第15話 出発
吸瘴石を集める旅に始めるため、4人はBE36に乗り込んでいた。
『まさか夜間照明があるとは思わなかった』
そう、この空港には夜間照明設備が完備していた。行政機能の管理部分を調べたところ発見したのである。そのため、夜明けの4時間前・・・午前2時にBE36で離陸したのだった。
BE36の計器は、モスドにセットしてある。HSIもDMEも順調で、このままいけば、日の出の時間(午前6時)にモスドに到着できる見込みである。レーダーがないこの世界では、この時間に見つかる可能性は非常に低い。帰るときも、夜間照明を自動点灯していたので、BE36が向かっていれば、それをキャッチして照明がつくらしい。念のため、離陸後、ノベーミストの設定をRMIから切り離した途端、夜間照明が消え、再びRMIで設定した途端、夜間照明が点灯したのを確認している。
・・・
BE36は予定通り、日の出直後の午前6時、モスドの滑走路に着陸した。格納庫の前まで移動させてくると、老人が出迎えていた。
『そろそろ来るころだろうと思ってました』
そういいながら4人を連れて行った先には、朝食の用意がしてあった。
『車を用意してありますのでお使いください』
老人はそういうと、建物の脇にあるガレージのシャッターを開けた。そこには、まぎれもなく自動車があった。
『使い方はご存知だと思いますので・・・』
ボイが運転席を覗き込むと、それは見慣れた自家用車の室内であった。但し、ミッションはマニュアルのようである。6速MT車であった。
これもBE36と同じく、エンジンではなく、魔力変換装置が搭載されており、アクセルで回転数を調整、クラッチで変速機を切り替え、ブレーキで止まる仕組みである。エンジンの車と違うのは、停止時にニュートラルにしなくても、魔力変換装置が動作を止めてくれる(つまりエンストがない)ことくらいである。他は、セダンの乗用車と何も変わらない。
『ああ・・・せっかくなんだけど・・・街で駐車して置く場所がない・・・・』
ボイが申し訳なそうに老人にいうと、
『ハハハ・・・BE36が入るアイテムボックスをお持ちなのに、そんな場所は要らないでしょう・・・』
老人はボイの言葉を冗談だと受け止めたらしい。
(そうか・・・街の外で降りてアイテムボックスに仕舞うことにしよう)
ボイは車を使わせてもらうことにした。
・・・
モスドからプロスチェまでは、僅か10kmである。廃道であるため、あまり速度は出せなかったが、それでも10分としないうちにプロスチェに到着した。
東門近くの山陰(丘の陰と言った方が正確な感じ)で4人は車を降り、ボイは車をアイテムボックスに収納した。この世界では、車もアイテムボックスも珍しいものではないが、車が丸ごと収まるサイズのアイテムボックスは例がないほど珍しいためである。
『すぐにトーロウ国に行くのか?』
ヒギエラはそういいながらボイの顔を覗き込んだ。エウフロンネがその隣で心配そうにボイとヒギエラを見ている。
『いや、まずは冒険者ギルドで預けた資金を回収しないと・・・』
旅にはお金がかかる。元々、一人で吸瘴石を集める旅をするつもりだったボイは、冒険者ギルドに預けた形になっている魔石の代金を回収して置くしか路銀のあてがなかった。
『そういえば、ヒギエラとエウフロンネは、トーロウ国に戻っても問題ないのか?』
ボイは今更ながら気になったことを2人に聞いた。
『バレなければ・・・』
『見つからなければ・・・』
ほぼ同時に2人から見たような言葉が出てきた。この世界では、パスポートもなければ、飛行機に乗るときに身分証明書がいるわけでもないので、偽名で乗れば問題なく通過できる可能性もある。
『セントラルシティに行くのはまずい可能性が高い・・・か?』
ボイはそうつぶやくと冒険者ギルドに向かって足を速めた。
・・・
『はい。こちらが、ビートシティでお預かりした代金になります』
ボイが南部に行くことは冒険者ギルドには伝わっていたらしい。ボイが魔石代の出金を要求すると、あっさり出てきたのである。
(王宮に密かに監視されていたりして・・・)
ボイの頭に嫌な予感がしたものの、とりあえず、受け取った金貨をアイテムボックスに入れたところ、目の前のギルド職員が硬直した。
『アイテムボックス・・・』
ギルド職員が呟くの無視してボイは、すぐに冒険者ギルドを出た。
(こんな大金を持って歩くわけにもいかないしな)
幸い、他の冒険者は、ボイがアイテムボックスに金貨を仕舞うのを見てはいなかった。
冒険者ギルドの外にはリサ、ヒギエラ、エウフロンネの3人が待機していた。
歩きながら、ボイは後をついてくる3人に
『中に入ってきてもらってもよかったんだけど・・・』
と振り向きながらいうと
『3人も美女がいたら目立つでしょ!』
3人の声が揃った。
(美女?)
冒険者にしては、美人過ぎる3人と一緒にいる自覚はないボイであった。