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第1話 毛むくじゃら人間

 家の周りの畑や池から集めて来た食材を前に、さてどうしようかな、とスクワイアは短い茶髪の頭を掻く。そんな彼に、少年は緑色の瞳を潤ませ頬に手を当てて愛らしく言った。

「スクワイア。ボク、牛肉が食べたいな」

 少年のいつもの悪ふざけに、スクワイアは溜め息を落とす。

「クルトの家から一頭もらって来たらいいじゃないですか」

 スクワイアのにべ(・・)もない返答に、ちぇ、と少年は舌を打った。椅子の背もたれに体重をかけ短い金髪の頭に腕を回すと、その小柄な体には不釣り合いの大きなマントの襟が少年の頬にかかる。少年は悪ふざけをやめて唇を尖らせた。

「クルトの家の牛は乳牛だぞ」

「そうでしたかね」

 素っ気なくスクワイアが言うと、少年はムッと不満げに顔をしかめる。見ようによっては、それも愛らしく感じられるのかもしれない。

「おい、スクワイア。最近、随分と反抗的じゃないか。俺様に助けられた恩を忘れたか?」

 見た目は十二、三歳くらいのあどけない少年だが、その眼光は人ひとり殺せるのではないかと思うほど鋭い。しかし、睨み付けられている当のスクワイアは、そんな視線にも慣れているため軽く肩をすくめた。

「反抗的も何も……俺、騎士なんですよ?」

「見習いのな」

「それがこんなもの着せられてたら、反抗的にもなるでしょう」

 いつもの鎧の代わりにシャツの上に無理やり着せられたフリル付きの白いエプロンを、スクワイアは不満げに引っ張って見せる。二十五歳の大の男には恥ずかしい代物である。

 あっはは、と少年はおかしそうに笑い声を立てた。

「似合ってる、似合ってる」

「似合ってたまるもんか」スクワイアは顔をしかめる。「俺はあなたの小間使いじゃないんですよ」

 それまでの笑みを消し、少年は険しい表情になった。

「お前、誰に向かってそんな口を利いてんだ。俺様は――」

 立ち上がった少年の言葉を遮るように、玄関のドアが勝手に開かれた。少年はまた舌を打ってドカッと椅子に腰を下ろす。少年の口上が決まらなかったので少し清々した気分になりながらも、スクワイアは慌ててエプロンを外した。家に入って来たのは、小柄の猫人間(ケットシー)の少年クルトだった。ドアをノックしないのはいつものことだ。

「なあに? また喧嘩してたの?」

 クルトが小首を傾げると、癖の強い茶色の短髪がふわりと揺れる。猫人間(ケットシー)族は成人しても人の子の半分以下の身長にしかならず、クルトもスクワイアの三分の一ほどだ。

「やあ、クルト。いらっしゃい」

「これお裾分け! 搾りたてだよ」

 クルトはミルクの瓶をテーブルに置く。酪農を営む家の子のクルトは、いつもお裾分けを持って来てくれるのだ。

「いつもありがとう。いまお茶を淹れるよ」

「うん! ありがと!」

 クルトがミルクのお裾分けに訪れると、いつもささやかなお茶会が開かれる。スクワイアは騎士であるが、お茶を淹れるのはお手の物。毎日のように淹れているからだ。

「ウォーロック、不貞腐れてるの?」

「そんなわけないだろ。この大魔法使いウォーロック様が」

 揶揄うように言うクルトに、少年――ウォーロックは不機嫌そうな顔で言う。完全に不貞腐れているのだが。

 ウォーロックは自分を「大魔法使い」と言う。優れた魔法使いであることに違いはないだろうが、スクワイアはそれを誇張されたものだと思っている。大魔法使いと呼ぶに相応しい魔法を使っているところを見たことがないからだ。

