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100/108

100. 加護を纏いし者

シドは思った。

もう既にウロボロスには、こちらの存在を気付かれているだろう。


今はこちらを見てはいないが、皆の気配が出ている以上、アレが気付かぬ訳がない。

だが先程から4人の冒険者達を見ていれば、ウロボロスから発せられる重厚な気配に気圧され、動く事もままならない様子。

シドでさえ、あの存在にはひれ伏しそうになる程の、畏怖を感じていたのだった。


ウロボロスとシド達の距離は、約3キロだ。今はその間の木々がない事もあり、その距離でも肉眼で、存在を捉える事が出来る大きさであった。


「なぁ…アレは何なんだ?」


小さな震える声で、剣士が問う。しかし、その答えを聞きたい訳では無いだろう。アレをただ、見えないものとして、否定してもらいたいだけの様に聞こえる。


「知らないな。俺も、初めて見る(・・)物だ。取り敢えず、逃げるぞ」


シドはその声にはそう返し、次に取らねばならない行動を、皆に伝えて立ち上がる。

その指示に、皆が動こうとするものの、足に力が入らないらしい。皆地面に跪いたまま、ウロボロスを見つめている。


その時ウロボロスから、上空に向かって光が放たれた。その光は、ウロボロスを中心として、半径5キロ程の範囲に降り注がれる。

そして、それがシド達の周りにも降りてきた時、周りにいた4人からうめき声が上がった。


「「うぅ…」」

「あぁ…」

「うぁ…」


そう声を発した彼らは、地面へと崩れ落ちた。


「え?!どうしたの!」


リュウは近くにいる魔術師(ウィッチ)へ、手を差し伸べる。

「う…」

その魔術師(ウィッチ)は、苦悶の表情を浮かべてリュウを見上げた。

「あ…あ…」

何かを伝えたい様ではあるが、話す事が出来ないらしいと知る。


「麻痺…」

リュウがそう言えば、シドも皆の様子を見て頷いた。

毒で苦しむ様子は見られない事から、体の自由を奪う為のものだった様だと、判断する。


「何で、僕と兄さんは無事なの?」

リュウは、シドと自分が麻痺の影響を受けていない事に、戸惑いを見せる。


「<ボズ>のお陰だ」

シドは渋面を作り、そう伝えた。するとリュウはハッとして、何かに気付いた様に自分の手首を握った。


シドの剣とリュウの腕輪は、<ボズ>の加護が付いている。それを身に着けている限り、空気中に漂う害ある物から、この身を護ってくれるという事だった。

シドは、心の中で<ボズ>に感謝しつつも、今の状況を、絶望を持って見ていた。


今シドとリュウが動けていたとしても、この4人をここに置いて2人だけで逃げる事は出来ない。

そして彼らに解毒を施しても、彼らはアレに気圧され、動く事も出来ないだろう。

幸い、麻痺により体の自由が利かないだけで、現時点では命の危険はないはずである。


だが今はまだ、ウロボロスから直接の攻撃を受けている訳では無いが、これから何もされないという保証は、何処にもない。

そうなると、シドの取る選択肢は一つ。


シドが4人からウロボロスへと視線を戻せば、そのウロボロスはこちらを向き、視線が合った事を直感した。

シドはその視線に全身の毛穴が開くが、同時に何かも感じ取る。


フェンリルやグリフォンですら、気持ちを理解する事が出来たのだから、もしかして…と。

