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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第五章-終章】シドという名の冒険者

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101/108

101. 魂の声

シドは転移と魔法を使い、ウロボロスに向かって行く。

先程、剣の1本が使えなくなったこともあり、今は<ボズ>の剣を手にしている。


またオーツに言われてしまうな、とシドは汗の流れる戦闘中に、オーツの事を思い出していたのだった。

そこへウロボロスから爆風圧ウインドコンプレッションが放たれ、それもシドは一瞬にして転移で回避し離れて風を浴びる。


このウロボロスが放つ魔法は、属性関係なく飛んでくる。ある時は岩の塊が飛び、ある時は炎が飛ぶ。シドは転移で避けてはいるが、こちらからの攻撃は、中々ダメージを与えられない。


そしてウロボロスからの言葉はあれ以来なく、ただ互いに黙々と戦闘を続けていたのだった。


リュウは先程の場所から動いておらず、じっとそれらを見守っている様だ。

シドとしては避難してもらいたいのだが、シドがリュウへ近付けばそこが攻撃される為、近付く事は出来ないのである。


シドは鞄から魔力ポーションを出して飲むと、その瓶を後ろへ投げ捨てる。

“パリンッ”

瓶の割れる音と共に、シドは危機感を募らせる。


魔力ポーションの残りは、後1本。

この、傷も付けられぬ魔物に、魔力が尽きればどうなるのか、想像しなくても先は見えているのである。


シドの額から汗がつたい落ちる。

ここで集中(フォーカス)を入れて勝負を掛けるか、しかし何が致命傷を与えられるのかが分らずに、それをする事も躊躇われる。


シドは再度、転移でウロボロスの横に出ると、その腹に向かって剣を突き出す。

―― ギンッ! ――


再び硬い音がしたとき、横からウロボロスの太い腕が振り払われ、シドはそれを(かわ)す間もなく、シドの突き出した剣に当たった。

―― ブワゥン ガキンッ! ――


シドは剣を握りしめたまま、剣に受けた衝撃で横へ弾け飛ぶと、シドの体は80m先の残っていた木に当たり止まったのだった。



「シド!!」

遠くでリュウの声がする。

(ダメだ…声を出すな)

そう思って立ち上がったシドの目に、リュウへ視線を向けたウロボロスが見えた。


シドは、受けた衝撃で何処かを痛めていたのか、立ち上がりバランスを崩すも、ウロボロスの顔の前に転移して、その視界を塞ぐ。


風の刃(ウインドブレード)


シドから魔法が放たれて、ウロボロスの顔に当たる。

そしてその魔法は、鱗の1枚を落として、傷を付けたのだった。


『グルルルルル……』

ウロボロスの喉が鳴り、シドへと視線を戻す。降下するシドと視線を合わせると、それは大きく口を開けた。


(拙い!)

