見えている3
見えている3
電話は実家の長男からであった。
永太がどこを探しても見つからず、あちこちを探していると言うのだ。
長男の奥さんが永太が「お姉ちゃんのところ行ってくる」と言ってたらしい。まあ、その時はまた誰かと遊びに行った程度にしか思わなかったらしい!
「永太、お姉ちゃんの名前言ってたか?」
俺はとっさに永野寛美を思い浮かべ、長男の奥さんに訪ねた。
「ええと…?」
「ながのひろみ、って言ってなかったか!」
「ああ、それかな…苗字は覚えてないけど、確かにひろみって言ってたわ」
「義姉さん直ぐに行くよ!」
俺は電話を切ると直ぐに車に飛び乗った。
「何があったー永太!」俺は叫んでいた。
俺が実家に着いたのは午後5時頃であった。
長男は居なかった、まだ永太を探している。母と義姉は俺の姿を見るなり泣き崩れてしまった。
「永太が……永太が……」
それ以上は声になっていなかった。
「義姉さん大丈夫だよ、大丈夫……直ぐに帰ってくるから……」
俺は、何の根拠も無い事を言っている。
時間だけが過ぎていく。
ふと、永太の言葉を思い出した!
「オッチャンがもやもやとおったからや」
俺は車に乗り込んだ!
いきなりだったので母がビックリしたようだ!
「どうしたの?」
「ちょっと思い当たる所がある!」
母と義姉は「私たちも……」と言うが、根拠のない行動なので静止し
「兄さんが帰ってくるかも知れないから、2人は居て下さい」
そう言うと俺は直ぐに車を走らせていた。
実家の途中にある峠。
「永太が言っていた、もやもやの場所!」
その瞬間、永野寛美が見えなくなったと永太は言った。
その峠は、今は舗装され車もすれ違う事ができるが、数十年前は砂利道で道幅も細かった。
峠の頂上の脇にくるまを止めて、辺りをみまわし
た。
夕暮れが迫っていたが、木が生い茂り薄くなっていた。
懐中電灯を持ち車から降りた。
「永太!」「永太……」俺は何度か叫んでその辺りを探し回った。
夏とはいえ、やはり峠である日が落ちて来ると冷んやりとしつつある。
その時、峠から降る細い道を見つけた。
実家に向かう時によく通るのだが、峠に降る道があるとは知らなかった。懐中電灯を照らしながら、降りてみた。
雑草や木々が生い茂っている為に先がなかなか見えない。
その時、薄明りに光る部分が見える。
そこには子供の影が浮き上がっている。「永太だ、間違いないあれは永太だ…!」
俺は急いで駆け降りた、だが、薄明りが消えていく。「待ってくれ、まだだ消えないでくれ…!」
しかし、辺りは完全に闇となり永太を見失ってしまった。
懐中電灯をそこら辺りに照らしたが、永太の姿は見えない。
「うおー、永太ー永太ー」
俺は我を忘れて草むらを掻きむしっていた。
やがて、俺は力尽き膝から地面に座り込んでしまった。涙が溢れていた。
ばーっと、突然何が腕を掴んだ!
「オッチャン…」
永太だ、永太が掴んできた。
「永太…!」言葉にならなかった、そこには永太がいた。俺は永太を抱き抱え、草むらから峠を駆け上がり通りに出た。
「永太には怪我は無いよだ」
抱き抱えた永太からスースーと寝息が聞こえてきたからだ、俺は安堵しそのまま車に乗り込み実家に向かった。
実家に着くと母と長男夫婦が駆け寄ってきた、もう3人とも言葉になら無い、母は安心し切って腰を抜かしたようにへたり込んだ。
長男夫婦も永太の寝息を聞いて、ありがとう、ありがとう、よかった、よかったを繰り返し涙をながしていた。
翌朝の永太はけろっとしていた。
俺は少しの間、実家でゆっくりする事にした。
長男夫婦は俺が居るので、安心して仕事に出掛けた。
永太に昨日の事は、無理には聞かなかった。
永太はいつものようにタブレットを見ている。
「オッチャン、トイレ付いてきて…!」
「ああ、ええよ!」
「ドア閉めんといてな…」
「あのなオッチャン…ヒロミ姉ちゃん消えたやろ、とつぜん!」
不意に永太が話だした。
「らしいな、俺には見えんからなー」
「そしたらきのうな、呼ぶ声がしたんよ」
「呼んでるって思ったから行ってみたら、お姉ちゃん違うよ、なんか変なやつおってなー」
「なんで、お姉ちゃんの声やったんやろ?」
「トイレのやつがモノマネしててなー、あそこに引っ張って行こうとしたんよ」
「そしたら足すべっな、そしたら本物のヒロミ姉ちゃんがあらわれてなー、追い払ってくれたんよ!」
「そしたら、オッチャンが光ってたの見てんけど、きいついたら朝やったんよ!」
俺はハッとした。
あの時、永太が薄明りに光っていたのは寛美が助けてくれたんだ。
「そやそやそれと、オッチャンな…」
「お姉ちゃんな〜、もう泣かへんって言ってるわー」
「そうか、泣かへんって…良かったー」
「わるいやついてるから、ずーっと離れんとついとくって…」
「……」
「え〜、えええー!」
どんな、オチやねん。
まあ、俺には見えんからどこまでが真実か分からんけど〜!
……おわり