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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第一章】始まりの迷宮

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14. 報告と報酬

キリルの街へ戻り、本日の成果を報告する為、冒険者ギルドへ向かう。


今日の依頼を受けたのは、名目上は“竜の翼”。だが、採取の殆どはデュランにさせていた為、冒険者達で話し合い、売上は全てデュランへ渡すと決めた。


滞在最終日の夕方、薬草採取から戻った者達も合流して、いつもの様に食堂へ集まる。

宿も満足してもらえるようにと、大量の料理が並ぶ。

食べながらではあるが、デュランは今日の出来事を、キラキラした眼を向けて語り、時々マッコリーに、食事を促されている始末である。マッコリーも注意はしつつも、その様子を嬉しそうに聴いている。勿論、ロニも である。


「本日は、実のある一日になりましたね。うちで取り扱っている薬は、こうして集められてから、薬師たちによって薬にされているのです。商品とは、お客様の手に渡るまでに、私達商人をはじめ、沢山の人達によって生み出されています。大切に作られた品を、私達が心を込めて送り出して、品物としてまわっているのですよ。今日の事はしっかりと、心に刻んでおきなさい」


「はい、父さん!」


マッコリーは続けて冒険者達を見る。

「本日は息子の勉強にお付き合い下さり、ありがとうございました。とても良い体験となった様で、皆様には感謝しております」


「いいえ。そんな大切な時間を共有させて頂き、こちらこそ勉強になりましたし、私達も薬草採取は久しぶりで、初心にかえる事が出来ました。それに、デュラン君はとても良い生徒でしたから、教えていて楽しかったです」

そう、同行していたミードが返した。


話しつつも食事も食べ終わり、ルナレフが話しかける。

「デュラン君、本日の依頼報酬だけどね、殆どデュラン君が採ったのだから、受け取ってくれる?」


そう言うとルナレフは、デュランの席まで行って掌を出させると、その手にコインを握らせた。

デュランは目を大きく開き一つ瞬きすると、そっと手を開く。


「わぁ…」


小さな声と共にコインを凝視している。

その手には銀貨が1枚乗っていた。


本来であれば、今日の依頼は銀貨にならないものだったのだが、周辺を見回っていたシド達が、珍しい薬草や花を見付けた為に、総額が銀貨1枚となったのだ。


マッコリーは金額が多い事が判ったのか、ミードへ視線を向けるが「本日分の報酬ですよ」と目を細めて微笑まれた為、有り難く受ける事にした様だ。


コインを見つめていたデュランが視線を上げ、隣のマッコリーを見つめる。“もらってもいいの?”と顔に書いてある様だ。

眼差しを受けたマッコリーも大きく頷き返してくれたので、満面の笑みを浮かべたデュランは「ありがとうございます!!」そう言って皆に頭を下げた。


こうして旅の思い出とともに、楽しい時間は過ぎて行った。



-----



翌朝は皆、清々しい顔で宿前に集合している。

マッコリーは宿の主人と別れの挨拶を交わし、馬車へ乗り込んだ。

これからコンサルヴァへ帰るのだ。

家に辿り着くまでが旅である。

往路の様な事もある。護衛達も2日を掛けて移動をする為、しっかりと気を引き締めた。


「それでは出発しましょう」

マッコリーの掛け声で一行は出発する。



復路は、4時間かけてエポに着き、昼食を摂ってから出発。

往路で野営した場所で休憩をとると、その先のユッカ村まで進みそこで1泊。翌日ユッカ村から6時間、2日目の午後にコンサルヴァへ到着した。


その帰りの道中、人知れずシドは新しいスキルを試す為もあり、時々“集中(フォーカス)”を発動させては気付いた音や気配で、まだ遠くにいる魔物を誰にも気付かれずにサラッと行って屠ってきていた事は、内緒である。