 スクワイアが三人分のミルクティーを淹れ、テーブルを囲む。ひと息つくと、クルトが思い出したように言った。

「明日さ、アモルが帰って来るんだよ」

 聞き慣れない名前に、スクワイアは首を傾げる。

「アモル?」

「勉強のために、ずっとユーラシア大陸に行ってたんだよ。手紙で、ウォーロックに憧れてるって言ってたよ」

「へえ。ま、俺様は大魔法使いだからな。憧れて当然だろ」

「ウォーロックがこんな人だって知ったら、がっかりしてその気持ちも消えるかもしれませんね」

 澄ました顔で言うスクワイアに、ウォーロックは愛らしい顔を思いきりしかめた。

「どういう意味だ」

「そのままの意味ですよ」

「お前、生意気だな。一回、その根性を叩き直してやるよ」

「望むところです」

「喧嘩しないでよー!」

 クルトが声を上げるので、ウォーロックがスクワイアを軽く睨み付けるだけで終わった。クルトは、やれやれ、と溜め息を落とす。ウォーロックとスクワイアの言い争いは日常茶飯事である。



   *  *  *



 この世界の中心に、すべての生命の源マナを生み出す「世界樹」を有する大地テラがある。テラから始まりいくつかの大地が生まれると、全土に張り巡らされた世界樹の根によってマナが供給され、大地に生物が誕生した。

 大地テラの次に生まれたとされているこのクルトゥーラ大陸は、世界樹の恩恵を間近に受け、南東に砂漠地帯を有することを除いては豊かな大地となった。

 それぞれ人口十万人程度と規模の小さいふたつの国から成り、ウォーロックたちの暮らす東側の国を王都のキング・レオが治めている。時々嵐が起こることを除けば、比較的に安定した気候の大陸だ。人間にとって暮らしやすい地である。

 ウォーロックたちの暮らす町リートレは、いくつかの集落からなる小さな町だ。池と畑に囲まれた彼の家は、どこの集落にも属していない。それぞれの集落のちょうど中心に位置している。元々空き家だった二階建てのボロ屋に、はみ出し者の自分にはちょうどいいと言って、数年前からスクワイアとともに住み始めたのだ。



   *  *  *



 翌日は気持ちの良い快晴だった。三日前、リートレを激しい嵐が襲い、周りの集落は大きな打撃を受けたらしい。ウォーロックたちの家は特に被害はなく、時々集落に手伝いに行っている。

 スクワイアは洗濯物を干しながら、地べたに座って機材をいじっているウォーロックを見遣った。彼はいつも何かを研究しており、いまもその作業中なのだ。なんの研究をしているのか詳しく聞いたことはない。おそらく聞いたところで理解できないだろうと思っているからだ。

 ビーカーの中でいくつかの薬剤を組み合わせると、怪しい緑色の液体になる。その中にさらに白い薬粉を注ぎ混ぜれば、気泡が沸いてブクブクと泡立った。つんと鼻を突く匂いが辺りに充満する。何に使う薬剤なのだろうか。

「ウォーロック、どうして家の中でやらないんですか?」

 スクワイアの問いかけに、ウォーロックは肩をすくめる。

「匂いが籠るからな。薬品の匂いは染み付くと取れない」

「いちいち機材を持って来るのは面倒じゃないですか?」

「匂いが染み付くよりマシだ」

「へえ」

 そのとき、誰かが歩み寄って来る気配に気付いてスクワイアは振り向いた。顔を上げたウォーロックもそちらを見遣る。それは茶髪のお下げの少女だった。

「あの……あなたがウォーロック?」

 少女のその問いかけは、明らかにスクワイアに向けられていた。いつもの鎧を身に着けていないため、スクワイアが騎士だとわからなかったのだろう。自信がなさそうな表情をしているところを見ると、ウォーロックに関する情報をほとんど持ち合わせていないようだ。

「いや、ウォーロックは彼だよ」

 スクワイアがそう言ってウォーロックを手のひらで差すと、少女はどこか怪訝な表情になる。

「なんだ。俺様がウォーロックじゃ不服か?」

「あ、いえ……その……」少女は俯く。「魔法学研究員だった私の母が、ウォーロックと一緒に研究していたらしいの。それが五年前のことよ。あなたがウォーロックだとしたら、いまも子どもだとは思わなかったから……」

