見えている
子供が小さい頃、何処かを見ながら独り言いってる事なかったかな!
なんか、見えてたのかな?
仕事が多忙だったが、久しぶりに休みが取れたので、実家に帰ってみた。
3年ぶりだ。
実家の農業は父が3年前亡ったのを期に、長男夫婦が後を継いだ。母も同居で今は元気で畑仕事をしている。
次男の俺はお気楽に結婚もせず、都会で独身生活を満喫している。
今年で35歳になる。
25歳の時に結婚は考えた事はあるが、ある事情で出来なかった。それ以来結婚は考えていない。
長男夫婦には子供が3人居る。
長女は高校生2年、17歳か、長男は中学3年今年高校受験、次男は少し離れて来年小学校に入学する。姪と甥と甥っ子になるわけだ。
まあ、これだけ居ると俺の居場所はいずれ無くなってしまうだろう。
しかし、まだ俺の部屋はそのままにしてくれている。だからかその部屋は大学に行ったその日から、時間が止まっている。
「久しぶりだから、今日は泊まっていけ」
「ああ、ありがとう」
兄貴夫婦とは案外仲が良かったので、遠慮は無かった。
酒も料理も振る舞ってくれた。
久々に、のんびりと眠れた。
翌朝、
「いってきます」
上の子供達、2人が学校へ行ったようだ。
長男夫婦も田畑に出かけた様だ。
残ったのは母と下の甥っ子であった。
母は俺が居るので料理をしてくれている。
甥っ子の保育園は今日休みらしい。
「オッチャン」
部屋でくつろいでいると呼ぶ声が聞こえた、甥っ子の永太だ。
「どうした、退屈か?」
ドアを開けるなり、部屋に入ってベッドに飛び乗った。永太とは3年前に会って以来久しぶりである、その時はまだ、3歳と幼かった。
「オッチャン、ええことおしえたろ!」
「なんや」
「だれにもいわんといてな、ぜったいな」
まあ、子供の言うことやから何てない事やろと思いつつ、3年も経つと、しっかりしてくるもんやと感心してしまった。
「あんな、エイタな、見えるねん!」
「なに?」
「見えてるねん」
永太は、なんで、わからへんのって、顔をこちらに向けていた。
「いっぱい、見えてる」
「……?」ますます、解らん?
「オッチャンのウシロにも、おるよ」
「後ろに、何がおるんや?」ますます、判らん!
「おんなの、ヒト」
「えっ……女のひと!」
俺は振り返って、そしてもう一度振り返った。
「なんも……ない……けど」
永太はちゃうちゃうと、いう素振りを手でした。
「だから、ボクにしか見えてへんのや、オッチャンには見えへんって」
俺は背筋がぞーっとした。
「なんか、言うてるんか?」
「いや、泣いてるだけや!」永太は素っ気なく言った。
「その女の人誰か、わかるか?」
「うーん、わからん」永太は口をとんがらせていた。
「まだ、いっぱい見えるで」
俺はどうしたらいいのか、分からなくなってきた。
「……」
「ばあちゃんには、ジィジついてるし」
「そやけどトイレのヤツが、あかんねん、わるさするねん」「せやから、オッチャン付いてきて」
永太はバタバタしはじめた。
「もれるー」
なんや、トイレが怖いからか!
少しホッとし、永太をトイレに連れて行った。
「ドア、しめんといて」
えらい、長々と言い訳して、素直に言えばいいのにと思ってしまった。
やはり子供やって!
「オッチャン、ヒロミやて!」
「えっ、何が?」
永太は便座に座り、届かない足をピンと伸ばし、きばりながら言った。
「オッチャンのうしろ、おんなのヒト」
「ナ・ガ・ノ・ヒ・ロ・ミって、いうてる」
俺は青ざめた!
永野寛美……25歳の時、喧嘩がもとで別れた彼女で、数年後事故で亡くなった。
彼女が亡くなったと聞いた時、俺は後悔をした、そして今でも!
永太は本当に見えている。
名前を知っているはずはないからだ。
その時、トイレットペーパーが、ガタガタと音をたてて揺れだした。
「なっ、オッチャン、わるさするやろトイレのヤツ」
俺は、腰を抜かし座り込んでしまった。
この物語は続けたいきがする。