シドは精神感応(コネクト)を入れて、そちらに意識を集中する。


すると、大きな存在がシドの中に溢れた。シドは身を固まらせると、それを読み取る。


≪ほう。まだ動けるものがおるとは…小さき者も、知恵を付けたとみえる≫

明かに言葉として理解できる音が、シドの頭を支配した。

「う…」

その重みに、シドはうめき声を上げる。


「兄さん!」

シドの表情を見たリュウが、シドの隣で膝をついた。

「大丈夫だ…アレの存在が、入ってきただけだから…」

シドは、そう言葉を絞り出した。


精神感応(コネクト)…?」

「ああ…アレは言葉を操っている」

リュウへそう伝えると、シドは再びウロボロスへと、視線を戻す。


≪どうするつもりだ≫

ウロボロスとの距離がある為、シドもそれで問いかける。


≪ 愚問 ≫

それだけの返事の後、ウロボロスは王都の方角、北へと顔を向けた。


それを聴いたシドは、リュウへ視線を向ける。

「あいつは、王都へ行くつもりの様だ…」

「え?!そんな事になれば、街の人達が!」

「ああ…」


シドとリュウはそこで立ち上がると、ウロボロスへと向かい歩き出した。

それを感知したウロボロスから、声が届く。


≪小さき者、邪魔をするつもりか≫

その声と共に、ウロボロスはシドとリュウに視線を向ける。


≪街には、関係のない者が大勢いる。…その人達を…助ける≫

シドの返答に、ウロボロスの平坦な声が返る。


≪契約を軽視したのだ。我はそれ故眠りから覚めた。この意味が解らぬものはおるまい≫


シドとリュウはウロボロスへと向かいながら、シドはその答えに問いかける。

「どうしても行くのか」


シドはそう、声を絞り出す。

もうウロボロスが、しっかりと見える所まで来ていた事で、シドの声も届くだろうと。


ウロボロスの姿は、先程までは1つの塊にしか見えていなかったが、ここから見れば体高は10m以上あり、茅色の体は鱗に覆われた、肉厚な体躯である事が判る。

その大きな体からは長い尾が出ており、2本の脚は太く大地に根を下ろした様に安定し、体の上半身を起こして前足は地に付けていない為、腕と呼べるであろう。

そして頭には毛の様な物があって背まで繋がり、額の上部からは2本の真っ直ぐな角が伸びる。顔には竜種のそれで見る様な、突き出した大きな口があり、鋭い牙と歯が見えている。


その上纏った魔力の気配が、今まで見てきた物が何だったのかと思う程、突出して高い事を感じとれたのである。

これは人間で、太刀打ちできる物なのだろうかと、シドは背筋に悪寒が走る。


≪我はその為に、眠りから覚めた。我は契約に基づき、行動するのみ≫


そう言ったウロボロスは、北へと視線を固定し、一歩、地響きを立てて踏み出す。

それを見たリュウが、シドの隣から飛び出した。


「リュウ!!」

シドがそう声を出した時、リュウはウロボロスの前で立ち止まり、それに向かって両手をいっぱいに広げた。


「だめっ!行かないで!!」


リュウはウロボロスと、会話は出来ない。

だがリュウは、止められない事を悟ると、ウロボロスの前に立ちはだかったのだった。


≪無駄だ≫


そのウロボロスの声は、リュウには聴こえないのだ。

シドは転移(テレポート)でリュウの前に出ると、リュウを抱き込んでから身体強化、硬化(インデュレイト)集中(フォーカス)反射(レフレックス)を入れて全身に力を込めた。