「……俺様は呪いで子どもの姿にされたんでな」ウォーロックは頬を引き攣らせる。「これ以上は成長しないんだよ」

 ウォーロックの外見はどこからどう見ても子どもだが、子ども扱いをされることに憤りを感じるらしい。呪われる前は大人の姿をしていて、中身はスクワイアより年配の立派な大人だというのがウォーロックの言い分だ。

「あの……私、アモルっていいます」

 クルトが言っていた少女か、とスクワイアは心の中で呟いた。勉強のためにユーラシア大陸に行っていたとクルトは話していた。アモルはふたりから顔を背けるように俯いたまま、手を組んだり離したりしている。気が弱く引っ込み思案というのが第一印象だ。

「あの……。私、ウォーロックの弟子になりたいんです」

 意を決したように言うアモルに、ウォーロックは怪訝に眉をひそめたあと肩をすくめた。

「この大魔法使いウォーロック様の弟子になりたいと思うのは当然のことだが、悪いが俺様は弟子を取ってないんだ」

「どうしてウォーロックの弟子になりたいんだ?」スクワイアは問いかけた。「きみは魔法使いなのか?」

「あ、いえ……魔法使いではないんだけど……。私、母のような魔法学研究員になりたくて……。それで、母と一緒に研究をしていたウォーロックの弟子になれたら、少しでも母に追いつけるんじゃないかって思ったんです」

 “五年前にウォーロックとともに研究をしていた”という情報にスクワイアは心当たりがあった。しかし、当のウォーロックはピンときていないような表情をしている。

 そのとき――

「ウォーロック! 大変だよ!」

 張り詰めた声とバタバタと駆け寄って来る足音に、三人は振り向いた。表情に焦りの色を湛えて彼らのもとへ来たのはクルトだった。クルトはぜえはあと肩で息を整えたあと、まだ乱れる呼吸で声を張り上げる。

「西の集落の人が毛むくじゃら人間になっちゃったんだ!」

「ああ、もうそんな時期か」

 暢気に返すウォーロックに、クルトは肩を怒らせた。

「早く来て! 早くみんなを元に戻してあげてよ!」

「わざわざ俺様が出て行く必要あるか?」

「一番近くにいるのがウォーロックなの! 早く来てよ!」

「そんな理由で俺様を使い走りにするつもりか?」

 クルトは地団駄を踏みそうだが、ウォーロックは飄々としている。スクワイアが愛用の鎧を装着して戻って行くと、クルトは小さい体でウォーロックの手を一生懸命に引っ張っている。ウォーロックはまったく動こうとしない。

「ウォーロック、行ってあげましょう」スクワイアは言った。「大魔法使いなら、これくらい手遊(てすさ)びでしょう?」

「……はあ。こうやって俺様はまたタダ働きさせられるってわけか。集落の連中は贅沢だな」

 ようやく重い腰を上げるウォーロックに、アモルが言った。

「あの、私もついて行っていい……?」

「あー、そうだな。お前も手伝え」

 地面に放っていたマントを肩にかけながらウォーロックが言うと、アモルの緑色の瞳が少しだけ輝いた。彼が大魔法使いウォーロックであるということにはまだ少しだけ疑いを持っている様子ではあるが、彼女はウォーロックに憧れている。その憧れの人を手伝えるということに、素直に喜んでいるようにスクワイアには見えた。

「というか、クルト。お前はなんで無事なんだ?」

 怪訝にウォーロックが問いかける。クルトの家があるのが西の集落なのだ。彼も被害を受けていてもおかしくない。

猫人間(ケットシー)って毒草に耐性があるんだよ」

「ああ、そういえばそうだったな」

 行くぞ、とウォーロックはマントの魔法の力でふわりと飛び上がる。わ、とアモルが目を丸くした。

「飛ぶことができるのね」

「大魔法使いウォーロック様だからな」

「そういう話はあと! 走るよ!」

 小さな体で駆け出すクルトに、スクワイアとアモルも小走りで――クルトの歩幅では走る速度が合わないため――追いかけ、ウォーロックはその頭上を浮いてついて行った。


 ウォーロックたちの家から西に十分ほど走った先に西の集落はある。酪農を営む者が多く暮らす西の集落は、雄大な牧草地が広がっている。ウォーロックの家を囲む四つの集落の中で最も広く、普段であれば穏やかな集落だ。