そして何事もなく、無事にコンサルヴァの門前に到着して、任務終了となった。


今回の依頼主のマッコリーには皆がとても感謝され、デュランにも別れを惜しまれる様にして別れた。

竜の翼は、“次回も是非に”と護衛の予約までされていた。当然、シドも声は掛けられたのだが、依頼が出る時にまだこの街に居るとは限らない。“確約は出来ないが機会があれば”と返事をしておいたのだった。



マッコリー達と別れた冒険者達は、そのままの足で冒険者ギルドへ報告に向かう。

5人揃ってギルドの扉をくぐると、ペリンを先頭に、受付へ向かった。


ギルドへ入った時から中にいた冒険者達に、続々と声を掛けられている“竜の翼”。


「おかえりなさい!」

「聞いたぞ!」

「戻ったのか!」

「おかえり!」

「すごいな!」


色々な声があちこちから飛んでいる。

それをペリンが手を上げて対応しつつ、受付まで辿り着く。


「お帰りなさい、皆さん。ご無事での依頼達成、おめでとうございます」

満面の笑みでケイシーが迎えてくれた。

「ただいまケイシー。無事に護衛の任務は終了した」

「お疲れさまでした。皆さん、お話はこちらのギルドにも届いていますよ。途中では大変だった様ですね」


それを聞いた竜の翼が苦笑する。

「本当だよ~まさか強盗に襲われるとは思ってもみなかったよぉ」

ルナレフが渋面を作り、言った。

「でもまだ、事前に襲撃を予想していたから対応出来ました。痕跡を見つけてくれたシドのお陰です」

ミードに言われたシドは、困った顔をする。

「たまたま だ…」


受付で話をしている竜の翼とシドの周りに、いつの間にか、話を聞こうとする人が集まり始めてしまった。

それに気づいたケイシーは「奥の部屋へご案内します」と、受付の後ろにある扉から、ペリン達を招き入れてくれた。

ケイシーは移動しながら「すみません。気付くのが遅れました」と謝ってくる。


多少なりとも、コンサルヴァで名の知れた“竜の翼”の話を聞きたくて、人が集まってくるのも当然だったのだ。

「気を遣わせてすまないな、ケイシー」

ペリンが苦笑しながらもフォローした。


案内されたのは応接室。

「こちらでお掛けになってお待ちください。ギルマスからも、話があると言われておりましたので、呼んで参りますね」

手際よく、お茶まで用意して去っていったケイシーに、皆が癒されるのであった。


少し待ってから、扉が開きギルドマスターが入ってきた。

「お帰り。待たせて悪いな」

そう言ってからソファーに座ったのは、コンサルヴァの冒険者ギルドのギルドマスター“アーロン”だ。元冒険者で、年齢を重ねた50代の今も、現役に負けず劣らずの体格をし、頬に傷跡が残るワイルドな男だ。

シドも以前から世話になっている顔見知りである。


「護衛任務の完了、お疲れさん。さっきツエリイ商会からも報告が入った。とても頼りになる冒険者だと、大層喜んでいたぞ」


マッコリーは、もうギルドへ報告を入れてくれたらしい。大変仕事の速い人である。


「マッコリーさんが…依頼主にそう言ってもらえて俺達も受けた甲斐がありました」

ペリンは笑みを浮かべ、シドも頷いた。


「あーそれでな。今回の強盗討伐の件は、お前達が帰ってくるまでの間に報告が来ていてな。報酬金額も確定したから、口座に入っているそうだ。1人当たり金貨3枚らしいぞ。捕縛は10人だが余罪が上乗せされている。奴らは大分やらかしていたらしい」

