第17話 山賊
翌朝、朝食を食べた後、北門近くの警備隊事務所前についた。ちゃんと、自動車を止めるスペースもある。
『念のため、私たちはここで待っているぞ』
ヒギエアがいった。隣に座っているエウフロンネが首を縦に振っている。
(地方とはいえ警備隊だからな・・・ヒギエラはバレるわな・・・)
『解った』
そういうと、ボイはリサを見た。
『私は行きますよ~♪』
いつも通りだった。
・・・
事務所にはいると、目の前に受付があり、若そうな女性が入ってきたボイとリサに声をかけてきた。
『警備隊事務所にようこそ。どのような御用でしょうか?』
警備隊という割には、フレンドリーな対応である。
『アメリ山にダンジョンが有るはずなのだが・・・』
ボイがアメリ山のダンジョンを口にした途端、受付の女性から笑みが消えた。
『ダンジョンに御用なのですか?』
同じ人とは思えないほど低い声で受付の女性が聞いてきた。ボイは冒険者ギルドのカードを見せる。それで全てを察したのか、
『ダンジョンは、北門から続いている道をまっすぐ進んでいけば、入り口に着きます。特に異常が発生したという報告はありません』
受付の奥にいる警備員たちが、突然、事務所から出ていくのが見えた。
『なるほど。ありがとう』
受付の言葉に礼を言って出ようとするボイに対して、
『ダンジョンの中へは自己責任でお願いします。警備隊は救助要請があっても、ダンジョンには入りません』
低い声で受付の女性が言った。ボイはリサに外を指さし、
『解ったよ』
というと、リサを押し出すように事務所を出た。
『あれでいいのですか~♪』
リサは、もっと聞くべきだといわんばかりにボイの顔を見つめた。
『あれ以上は何も教えてくれないだろうね・・・早くいかないと面倒なことになりそうだ』
そういうと、止めていた自動車に歩いていった。
・・・
『何か解ったか』
ヒギエラが戻ってきたボイに声を掛けた。
『異常報告がないことと、歓迎されていないことが解ったよ』
そういうと、自動車を走らせ、早々に北門からアメリ山に向かった。
『食料とか買わなくてよかったのか?』
車内でヒギエラがいった。ボイに対してである。
『プロスチェで買い込んであるので問題ない。それより、早くいかないと、面倒になりそうだ』
・・・
『やっぱり・・・』
運転席のボイは目の前に現れた車たちを見ていた。トラックに5人の男が乗っている。この世界には、銃はないので、皆、立派な剣を持っていた。ガタイの良さそうな男が、道を塞いだトラックの前でこっちを見ている。
『あれは、山賊のようだな』
『山賊ですね』
『準備運動ですかね~♪』
顔を引きつらせているヒギエラとエウフロンネに対し、リサはボイの実力を知っているので、心配していない。
自動車から降りたボイを確認したガタイの良さそうな男が
『おう。女3人つれて観光か・・・女たちは楽しませてもらうので、さっさと死ね!』
そういうと、剣を持って、ボイに切り掛かってきた。
(遅い)
ボイは切り掛かってきた剣を躱すと
『ファイヤーボール』
切り掛かってきた男に火の玉を飛ばした。
『あっ・・・』
あっという間に火だるまになる男。しばらく動き回っていたが、その場に倒れた。ボイがトラックを見ると、5人の男がトラックを降りようとしていた。
『ファイヤーボール』
先ほどより大きい火の玉が、トラックに向かって飛んで行く。火の玉がトラックに到達した直後に炎上した。
『ファイアーアロー』
『ファイアーアロー』
『ファイアーアロー』
『ファイアーアロー』
『ファイアーアロー』
トラックから飛び出した5人にむけ、ボイは炎の矢を放った。5人は、最初の男と同じく、火だるまになったのちに倒れた。
『全員丸焦げですね♪』
リサが、ほぼ炭になった人だったものに近づいて何かを探していた。
『あった~♪』
リサはそういうと、枝を拾ってきて、何か光るものを回収していた。
『隊員証♪』
ヒギエラが、リサの持っていたものを指さしながらいった。
『こいつらは、さっき事務所の奥にいた連中だ』
ボイは人だった塊をトラックの残骸に放り投げながらいった。6人を放り投げると、
『アースクイック』
とトラックとその周囲を陥没させた。次の瞬間、トラックの残骸と6人の残骸は陥没によって出来た穴に埋まっていた。その後は、ファイヤーボールで原型をとどめないレベルで残骸を焼いた後、アースクイックで土を盛って埋め戻した。土で固めただけの道は、すっかり元通りになっていた。注意してみれば、妙に真新しい感じに見えるが、周囲には何もなく、普段は通行も無いようなので、気にされることはないだろうと思われた。
『こんなもんでいいだろう』
ボイはそう言うと運転席に戻った。
『警備隊の連中が山賊をしていたとは・・・』
ヒギエラは呆然とボイの作業を見てみた。