第1話
さあさあさあ!
寄ってらっしゃい!
見てらっしゃい!
今回のお題目は、
見目麗しい姫騎士の冒険のお話だよ!
軋んだ耳障りな音とともに地下牢の重い扉が開く。
「出ろ」
感情のない獄吏の言葉に従いのそりと牢を出ると、お姉様が静かにたたずんでいた。
「嗚呼!お姉様っ!私は、私は!」
思わず私は姉にすがりついて号泣する。
「いいのですよ、アンネ…」
お姉様は私を優しく抱きしめてくださった。
「お姉様…ううぅ…」
私は、アンネローゼ・フォン・エイラス。エイラス辺境伯の四女として生まれた。
エイラス家は帝国の東の国境に面した領地を治めている。代々続く武門の家系で、帝国の歴史の中で剣技や軍略を極めた剣豪や武将を数多く輩出してきた。
当主のアルベルトお父様は帝国第一騎士団の団長、次兄のアルフレドお兄様もお父様の元で副団長を務めていた。
その下の長女のアルマリカお姉様は、剣技もさることながら、聖教会の聖女としての御活躍をされていて、文武両道才色兼備のアルマリカと国内外で有名だ。
お母様は私を産んだ後にご病気で亡くなられたが、歳の離れた末っ子の私は、たいそう皆から可愛がられて育った。
天賦の才なのかは分からないが、6歳の時に軽い運動としておこなっていた剣の手合わせにおいて、油断していたお父様から一本を取れてしまった。
お父様はたいそう驚き、喜び、そして褒め称えた。
「アンネローゼ、すごいぞ!お前は天才だ!私が6歳の時は素振りすらまともにできずに、よく父に叱られたものだ!」
その後、主に長兄のアルマルトお兄様から、楽しく時に厳しく丁寧にご指導をいただいた。体術、格闘術、剣技、戦術論、戦略論、政治経済、語学などなど幅広い分野を。
希望すれば帝都の貴族学園に通うこともできたが、私は領都の一般的な学校に通うことにした。故郷が好きだったし、友達も居たから。
お父様、お兄様、お姉様の3人は、帝都でのお仕事をお持ちなので基本的にご不在が多かった。
領主代行として領地に駐在されていたアルマルトお兄様以外の家族からは、時折領地に帰ってきたときに、微に入り細に入りご指導いただいた。
そして、私は相手に恵まれたこともあり16歳の若さで、帝国剣術大会女子部門において最若年で優勝をしたのだ。しかも、ただの1回も攻撃を受け怪我をしないという前人未到の記録とともに。
史上初の快挙を遂げた私は、一躍「エイラスの姫騎士」と祭り上げられて、トントン拍子で近衛騎士団に入れた。
そして、あれよあれよと言う間に、17歳でカイゼル第一皇子殿下の直属の護衛騎士の1人となったのだ。
さぁて!
我らが姫騎士は、
若くして貴族たちの蠢く
栄華栄達の道に入った!
その剣先は何を斬りひらくのか!
次回をお楽しみに!