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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第一章】始まりの迷宮

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11. キリルの宿

この辺りは、小休止的なお話となっています。少し先ではシドも動き出します。

まだまだ、お付き合いの程よろしくお願いいたします。

冒険者ギルドを出た3人は、マッコリー達と街の門前で合流しキリルの街へと向かった。


今度の護衛配置は初日に近く、各々が馬車の周りに間隔を取りつつ歩く。ペリンとルナレフ、テレンスは馬車の後方に固まり、先程の事を話しているらしい。時々笑い声が聞こえ、楽しそうだ。シドはミードと一緒に馬車の前方を歩いていた。


「シドは昇級試験を受けないのですか?」

そう聞かれることは分かっていた。だが、なかなかに直球である。

「ああ。俺はC級で良いんだ」

「何か問題でも?」


少し気遣わし気に問われるも、いつも通りの言葉を紡ぐ。

「国の依頼を受けるのは面倒だからな。縛られるのも億劫だ」


ミードは納得出来ないのか、問い続く。

「国からの依頼も頻繁な訳ではないでしょう? 多少の強制力は働きますが、B級以上になれば、一気に有名になって、報酬も増えると思うのですが…」

ミードからは困惑の想いが伝わってくる。自身がB級に上がった時の弊害を、考えているのかも知れない。


「普通は問題ないだろう。ミードが言った様に頻繁に国からの依頼もある訳では無いし、報酬も上がるだろう。だが俺は、報酬よりも自由を選択したい。“強制”が少しでも発生する時点で“なし”だ。まぁ、スタンピード等の緊急事態があれば、話は別だがな」


ここでミードも納得したのか「そうなのですね」と返す。


「俺はランクよりも、自分の選ぶ依頼を受けて活動していく方が良い。C級までの依頼では大物の討伐は無いが、身の丈に合った…生き方をして行きたい」

いつになく、シドは切実に想いを伝える。


目立たずに引退するまで、普通の日常を送りたい。だが“迷宮再生(ダンジョンリペア)”が露見すれば話は変わってくるかも知れないが…。

まぁ、そもそもの“普通”が、討伐や戦闘を繰り返している日常であるから、どこからが普通以上なのかは、シドにしか解からない気もする。


そこで、先程の強盗との戦闘を思い出したシドが切り出す。


「そう言えばミードは、障壁(シールド)が使えるんだな。保護対象がいると、安心して戦闘に没頭できないから、ミードが居れば、気兼ねなく戦える」

そう言ったシドに、ミードは微笑む。

「私は戦闘では前衛に出られませんが、後方から少しでも皆を支えたいと、そう思っています」

そう呟いた。



エポからの道のりは、デュランが景色を楽しむまでの余裕があり、時々馬車の中から歓声が上がる。

マッコリーもデュランを気遣い、にこやかに道々の説明をしていた。

目の前に広がる果樹園の“実”は何か、収穫時期はいつ頃か、それをどう加工するのか…。

決して勉強ではなかった…と思う。とにかく、穏やかに移動する事が出来たのだった。



日が暮れてきた頃、目的地のキリルへ到着した。マッコリーがキリルの宿を予約していたので、そのまま宿へ向かう。


街の門をくぐり、馬車で10分位の場所にその宿 “風の塒(かぜのねぐら)” はあった。

マッコリーは宿の主人に、到着が遅くなった事を詫び、今日の予定を話しているようである。

ロニは厩の者達と、馬車を引き奥へ入っていく。宿の入口にはデュランと冒険者達が残っていた。


「デュラン君、お腹すいてないか?」

「もうペコペコだけど、ねむいです…」

今日は色々あって、心身ともに疲れたであろうデュランは、目が半分しか開いていない。

「もうちょっと、がんばれ~」

ルナレフとデュランが話していると、マッコリーの指示で宿へ入る事となった。


「部屋は2階です。私とデュラン、ロニは1室にしています。隣の部屋に3人と2人部屋を取ってありますので、皆さんで部屋割りをお願いします。一度部屋に荷物を置いていただき、すぐ食事となりますので1階のこちら奥の食堂へ来て下さい」