 スクワイアは何度か目にしたことがある光景だが、アモルは驚いた様子で辺りを見回している。見慣れていたとしても、そこに見受けられるのは異様な光景だ。

 行き交う人々が、全身を真っ白な毛で覆われているのだ。低い唸り声を上げながら、ふらふらと辺りを彷徨っている。

「これは一体……?」

「なんだ、知らないのか」と、ウォーロック。「この時期になると、カビタケの胞子が飛んで来て、人間に寄生することがある」

「元に戻すことはできるの?」

「俺様を誰だと思ってやがる」

 ウォーロックは不敵に笑ったあと、ローブのポケットから一枚の紙を取り出した。それを四枚に切り、地面に膝をついてペンを手にする。

「スクワイアは北、クルトは西、アモルは南に行け。いまから描く魔法陣を地面に描いてくれ。俺様は東側だ」

「私たちが魔法陣を描くの? 私は魔法を使えないわ」

「描くだけでいい。そのあとは俺様の仕事だ」

 アモルは不思議そうに、しかし真剣にウォーロックの手元を観察している。ウォーロックだけでなく、魔法に対する憧れもあるのかもしれない、とスクワイアは思った。

 カビタケの胞子が飛んで来ることは、決して珍しいことではない。風向きが影響しているのだ。毎年そうなるというわけではないが、カビタケの胞子は人体に悪影響を及ぼす。毛むくじゃら人間と呼ばれる状態になり放置すると脳に胞子が回り、元に戻っても正常ではいられないと言われている。そのため、直ちに治す必要があるのだ。治療薬もあるらしいが、これほど被害が広がるとそれでは間に合わず、魔法使いの魔法による治療が最も有効的である。

「図形としては簡単なのね……」

「難しい図形にして自分が忘れたら意味ないだろ。俺様がそんなミスを犯すことはないがな」

 何者かが歩み寄って来る気配に気付き、スクワイアは背後を振り向いた。鎧を身に着けた男性と女性が彼らのもとに向かって来て来ている。ふたりが羽織っている青いマントは、この町の自警団の物だ。黒髪の男性は少し神経質そうな顔で、女性は赤い髪と褐色の肌が特徴的な炎族(サラマンダー)のようだ。

「この集落に魔物が大量に湧いたと通報を受けたが」と、男性。「きみたちは一体なにをしているんだ?」

「これは魔物じゃない」ウォーロックが言う。「毛むくじゃら人間って知らないか? それだよ」

「ああ、そういうこと」と、女性。「カラタユート、私たちの出番はなさそう。彼に任せれば大丈夫」

「僕には異様な光景に見えるんだが」

 カラタユートと呼ばれた男性は、怪訝な表情で辺りを見回している。もし自分たちが先に到着していなければ、その腰に携えた剣で毛むくじゃら人間を殲滅していたかもしれない、とスクワイアは思った。

「これは一体どういう状況なんだ、シェイラ?」

「カビタケの胞子が飛んで来て人間に寄生すると、毛むくじゃら人間になる。中身は人間。魔物じゃない」

 シェイラと呼ばれた女性の説明を受け、カラタユートはまだ訝しげな表情をしながらも、わかった、と頷いた。

「リートレの民じゃないのか?」ウォーロックは手元に視線を落としたまま言う。「それくらい常識だろ」

「カラタユートは、リートレに配属になったばかり」と、シェイラ。「まだリートレのことは詳しくない」

「へえ。よかったな、さっそく勉強になったじゃないか」

 ウォーロックの物言いが引っかかったのか、カラタユートの眉がぴくりと震えた。しかし、ウォーロックに悪意はない。言い方がよろしくないのはいつものことだ。

 ややあって、よし、とウォーロックは顔を上げる。

「こんなもんだろ」

 ウォーロックは魔法陣を描いた紙をスクワイアとクルト、アモルに一枚ずつ渡す。円形を中心にいくつかの図形が描き込まれた魔法陣で、模写することはそう難しいことではなさそうだ。

