1. ロンデの街
はじめまして。このページに目を止めていただき、ありがとうございます。
これは、私が人生で初めて書く物語であり、文字通りの“処女作”です。
その為、表現も拙く回りくどい文章もあると思いますが、生温い気持ちでお読みいただけると嬉しいです。
最後まで書く事を目標とし、この拙作が少しでも、皆様の気分転換になれば幸いです。
※はじめてお読みになる方へ:感想欄にはネタバレを含む事もございます。最新話までお読みいただいてから、見る事をお勧めいたします。
コツンッ コツンッ コツンッ コツンッ
闇と化した空間にカンテラと艶のない剣を手に、岩肌が剝き出しになった不規則な洞道を止まることなく、一定の間隔で靴音を響かせ歩みを進める。
ここは、自然と繁栄が共存する広大な土地を治めるアルトラス国の、その北西の辺境にある街、ロンデに隣するダンジョン<ハノイ>。
その下層へ5階、淡々と歩くのはシドという冒険者である。
シドは、ダンジョン内を確かめる様にゆっくりと歩きながら、今朝の出来事を思い返していた。
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「おーい! シドッ!」
大きくはないがよく通る声に振り返ると、冒険者ギルドから一人の青年がこちらへ向かっていた。
「ああ、カラムか」
そう言ってシドは歩みを止める。
その人物は背丈が180cm程、琥珀色の眼にキリリとした眉、赤茶の髪を短く刈上げ、体躯は程よく筋肉を付けた如何にも“冒険者”という容姿をした青年“カラム”だった。
呼び止められた“シド”はと言えば、189cmの長身に濃い金髪とも見える長髪を後ろで束ね、切れ長の翠眼に顔半分を髭で覆われた、冒険者の格好はすれど、むさ苦しさを隠せない容姿をした男である。
「街を移るってロイルに聞いた。もう出発するんだろ?」
そう言えばカラムには、直に出立する旨を伝えていなかったなぁと思い、紡ぐ。
「ああ。これから街を出る予定だったから、その前に会えて良かった」
カラムは、ロイルともう一人の冒険者で、パーティを組んでいるB級冒険者だ。
シドはこの街で、臨時のパーティメンバーとして一緒に依頼を受けていた為、気軽に話せる人物でもあった。
「なぁ、本当に俺たちのパーティに入って欲しいんだが。シドがいると、攻撃が安定するんだよ。
昇級試験さえ受ければ、シドもB級になる実力があるじゃないか。4人でパーティを組めば、バシバシランクアップ出来るって~!なぁ!」
快活で上昇志向な彼は、早く高ランクになるべく活動している。そんな彼に、パーティへ誘われるのは悪い気はしない。しないのだが。
「悪い。俺は、ソロを続けるからムリだ」
遠慮のないセリフを言った途端、カラムの笑顔が曇る。
それも、いつもの事であるのだが。
「まー仕方ない。口説くのは、またの機会にとっとくさ」
とカラムはニヤリと笑う。
シドがこの街に来てから、事ある毎にパーティに誘われ断っているのだから、退きも早いというものだろう。
「それよりも、カラム達はこれからどうするんだ?」
「ん~~~。移動はまだ決めかねてるかな。何せロンデは冒険者の数が減っちまってるから、動くに動けないんだよ。まぁ外の依頼もあるから問題はないんだが。街の活気もなくなってきてるし、一斉に冒険者が動くのも…って感じだからなぁ」
「そうか…」
「おう。次もロンデで会えるかは分からないが、また会ったら一緒にやろうなっ!」
「ああ。また頼む」
「じゃっ またなっ!」
「ああ、世話になった。またな」
シドはこうして別れの挨拶を終え、次の街へ向かう前にこの<ハノイ>ダンジョンへ足を向けたのである。
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シドは2週間前に、この街へ来ていた。
だがそもそも、シドがロンデに来た目的は依頼を受ける為ではない。
まぁ多少は生活の為に依頼は受けたのだが…。
8年ほど前、冒険者になったばかりの頃このロンデの街にいたシドは、暫くの間は<ハノイ>ダンジョンの浅い階層を潜り、冒険者としての基礎を学んだ。
1年程でこの街を出たのち、ソロで街々を転々と移動しながらCランクまで登り、現在もCランク冒険者として活動している。