と同時に、ウロボロスの腕がシド達を薙ぎ払う様にして動く。

だがその腕は、シドの反射(レフレックス)によって、跳ね返されたのだった。


「カハッ…」


シドの声で、腕の中にいたリュウが顔を上げ、そしてシドの顔色に驚愕する。

シドはまだ立ってはいるが、シドの重みは、リュウへとかかっていたのであった。


「シド!」


≪ほう。おぬしは我と互角…という事か≫

シドの反射を受けたウロボロスが、そう話した。


シドは霞みそうになる意識を保ち、辛うじて出せる音量で、リュウへ伝える。

「今の一撃で、俺の魔力が無くなった…」

集中(フォーカス)を入れていても尚、シドの全ての魔力が、ほぼ無くなったという事であった。


リュウはそれを聞くと、自分の魔力ポーションを取り出し、シドの口に突っ込んだ。

シドは何とかそれを飲むと、体に力を込める。

「移動するぞ」


シドは、ウロボロスの前から先程の位置まで、転移(テレポート)する。

するとそれを追って、ウロボロスの視線が動き、その眼には先程までとは違い、警戒の色が浮かんでいた。



『ガアァーーァァ!!』



周辺の大気までも震わす、ビリビリとした大音量の咆哮を上げたウロボロスが、ひたとシドを見据えた。


≪我を邪魔するものは、如何なるものであろうと排除する≫


そう言ったウロボロスから、突然氷柱が放たれた。

それを感知したシドは、転移(テレポート)で回避すると、そこでリュウを開放する。


「アレの狙いは俺だ。リュウは、安全な場所に避難してくれ」


シドはそう言い残すと、一撃(ヤーク)浮遊(リビテーション)を追加し、再度転移(テレポート)でウロボロスの肩近くへ出ると、抜いた剣を振う


―― キンッ! ――


だが、ウロボロスに当たったはずのシドの剣は、体に纏う鱗によって、傷一つ付けられてはいなかった。

しかもオーツの剣には又、ひびが入ってしまっている。


「チッ」

シドは舌打ちをすると態勢を立て直す為、リュウとは反対方向へと転移(テレポート)する。


それを視線で追ったウロボロスは、そこに出たシドに炎を投げる。

―― ドーンッ!! ――


大きな炎が、シドが立っていた場所に当たるが、シドは一瞬前には又転移して、回避していた。


≪よく動くことよ≫


ウロボロスの声がシドに届く。

シドはウロボロスから視線を離さぬ様に、しっかりと目を開き、それを睨みつけたのだった。



-----



先程の揺れ以上の大きな波が、国王たちの一団に届く。


「陛下!」

体をふらつかせた国王に、騎士団長が飛びついて、体を支える。


「これは…」

国王の口から、途中までの言葉が落ちる。

その後を引き継ぎ、近くにいたアルフォルト公が声を出した。

「出てきた…様ですね」


まだ揺れている地面で、皆は動く事もままならず、立ち止まっている。

アルフォルト公とA級冒険者達は、一気に緊張感を高め、各々が戦闘の準備に入る。


続く地面の揺れで、1本の木が倒れた。その後も耐えられない木々が、次々と倒れて行く。


倒木に巻き込まれぬ様、A級冒険者は一団の周りに障壁(シールド)を展開する。

この大きな障壁(シールド)は、“ガーゴイルの翼”が出したものの様だ。それに気付いた国王が、冒険者達をみて頷く。皆、この揺れが収まるまで、暫く足止めとなったのである。



「これは、急がねばなるまい」

揺れが収まり暫く経った頃、国王が皆にそう伝える。

全員がそれに頷き、再び動き出した時、今度は森の大気が揺れた。


『ガアァーーァァ!!』


大森林に響き渡る、何かの咆哮。それが大気を震わせ、ビリビリと伝わってくる。

騎士団員達は顔色を悪くして、膝をついている者もいる。

アルフォルト公とA級冒険者達は、顔を見合わせるとそして、次いで国王を見る。


「うむ。我がいては足手まとい。我は後から追う」

意図を理解した国王からの言葉に、一斉に冒険者達が走り出す。これは、歩いて行く暇などないのだ。


国王と騎士団たちを置いて、冒険者達は、森の中心方向に向かって行く。

アルフォルト公は国王に黙礼すると、冒険者達に続いて、その声に向かって駆けて行く。


それを見送った国王達も又、少し遅れてその中心へ向かい、歩き出したのであった。


2024.1.20

ウロボロスとの距離を修正しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 突如1kmまでしか目で見えない世界観設定が出てきてびっくり。 私達は星の距離でも見えるんだぜ...。 ...と言うすっとぼけたマジレスはおいておいて、巨体感を表現する言い回しは変えた方が良…
[一言] ゴ〇ラみがある
[一言] てっきり100話で完結するのかと思っていました。
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