この先にはリュウがいるのだ。


咄嗟にシドは転移してリュウの隣に出ると、集中(フォーカス)を入れてリュウを抱きしめ、反射(レフレックス)を入れた。


すぐに大きな口から放たれた炎が、シド達の下へ届く。

―― ゴウゥーッ ――

シドの反射(レフレックス)に当たった炎が、跳ね返りウロボロスへ還る。


『グワッ』

そして、ウロボロスから短い悲鳴が上がるも、それは単に怯んだ為であったと知る。


シドは空になった魔力を補う為、最後のポーションを出して飲む。だがその間に背を向けていたシドへ、岩が飛んで来たのである。


それに先に気付いたリュウが反応し、最大値に出力を上げた水壁(アクアウォール)を開く。ただその岩は1つではなく、連続して次々に迫りくるのであった。

水壁(アクアウォール)を出し続けるリュウは、奥歯を噛み締めてその衝撃に耐える。


「リュウ、すまない。大丈夫か?」

「う…何とか…」


リュウは魔法を展開しているだけで、みるみる魔力が減って行くのがわかる。

薄い膜を張る程度であれば然程魔力は食わないが、大きな衝撃を受け止める為に、今回は分厚い水壁である事で、少しずつ魔力が奪われていく事を感じ取れるのだ。


「リュウ、移動するぞ」

この場に留まる訳には行かないと、シドはリュウと共に転移する。


そして、ウロボロスから十分に距離を取ったはずであったが、ウロボロスの振り向いたと思った瞬間、こちらへ高速で移動してきたのである。

大きな体の為か、一歩の距離が長い。

ウロボロスは、あっという間にシド達の傍まで来ると、大きな腕を振り上げて落とした。


―― ドコーンッ!! ――


シドはその時またリュウを抱えたまま転移で距離を取ると、その眼差しに力を込めた。そのシドの眼には覚悟が宿る。


「リュウ、離れて援護を頼む」

シドはそう、リュウの目を覗き込んで告げる。

「わかってるよ」

そう言ってリュウが微笑みを返すと、シドは一気にウロボロスの前へと転移し、その顔面に出力を上げた魔法を放つ。


爆風圧ウインドコンプレッション!」


その風を真面に受けたウロボロスの顔は、風圧によって毛の様なものが流れ、その角と角の間にある眉間に、大きな石が埋まっているのが見えた。


シドが小刻みに転移をしながら後退している間に、リュウからウロボロスへ、水爆撃(アクアリウム)が放たれる。


―― ドドーンッ!! ――


それが当たったウロボロスは、一気にリュウへと移動を開始するも、シドはそれを感知して転移(テレポート)でリュウの前に出るが、同時にウロボロスの腕が2人に当たった。


―― バキッ! ――


だが、もろに受けたのはシドであった為、シドは100m先の疎らな木々の間へと、飛ばされてしまったのであった。


そして手前に落ちたリュウの下へウロボロスが近付き、起き上がろうとしていたリュウへ振り下ろした腕の鉤爪が届く……届いてしまった。


「キャー!!」


リュウは悲鳴を上げて、シドから離れた場所へ飛ばされる。

一度地に着いたリュウの体は、何度か弾む様にして転がり、そして停止する。


シドは、リュウの声に痛む体を起こし、転移を使って木々の中から出れば、その先に倒れたリュウを見付けて言葉を失う。

そのリュウの体には爪痕が残され、破れた服の間から赤い色が見える。そして…いくら待ってもピクリとも動かないのだ。


まさか…そんな…まさか…

その姿がシドを絶望に引きずり込もうとする。


シドは、自分が発した言葉を後悔した。

自分が援護を頼んだばかりに、リュウはウロボロスの標的になってしまったのだ。

シドは強く目を瞑ると、下を向き全身の力を抜いた。


リュシアンの怒った顔、拗ねた顔、新緑色の長髪を靡かせ、シドへ向けられた笑顔…。その浮かび上がる顔に、シドは拳を握りしめ全身に力を込めて吠える。



「う”あ”ぁぁぁーーーー!!!」



魔物の咆哮にも聞こえるシドの心からの叫びは、森の中に響く。

シドは無意識にスキルを全開にすると、全身全霊を込めてウロボロスを睨め付けた。



いつの間にかシドは陽炎の様な金色の輝きに包まれ、その眼の色は紅く染まっていった。

“≪迷宮(ワタシタチ)はおぬしと共に或る。おぬしの声は、迷宮(ダンジョン)に如何なる時も届くだろう≫”



シドの心からの叫びは精神感応(コネクト)を通し、それを聴く全てのものに届いた。大地から立ち昇る金色の光は、まるで地の中にある者達からのギフトの様に、シドの残り少ない魔力迄も満たす事となったのだった。