街の固定ギルドには属していないシドであるが、言うなれば<ハノイ>は古巣のダンジョンである。
それが1ヶ月ほど前、ここロンデの冒険者ギルドからの通達が、国内すべての冒険者ギルドを通して流れた。
シドはそれを見て、ロンデの街へ来たのだ。
それは
『ロンデにある<ハノイ>ダンジョンは魔素の枯渇状態が考察される。ダンジョン崩落や消滅が懸念される為、2か月後にダンジョンを封鎖する。』
というものだった。
聞けば最近、誰もこのダンジョンに近付く者さえいなかったらしい。
それも当然と言えば当然、魔物もアイテムさえも出なかったと言うのだから。
5年位前からダンジョンに潜っても、手ぶらで帰ってくる者が出始め、そのうち段々と潜る者もいなくなっていったという事だ。
ダンジョンは国内にも多数存在するし、何だったらまだ、発見されていないダンジョンもあるのかもしれない。数多あるダンジョンだがその根本は解明されておらず、寿命はないとされてきた。
だが稀に、ダンジョンは存在を維持できぬかの如く崩落する事があるらしい。
崩れ落ちれば数十年の間、その場所は草樹も生えぬ荒れた土地となる。その後永い年月をかけ“生”の土地へと再生される。
その崩落に人が巻き込まれてしまえば、救出などできやしない。
一緒に地中深く埋まってしまう可能性もあるのだから、誰も近づかなくなるのも当然と言えるだろう。
だからシドは“封鎖”するというギルドの通達を受け、古巣であるここ<ハノイ>ダンジョンの見納めに、最後に潜る事にしたのだ。
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コツンッ コツンッ コツンッ コツンッ
洞道に靴音が響く。
「確かここは、地下20階層までだったな」
そう声に出して言ったのは、ここ5階層まで生物1匹遭遇しなかったからであり、人の声で何かしらの反応がないかを確かめる為だ。
(やはり死期が近いのか?)
ダンジョンには『死期』という言葉は普通使わないが、ダンジョンが生物として存在しているように感じられ、ついそう思ってしまったのである。
シドは、このダンジョンの最深部まで行った事はない。
最深部にはダンジョンマスターがいて、倒せばアイテムや装備品などの宝が得られるというが、行っていないので見た事はない。
(何も出なければ、最深部まで辿り着くな)
などと呑気な事を考えながら、そのままひたすらに歩いていた。
ただ…“おかしい”。
何が?と問われても、言葉としてつかみきれないのだけれども。
冒険者として肌で感じるのか何なのか。とにかく“不可解”。
ただそれは“魔物が出ない”とか、そういう事ではない。
歩みを進め、今は15階層まで来ている。
(あぁそうか…俺は潜ったことがない最深部へ行く路を知っている…)
確かに入口からここまで、枝分かれしたダンジョン内で、地図を見ずに歩いてきてしまっていた。
数時間で出てくるつもりだったから、地図を持っていないのだ。
なんだか良くわからないが…。
(まぁいい。底まで行ってみるか)
ダンジョンに潜って、3時間ほど経っただろうか。
急に、小さな村がすっぽりと入りそうな程の広い空間にでる。
ここが最深部だろうと思えた。
薄ぼんやりと明るい空間の為、カンテラをしまう。
(本当に何もでなかったなぁ…)
そう考えながら、何もない広い空間を歩いて中央付近に差し掛かった頃、それは起こった。
≪再生…。我…声…け…≫
(!!)
急に頭の中に声が…、いや、声というよりはただの音に近いが、言葉として認識できるものが鳴った。
シドは存在を確かめようと剣を手に大きく壁際まで飛び退り、辺りを油断なく警戒する。
気配は無い。
だが巨大な空間の中央上空に、煙のような歪んだ物が留まっていた。
シドは神経を最大限に張り詰め、その歪んだ物を確認する。
殺気はない。
だが気配も探れない。
(何だ…あれは…)
そしてもう一度頭の中に響く音。
≪再生者よ。我ノ声を聴け…≫
(なんだ!?)
このダンジョンは、もう何も出なかったはず。
しかし“なにか”が居る事は確かだ。
シドは強張る体を緩め、警戒しつつも少しずつ中央へ近づいて行く。
冒険者からすると迂闊な行動を取っていることは重々承知しているが、少なくとも“それ”を警戒する必要のないものだと何故か理解した。
11月21日:記号の使い方等含め、少し改稿致しました。