦引いて治療をしろよ!無理はすんな! 行くぞー!!!」
ガタイが良く一回り大きいジョージクが、大剣を振り上げ声を張り上げて冒険者達を鼓舞する。
ジョージクは、この街の冒険者ギルドに永く籍を置いており、そしてソロでB級という実力も伴って、冒険者達には頼りにされる兄貴的な存在である。こういった事態になっても、落ち着いて皆を纏めてくれるのだ。
ここまで走り続けてきた冒険者達ではあるが、流石にC級以上であり、誰も疲れを見せずにそれに応え、突っ込んでいく。
「おおー!!」
ハンマークラブは大型の魔物で、体は甲羅を纏い堅く、普通に剣で突いた位では傷も付けられない。
普段は海岸付近に生息し、5匹程度の群れで行動する。縄張りがあり概ね1か所にはそれ位しかいない。そして性格は大人しく食材としても普通に狩られる魔物である。
通常は黒に近い青色をしているが、興奮すると甲羅が赤くなり両手にある大きな鋏を振り回して暴れだすのである。その大きく重い鋏を振り回されると、間合いを詰める事が難しくなり、当たれば吹っ飛ばされ、直に受けると骨が砕け動けなくなってしまうのだ。
ハンマークラブの急所は、腹にある色の違う部分で少し柔らかくなっており、そこを刺し抜かなければ絶命しない。
そんな魔物が50匹以上はいるだろうか、大群で出現したのである。
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