疑似恋愛
この物語はフィクションです。
俺は一つのゲームにハマっている。
それはアバターと呼ばれる、架空上の人物を作り遊ぶ物。
アバターを操作し、色々な人と話をする。
小さな疑似空間と言える。
その中で俺と彼女は出会った。
―4か月前
一人のアバターに声をかけた。
変なポーズで止まってるヤツ。
なんとなくそれが面白くって、
気軽に声をかけてみた。
「ナイスバランス!!」
俺が声をかけると、彼女は笑って答えた。
「ありがとう♪」
それからちょっとだけ話をして、
お互い疑似恋愛の話をしていた。
「やってみようか?w」
俺がそう入力すると
「いいよ♪w」
そう言って彼女は答えた。
その時初めて彼女の名前を知った。
名前を「ハルカ」と名乗った。
俺達の疑似恋愛が始まった。
二人で下らない話をしていた。
学校の事、お互いの私生活、好きな歌、
好きな異性のタイプ。
疑似恋愛と区別がついていたから、
別れ際にもお互い「好き」とか、
「愛してる」なんて言う事はなかった。
数日経つと、ハルカは飽きてきたのか、
他のアバターと一緒にいる姿をよく見かけた。
それから数日間はお互い挨拶程度しか交わさず、
それぞれ好きな事をやっていた。
「一体何を考えているんだろう?」
この時初めて、ハルカに興味を抱いた。
正確には、「アバターを操る彼女自身」に。
それからハルカを知るため、よく一緒に居た。
ハルカがオンラインしてくると、すぐにハルカのもとへと行った。
そうしている内に、なんとなくお互いそうするのが当たり前となり、
お互いに相手がオンラインになると、すぐに会いに行った。
そんな生活が3か月続いた。
―先月
ハルカが突然いなくなった。
友達リストからも消えていた。
「自然消滅か…」
俺はそう呟くと、何事も無かったかのように生活していた。
一抹の寂しさを胸に抱いて…。
数日後、ハルカからメールが届いた。
間違って消してしまって、連絡が取れなかった。
そういう内容だった。
俺は「気にしてないよ^^」と返信をして、
ハルカからの返事を待った。
そうして、再びハルカとの疑似恋愛は再開した。
この時、既にハルカそのものを、好きになり始めていたのかもしれない。
―2週間前
突然ハルカから「別れよう」とメールが来ていた。
しかしその後、「さっきのは気にしないで。」
そうメールが届いていた。
一体なんだろうと、俺の胸に一つの不安が浮かび上がった。
―3日前
ハルカとの会話。いつも通りだと思っていた。
何気なく俺は、ハルカに尋ねてみた。
「俺の事どう思ってる?リアルでw」
冗談のつもりだった。
「…」
ハルカは何も言わなかった。
俺はハルカの返事を呆然と待っていた。
「…好きだよ。リアルで。」
その一言の後に、ハルカは言葉を続けた。
「言わないつもりだった。認めたくないから。」
「だからあの時、別れようって言ったのに…。本気になる前に…。」
そうして、俺とハルカ。
疑似恋愛の関係は崩れ去った。
ハルカは女子高生だった。
その心は繊細で、汚れ無い心だった。
俺はどうしていいのか分からなくなった。
俺は20代後半へと差し掛かり、
仕事ばかりの生活で、ハルカとはリアルでは付き合えない。
そう思っていた。
俺はハルカに言った。
「友達に戻ろう。」
その一言はハルカを傷つけた。
ハルカはブログもゲームもやらなくなった。
もう会う事はないのだろう。
ハルカに言えなかった一言がただ一つ、
胸に残ったままだ。
「好きです。」と。
もしも何処かの街中で、
普通に彼女と出会っていたら、
俺は彼女と交際していたかもしれない。
疑似恋愛などせずに、真の彼女と向き合っていたら。
何かが変わったのかもしれないが、
俺は彼女の将来を言い訳にした。
何が幸せなのか、俺が決める事ではないと知りつつ…。
何時か何処かで出会えたならば、
この気持ちを素直に伝えようと思う。
今は胸に隠して、生きて行こう。
彼女の幸せを願いながら。
もし、彼女の幸せが、俺であれば
再び俺達は出会うだろう。
次は疑似恋愛ではなく、
真実の恋愛として。