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僕のスケッチ

作者: Lily

はじめまして!

小説家になろう 初投稿作品です!

慣れない操作で緊張していますが、最後までお読み頂けると嬉しいです(^ ^)

 たいして特別なこともない冬の午後。


 にわかに分厚い雲の隙間から日差しが顔を出した頃僕はスケッチブックを片手に家を出た。だいぶ風情なやつだと思われるかも知れないがそうでもない。ただ五感の感じるままに手を動かしていくだけだ。


 いつもと同じ公園。


 寒い冬には誰も遊ばないのか、がらんとしていた。子猫が1匹、寒そうにうずくまりながらこちらを見つめていただけだ。僕は


「よっこいしょ」


 とベンチに腰掛けて


「ふうっ」


 と息を吐き、空を見上げた。

 さっき照っていた日差しもまた分厚い雲に隠れてしまった。

 ポケットから出した短くなったちょっと描きにくい鉛筆が、シャッシャッと心地よく紙の上を滑り出した。みるみるうちに子猫の完成だ。子猫の瞳に注意して描いてみた。寒そうな子猫に一応完成した絵を見せてみたら「ニャー」と一声鳴いただけだった。



 その夜、僕はゆり椅子に1人腰掛けて暗くなった庭を眺めていた。

 池にいる亀がふわぁとあくびした時、その視界の奥に影がふっと現れた。僕はよく目を凝らしてみた。暗闇の中にくっきりと鋭い目つきがこちらを見つめていた。「ん?」と思って僕も見つめているとこちらに近づいてきた。しかも近づいてくるにつれ分かったが、鋭い目つきは1つではない。月明かりに照らされてやっと子猫が10匹ほどいると確認できた。


「野良猫にしても多いなぁ」


 と僕はつぶやいた。その中に見覚えのある子猫もいた。昼間見た子猫だ。その子猫は僕の近くまでやってきて窓をカリカリ引っ掻いた。窓を開けてやるとぴょんっと部屋に上がってきて


「描いて」


 と一言言った。


「ん?今…なんて?」


 僕はあんまり驚きもしなかったがちょっと気味が悪かった。


「昼間私の似顔絵描いてくれたでしょ。私のお友達の似顔絵も描いて欲しいの」


 今度ははっきりと子猫が喋った。


「喋った…」


 と驚きつつも「いいよ」と僕は言った。


 また無心に、感じるままに真っ白な紙の上に鉛筆が踊り出した。シャッシャッと耳に心地良い音が響いてくる。1匹1匹目の形も顔の雰囲気も違うから描いていて面白かった。描いている間、子猫たちは大人しく僕の周りに寝そべったり毛繕いしていた。10枚はあっという間に描き終わった。子猫たち1匹1匹に見せるとどの子も嬉しそうに


「ありがとう」


 と言って似顔絵を咥えて去っていった。なんだか凄く不思議な時間だったが、僕はたいして特別なこともない日に急に現れた、特別なことに、変な気持ちに襲われた。


 でも後味は悪くない。むしろ久々に自分の絵を認めてくれる人に出会ってじんわり温かい気持ちになった。今まで自分の絵を認めてくれる人など、どこにもおらず、世間の冷たい目に自分から立ち向かうこともなく、避けるばかりの人生だった。


 だから、「描いて」と言われて描く絵がどれほど楽しいものか感じたことがなかったのだ。


「いい時間だったなぁ」


 僕はゆり椅子を揺らしながらくっきりと見える月を見上げた。


「明日は晴れかな」


 そう言ってそろそろ寝る準備をしようかと思った時、庭がまたにわかに騒がしくなってきた。


 何事かと思って見てみると今度は大人の猫が10匹ぞろぞろやってきた。


「これはまた描いてと言われる展開だな」


 僕はそう推測してまたスケッチブックを取りに行った。またしても猫が窓をカリカリしたので開けると、猫は言った。


「私達の子供を連れ回してどういうつもり?!」


「うちの子供が迷子になったと思って探し回ったのよ!」


「あなた許さないわよ!」


 散々な言われようだ。

 どうやら子猫たちは親に言わずにここへやってきて、心配した親が子猫たちを探し回っていたようだ。

 僕が弁解するのも聞かずに怒りだけぶつけていった親たちはそそくさと帰っていった。


「理不尽だ」


 僕はぽつりと言った。


「理不尽だ」


 僕はまた呟いた。


 でもふと思った。


 僕が今まで避けていたのはこういうことだったのか?楽しいことや理不尽なことも全て避けて生きてきた。人生の中で理不尽なことなんて日常茶飯事だ。


「ふぅ」


 僕はゆり椅子に腰掛けて額に手を当てた。月明かりが僕を照らしていた。これは僕に与えてくれた神からの生きる励ましなのか?確かに成功したと思ったら失敗して、山あり谷ありというのもこういうことなのかも知れない。


「ありがとう神様」



 ハッと目が覚めた。


 あれ?夢か?


 手元に置いてあるスケッチブックをみてみると子猫のスケッチが一枚だけ残っていた。鉛筆の削れ具合からして夢であることは間違いない。


「あぁ良かった」


 僕は思わずつぶやいた。

 でも夢の中で感じた気持ちははっきりと覚えている。僕はゆり椅子から立ち上がってだいぶ奥に眠っていたスーツを取り出した。綺麗にアイロンをかけてパリッとしたシャツを着た。


「スーツってこんなに気持ちも引き締まるものだっけ?」


 僕は池であくびをしている亀に問いかけた。

 玄関の扉を開けると冷たい空気が肺の中に一気に流れ込んできた。昨日とは打って変わって高い青空からまばゆいほどの朝日が差し込んで来た。僕の手にはやっぱりスケッチブックがあった。


もう迷わない。


これから僕のスケッチvs世間が始まる。




お読み頂きありがとうございましたm(_ _)m


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