「集落の端まで行って、地面にこれを描き写せ。描く物は石だろうが枝だろうがなんだっていい。ただし、正確にな」

 ウォーロックの先の指示通り、スクワイアは北、クルトは西、アモルは南へ向かった。ウォーロックはマントの浮力を借り、ふわりと浮き上がる。お前らはそこにいろよ、とカラタユートとシェイラに言って東へと飛んで行った。

 集落の南側の端へ向かうアモルは、ウォーロックが魔法陣を描いた紙を見て胸が高鳴っていた。果たして彼が本物のウォーロックかは確証がないが、尊敬する母が心から敬愛していた人、それがウォーロックだ。母からの手紙には、いつもウォーロックのことが書かれていた。彼が本物のウォーロックであれば、念願が叶うことになる。さらに彼の手助けをすることができるのは、とても幸運なことのように思えた。



   *  *  *



 集落の端に四つの魔法陣を描き終えると、四人は再び集落の中心に集まった。カラタユート」はいまだ怪訝に眉をひそめ、シェイラは無表情で彼らを観察している。

「じゃあ、いくぞ」

 ウォーロックは肩の高さに腕を上げ、手のひらを地面に向けて目を閉じた。ウォーロックが光に包まれると、それは地面を伝って魔法陣を描いた四方向に向かっていく。地面に四つの道筋が伸び、光は集落全体を覆った。ウォーロックが右手を高く掲げると、輝きが弾け生み出された波動が集落全体を揺らす。その瞬きを受け、辺りをふらふらと彷徨っていた住人たちの体を覆っていたカビが一斉に払われた。人々は我に帰り、みな安堵の笑みを浮かべる。それから数名がウォーロックのもとに駆け寄って来た。顔馴染みの初老の農夫ケンジャーが代表として進み出てウォーロックの手を握る。

「ありがとう、ウォーロック。助かったよ」

「俺様を呼びに来たクルトに感謝するんだな」

 片眉を上げて言うウォーロックに、ありがとう、とケンジャーはクルトの頭を撫でる。クルトは誇らしげだった。

 ひとしきり礼を言った住人とクルトと別れ、ウォーロックとスクワイアは帰路についた。アモルもふたりについて来るので、西の集落の住人ではないようだ。

「どうだ? アモル」ウォーロックが言う。「俺様が大魔法使いウォーロックだってわかったろ?」

「…………」アモルは俯く。「まだ確信が持てないわ」

「あ、そう」

「だから、あなたが本物のウォーロックだって信じられるようになるまで、あなたのそばで修行させてほしいの」

「……お前、アーラの娘か?」

 思い出したように言うウォーロックに、アモルはそれまでの浮かない表情を消しパッと明るくして顔を上げる。

「母を覚えてるの?」

「あれだけ一緒に研究してたやつを忘れるわけないだろ」

 先程まで忘れてたようだが、とスクワイアは心の中で呟いた。

「私、母のような魔法学研究員になりたいの。だから、あなたのそばで勉強させてほしい。邪魔はしないから」

「ふうん。まあ、好きにしろよ」

 突き放したようにも聞こえるウォーロックの言葉に、ありがとう、とアモルは嬉しそうに微笑んだ。

「俺様は弟子は取らないが」と、ウォーロック。「俺様を師匠にしたいと考えるのは見どころがあるな」

 なんの見どころだろう、とスクワイアは心の中で呟いた。

「あんまり悪影響を与えないでくださいよ」

 少し呆れて溜め息混じりにスクワイアが言うと、ウォーロックはムッと不満げに顔をしかめた。

「俺様のどこが悪影響を与えるって言うんだ」

「ご自分の普段の言動を思い返してくださいよ」

「この大魔法使いウォーロック様が悪影響を与える言動をしてるって言うのか? お前の目は節穴か?」

 言い争いながら家に向かうウォーロックとスクワイアに、アモルはおろおろとふたりを見回している。クルトがいたら、喧嘩しないでよ、と諌めるところだろう。出会ったばかりのアモルがふたりのあいだに割って入ることなどできるはずもなく、ふたりの言い争いは家に着くまで続いた。





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