―この命を引き換えにしても構わない。

最愛のリュシアンを失う位ならば、この身全てを捧げると誓う。―


紅く染まったシドの眼は、ただウロボロスだけに向けられ、そしてシドは一気に転移する。

ウロボロスはその姿のシドに戸惑いつつも、それを受けるべく動き出す。


だが、シドが転移した先はウロボロスの額の上で、ウロボロスは出遅れる事となる。そこでシドは浮遊(リビテーション)で一度留まると、剣を下へ向け垂直にその額の中央にある石へと狙いを定めた。


“キーーンッ” 

シドの剣が呼応するように鳴いた時、シドの体が発光した。


「う”お”ぉぉぉぉぉーーーー!!!」


シドは咆哮と共に<ボズ>の剣に全てを懸け、その額の石へと突き刺す。


― ガキーーンッ!! ―

―― パリパリパリ…パリンッ!! ――


『グウアァーーァァ!!!』



大気が揺れる程の声を上げたウロボロスは、その声が止むと一瞬にして行動を停止する。

そしてグラリと体を傾けるとゆっくりとその身を倒して行き、その額にいたシドは纏っていた金色の輝きが消えて、ウロボロスと共に地に投げ出された。



―― ドッドドーーンッッ!!! ――



ウロボロスが倒れた場所より50m先に投げ出されたシドは、薄っすらと目を開け、その姿を確認した。

そして視線を転じリュシアンの姿を探し出すと、まだ同じ場所に横たわったままの、その姿を確認する事となる。


シドは体中の痛みに耐え、ゆっくりと体を起こす。

そして足を引きずりながら、リュシアンの下へと向かって歩き出していった。




シドはリュシアンの傍で跪く。

その顔に手を伸ばし顔に掛かる髪を退ければ、瞼は閉じられ眠っている様にさえ見える。だが、体は傷だらけとなり、あちらこちから血を流していた。


シドは走査(スキャン)を入れて、リュシアンを診る。

体中に傷があり、内臓も一部損傷しているが、まだ辛うじて心臓は動いていた。


だが、ホッとする訳にはいかない。

シドは先程の戦闘で、魔力の殆どを放出してしまっていた為、現状は空に近い。


まだ、リュシアンが何本か魔力ポーションを持っていはずだとリュシアンの鞄を見れば、中身が投げ出されており、ポーション類は全て割れてしまっていたのであった。


シドは躊躇うことなく集中(フォーカス)を入れる。

シドの魔力は殆ど無くなってしまってはいるが、集中(フォーカス)を掛ければ、まだ一度位なら使えるかも知れない。



全回復(パーフェクトヒール)



シドはリュシアンに手を添えて、残り全ての魔力を注ぎ回復魔法を掛ける。

すると、リュシアンの全身が淡い光に包まれ、それは染み込む様にして消えて行った。


クラリとシドの体が傾きそうになり、慌てて残る力を入れ直す。そしてもう一度走査(スキャン)を掛けてリュシアンを診れば、もう大丈夫だろうとシドは微笑みを浮かべた。


再度クラリと揺れる景色に、今度はあがらう事も出来ず、シドはリュシアンの隣にドサリと倒れる。


倒れたまま手を伸ばしリュシアンの頬に触れると、そのまま安心した様に、シドはゆっくりとその瞼を閉じたのであった。


最終話の明日は、朝の8時過ぎに更新を予定しております。

最後までお付合い頂けますと、幸いと存じます。


2025.1.7

一部、加筆と修正をいたしましたが、内容に大きな変更はございません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 離れてろと言われても離れず、気になって集中できず、援護して怪我して、庇って怪我するってお約束だなぁ
[気になる点] ウロボロス倒してしまいましたね。 まあ話の成り行き上シドがスキルをたくさん得ているので倒すことになるのだろうな…とは思いましたが。 できれば王族への牽制の意味もこめて共存関係が保てれば…
[一言] ウロボロス君、契約者が不履行やらかしたトバッチリで死んだ件 蛇らしく王家を末代まで祟っても良いと思うの
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