「そうでしたか…わかりました、ありがとうございます。後で振込の方は確認させていただきます」

「おう、そうしてくれ。…それと今回の事で、ミード、テレンス、ルナレフにはB級への昇級試験を受ける案内が出た。B級試験は大変だが、どうする?」

アーロンは悪ガキの様な笑みを浮かべ、皆を見た。


「受けます!」

「俺も受ける」

「受けたいです」

三者三様の言い方ではあるが、同義の言葉が聞こえた。


アーロンは表情を引き締め頷く。

「そうか。では日程は後で伝えるから、頑張れよ」

「「「はい」」」

そう言って竜の翼のメンバーは、嬉し気にソワソワし始めた。


「受かれば、“竜の翼”はB級パーティだ。大物の依頼も増えるから、心積もりはしておけよ」

そう聞いたメンバーは、神妙な顔で頷いた。


冒険者は、F級から始まりE、D、Cと続き、最上級はA級となっている。

当然、実力の伴わない者を昇級させる事は出来ない。その為、上のランクへ上がる場合は、都度“試験”を受ける事になっている。

F級からE級への昇級試験は、剣士であれば簡単な模擬戦をして、剣の扱い方や動きを見られ、魔物への意識確認をされる。

昇級すれば、依頼での行動範囲が広がる為に、魔物等に遭遇する確率が一気に上がるからだ。そこでまだ“未熟”とみなされれば当然、落とされてしまうのである。こうやって少しずつランクを上げて、皆A級を目指している。


ただ、C級までならばある程度の腕が立てば、誰でも辿り着く事は出来るが、B級からは一気に厳しい試験となり、試験を受けるまでの期間にも行動を見られ、問題のある者には試験を受ける資格さえ出されない。

腕が立つだけでも駄目、素行が良いだけでも駄目。判断力・行動力・応用力等の様々な要素を兼ね備えていなければ、B級へは試験さえ受ける事が出来ない。

そしてB級になれば、国や貴族からの依頼も発生する。そう言った意味も含めた信頼のおける者にしか、上がる事が許されていなかった。



「おいシド。お前もそろそろB級試験、受けるか?」

聞き役に徹していたシドは、お鉢が回ってきたな、と渋面を作る。


「いや、遠慮する」

「……ったくなぁ。お前はしょうがない奴だなぁ。B級になっときゃ依頼も選び放題だろうによぉ」

「C級のままで問題ない」

「そうかよ……」


2人の会話を竜の翼のメンバーは苦笑しながら聞いている。

アーロンは、口は悪いが面倒見の良い人物で、冒険者達一人一人の事も良くみてくれていた。


「お前、3年前の討伐で“ヘルハウンド”まで倒してたろうが…アレはB級の討伐対象だぞ」

ヘルハウンドは大型で犬に近い姿をしている。普段は群れで行動し、集団で人や獣を襲う獰猛な種である。


それを聞いた竜の翼がどよめいた。だが、シドは淡々としたものだ。


「あれはたまたま単体で、先攻が取れたから何とかなっただけだ」

「ふぅ…まぁお前が昇級したくなったら、いつでも言ってくれ」

「ああ」

アーロンは頭を搔きながら苦笑する。


「んじゃ、報告はこれ位にして。皆は疲れてるだろうから、帰って休んでくれ」

そう言ってアーロンは、「ご苦労さん」と先に部屋を出て行った。


「では報告も済んだし、俺達は帰るか」

ペリンが促し、皆はギルドの受付へ戻った。


それを見付けたケイシーが聞く。

「本日はもう終了ですか?」

「ギルマスとの話は終わったから、終了だな」

「それでは、お疲れさまでした。お気を付けてお帰り下さいね」

ペリンにそう返したケイシーは、皆を見渡してから笑顔を向けた。


シドと竜の翼は、受付から離れ出口へ向かう。

すると10歩も歩かない内に、竜の翼の周りに人が集まってきた。これは捕まったなと、シドはメンバーから距離を取って切り出す。

「じゃあ、また」

そうメンバーへ言うと一人、出口へ向かった。


「シド!今回は助かったよ、又な!」

かろうじて人の隙間からペリンが声を上げ、後ろでメンバー達も手を上げていた。

「ああ」

シドも手を上げ別れると、賑やかなギルドを後にした。



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