ロビーで話していたマッコリーが受付の右側を示す。そちらの奥に食堂があるらしい。


皆が了承すると、先にマッコリー達3人は部屋へ向かった。

鍵を受け取ったペリンが話す。

「3人と2人に別れるぞ。ミード、ルナレフ、テレンスで一部屋、俺とシド、で良いか?」

「オッケー」

とルナレフが言い、皆が頷く。


「じゃあカギはコレな」

そう言ってペリンは、ミードへ部屋の鍵を渡す。

ペリンはいつもこういった場面で、ミードを頼りにしているのだろう。そして各自、部屋へ入った。


シドはペリンに続き入室する。


「悪いな、俺と相部屋で」

部屋に入るや否や、ペリンが言った。

「逆に、俺がパーティメンバーではないから、それは俺が言うセリフだな…」

「ははは。じゃあ、そういう事でよろしく」

ペリンは気遣わせぬ様に、先手を打ってくれる。流石リーダーである。


「んじゃ、荷物も置いたし、食堂だな」

そう言って二人は食堂へ向かった。



-----



食堂へ行くと、既に座っていたマッコリーが手を挙げる。

「ここです」

皆も席についている。


シド達も席に座ると、早々に、続々と料理が出てきた。

「おすすめを頼みました。他に食べたい物があれば頼んでください」

マッコリーの手際が良い。見ればデュランが隣で、船をこぎ始めていた。

ペリンとシドが苦笑して頷くと、皆で料理を食べ始めた。


「デュラン、しっかり食べなさい。明日も出かけるので、ちゃんと食べてから寝る様に」

「…はい、父さん」

親子の微笑ましい会話を聞きつつ食事は進んだ。


食事が終る頃、ロニが声を掛けた。

「旦那様、坊ちゃんは先に私がお部屋へご案内します」

「そうですね、そうして下さい。私たちは少し明日からの予定を打合せしますので」

ロニは了承すると、デュランと一緒に退席した。


「明日は商業ギルドへ向かう予定です。街中での移動となりますので、護衛は少人数で結構です。全員で動くのも目立ちますし」


ペリンはマッコリーを見て頷く。

「分かりました。何かあってもいけませんので、街中では2名護衛につきましょう。明日は私とミードが付きます」

「残りの方達は、依頼の途中ではありますが、好きに動いていただいて結構ですよ。でも連絡は取れるようにしておいて下さい」

ここまでの話に皆が頷く。


そこでシドはペリンに問う。

「ペリンは槍だろう?街中でも使えるのか?」

「問題ないな。普段は長槍だが、街中では短槍(たんそう)を使う」

「理解した」


ペリンが武器として使っている物は、5m程の長さの槍だ。街中の通りに広い幅員があっても、その5mの物を振り回す事は通行人にも当たってしまうし、実質無理なのである。その為ペリンは、街中では短槍(たんそう)を使う様だ。


2人の会話を聞いていたマッコリーも頷いた。


「この街を出るのは6日後、滞在は5日間です。明日と最終日は商業ギルドへ、間は納品と仕入れで2日の予定です」

ここで1日の誤差が出る。

「残りの1日はどうされるのですか?」

ペリンが聞くと、心得た様にマッコリーは言う。

「その日は日帰りで、この街の近くにある村へ行く予定にしています」

「分かりました。ではその日は、全員同行でよろしいですか」

「そうして下さい」


滞在中の大筋予定を確認し、日ごとの護衛は都度に決める事にして、部屋へ戻る事となった。



「シド、風呂へ行かないか?」

「いや、俺は後にする」

「じゃあ俺は、先に行ってくるな」

「ああ」


ペリンを部屋から見送ると、剣を取り出し、手入れを始める。

シドは毎日のこの時間を大切にしている。剣が大事という事もあるが、思考を纏めるには丁度よく、集中できるからだった。部屋に独りという事もあり、黙々と作業する。


シドは初めてキリルの街へ来た。


なるべくなら王都エウロパに近づきたくはないシドは、今までキリルの街は避けて通っていたからだ。

しかし今回は、依頼を受けた事により同行したのだが、期間も短く表立った行動もしないので、問題は無いだろうと踏んでいる。


キリルは王都に近く人も多い。

ここから王都までの道は、高くは無いが山があり、峠を越えて1日で辿り着くらしい。そうなると、王都との人の行き来も盛んな街であろうと推測できる。


シドの知る、この街の情報は少ない。

以前に聞いた事のあるものは、“ キリルの街にダンジョンは無い ”という事だけだった。



2023.9.30-誤字の修正をしました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 5mの長い槍とかくっそ使いにくそう 町とか宿に持ち込めるもんなんかね? 基本的には軍隊とかで騎馬相手に使う様じゃないかな 重いし冒険者の装備には向かなそうだなと
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