6話 想定外の一撃
「――ここは……」
「ここはダンジョンの入口。まぁダンジョンといっても【裏】なんだけど。さて、ここだとまだ壁とか天井と壊されちゃう可能性があるから……ダンジョン【スライム】にでも行くとしようか。あそこは入口近くがセーフティーエリアになっているからね」
花咲さんに叱られた後全員で大人しくご飯を頂くと、会長を先頭に1つの平屋へ。
そこは5つの階段と立て看板という簡素で殺風景な内装で……どうやらこの下り階段がダンジョンへと続いているらしい。
上に続く通常のダンジョンと下に続くダンジョン。
表と裏、こっちとあっち。
攻略班のリーダーがあれだけ恐れていたのがこのダンジョン、裏ダンジョンってわけか。
「――群がってるね。でも、ここには入れない。面白いよ本当にダンジョンという奴は。誰が作ったのか分からないけど、ここはいわば初心者用で良心設計。上は……チュートリアルってとこなんだろうね」
早速ダンジョン【スライム】という立て看板が側に立てられた階段を下った。
すると透明の何かで遮られたモンスターたちが俺たちのことを襲おうと群がり、重なり合い、中にはスキルを発動したり魔法を行使している個体も見られた。
そもそもスライムなんて雑魚中の雑魚。
ふにふにとした体でぴょこぴょこ動くだけのはずなのにこんなに凶暴なのはおかしい――
「ってレベル……40?」
「レベルだけなら5階層のボスよりも高いわ。実力は……同じかそれ以上かしら。さてと私は撮影の準備準備」
……。
リーダーが怯える理由が分かった。
これ、普通の探索者じゃ絶対無理だ。
「となるとここで狩りをしてる探索者はもっと……」
「会長! もう始めていいですか?」
「ちょっと待ってくれ。……ほいっ! 訓練用の木剣。これで戦ってくれ」
モンスターが襲ってこないこともあってSランク探索者はここで鍛錬することも多いのだろう、会長は壁際に立てかけられた木剣を適当に投げ渡してくれた。
「でも……。あのお、もう1本いいですか?」
「ん? 珍しいね双剣使いなんて。でも、了解だ!」
「ありがとうございます」
「……。1本より2本の方が強いとか、俺は素人の発想だと思うけどな。それか中二病患者か」
「よく言われるんですけど……その中二病って呼ばれ方、嫌いなんですよ」
「ふーん……。お利口さんタイプかと思ったけど、ちゃんと言い返せるじゃん」
お互い戦闘態勢に入って視線を合わせる。
戦いの始まり、その瞬間が近づいて俺の鼓動は高鳴っていく。
とてつもない重圧感。
まだ何もしていないのにそれだけで汗が止まらないし、呼吸は荒くなる。
戦いの始まりじゃなくて、これもう始まってるんじゃ――
「『ファイアバードLV30』、『ファイアリザードLV30』。まずはこれで様子させてもらうぜ。情報が少ない場合誰が、どのモンスターが相手でも不用意に突っ込まない。戦いはあくまで冷静に、クールが基本だ」
「クール。そんな見た目の割に、ですか」
空を飛ぶ炎の鳥と地面を這う炎のトカゲ。
それらは俺を狙って縦横無尽に駆け回り襲ってきた。
ほとんど避ける場所がない状況。
それも寺本さんから発せられたLV30って言葉から察するにその殺傷の能力は5階層のあのコボルトと同程度だろう。
こんな風に炎で作った生き物を操る魔法は知っているけど、ここまで強力なのは流石に……。
それにHP10しかない俺にとって火傷状態は致命傷というか最悪即死。
相性は最悪と言える。
「けど……。対応できてるな」
「ほう……。これを避けるのか。しかも……掻い潜ってきやがった!」
発動されている究極回避は、それらに臆することなく、それどころか最小限の動きで避けつつ俺の身体を前進させていく。
こうしてみると、この攻撃俺を狙っているようで……狙っていない?
「ここまでは及第点。だけど次、実際に剣を交えたときはどうか……攻めて来いよ。中二病双剣使い!」
「だからそれは止めてくださいって……言ってるでしょうが!」
黒い炎を纏った寺本さんの剣は俺の顔面を狙う。
見えてはいる……けど、黒い炎が急に強くなって木剣を振るう速さがブーストして――
「捉え……ていない?」
「それでも避けれるんですよ。俺のスキルは。ちょっと身体が、痛いですけど」
身体をありえないくらい反ってギリギリで剣を回避。
自分の柔軟性の限界を突破して腰に痛みを覚える。
けど……戦える。
「喰らえ!」
「くっ! こざかしいっ!」
2本の内の1本を寺本さんに投げつけて気を逸らす。
そしてそこからもう1本でその胴を木剣で殴りにいった。
だけど……。
――ぼうっ……。
「剣が燃えた? 身体に当たっただけなのに……」
「ヤバ。そういえばこのスキルかけっぱだった……。ってかこれが発動する威力だったってことかよ……。……。『炎纏い解放』」
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