第10話 フライト
老人が用意してくれた家で食事をいただき、その日は早く就寝した。翌日、夜明け前に起きたボイたちは、老人が用意してくれた朝食を食べた後、機体に移動する。目的地は1000km先なので、約4時間掛かる見込みであるから、朝4時に離陸しても、目的上空に着くのは朝の8時であり、何の問題もない。
『お世話になりました』
ボイは老人に礼をいうと、
『やっと務めが半分終わったわい』
『半分?』
老人の意味深な発言につい反応してしまった。
『もう少しの間、これから出来る街とここの間を飛行できるように待機しておるからの・・・何かあったらここにくればよい』
そう、現地にいっただけでは終わりではない。5年の間に街を作り、魔方陣を完成させなければならない。そのためには、作った街に籠っているわけにはいかないことは明白だった。
『そうでした。これからもよろしくお願いします』
『もちろんじゃ』
そういうと老人は破顔した。
『そろそろ出発しないと夜が明ける』
老人にそう言われて、慌てて4人は機体に乗り込んだ。最後に老人に手を振ると、老人は嬉しそうに頷いた。
・・・
73㏏で離陸した機体は夜明け前の夜空を南向かって飛行していた。1000ftを超える山が無いとの情報から、念のため3000ftで水平飛行をしている。4人乗っているせいか、昨日よりはいくらか上昇速度が遅かったが、大した問題ではなかった。
『日の出だ!』
ヒギエラが東の空を指さして叫んだ。
機体の左側から日差しが差し込んでくる。そ同時に、闇に包まれていた周囲が見えてきた。
『のう・・・今更だが、真っ暗闇の中、どうして飛べるのだ?』
ヒギエラがボイに問いかけてきた。
『ああ・・・目の前にある計器で姿勢を確認して飛んでいたんだよ』
BE36は計器飛行が出来るだけの装備を持っている。なので、外が見えなくても飛行が出来るのである。前世の大葉も計器飛行の訓練を受けており、その操縦が出来たのであった。
『ほう・・・私には計器というのを見ても、よくわからないな』
ヒギエラは計器の何を見ればよいのか解らないので、理解を諦めたらしい。
『無事に飛んでいるのですからいいのですよ』
リサは、どこまでわかっているのか謎であるが、結果オーライの姿勢らしい。
DMEの表示はあと500kmを示した。
・・・
『森がなくなっているぞ』
ヒギエラが前を指さしながら叫んだ。よく見ると、ずっと続いていた森の先が草原になっている。DMEは目標地点から30㎞である示していた。RMIの方向から行き過ぎていないことは確認済である。
周囲に障害になりそうな地形がないことを確認して、高度を下げていく。1000ftまで下げたところで、着陸できそうな平地を探す。
周辺を飛行した結果、この草原は周囲30㎞程度の円形で森に囲まれていた。森との境界付近が盛り上がっていること、中心部がいくらか窪んでいることから、かつて隕石の落下によって出来たクレータの後ではないかと思われた。
『なぜ、クレータの中は森にならないのでしょうね』
4人の中では最も落ち着いていそうなエウフロンネが呟いた。
『落ちてきた隕石の影響だったりして~♪』
リサが軽いノリで答えた。
『もしかしたビンゴかも・・・』
ボイはそういうと、クレータの中心に向かって旋回を始めた。
『えっ?』
予想しない内容の言葉がボイからあったためか、変な声を出してしまったリサであったが、前を見た瞬間、その意味を理解した。
『もしかしてあれが原因?』
クレータの中心には、真っ黒な長方形をした巨大な物体があった。
『隕石にしては、明らかに異常な形状だよね』
ボイはその黒い物体を見ながらいった。
『なんであの黒いのが異常なの?』
ヒギエラには理由がわからなかった。隣にいるエウフロンネも同様なのか、首を傾げている。
『隕石であれば、大気に突入した時に大気との摩擦によって表面温度が高温になる。よって、火の玉のようになってしまう・・・あの黒い塊は、表面がフラットで高熱の影響を受けた形跡がない』
黒い石上空をローパスするつもりで、高度を下げながらボイは言った。正確には、彼の前世の知識・・・大場の知識があの石が異常であると言わせていた。
『異常なのであれば、近づかないほうがいいのでは・・・』
4人のなかでは常識人(?)と思われるエウフロンネが進言する。
『だから、ローパスして様子を見ようと思う』
ボイはそういうと、黒い石の上空、わずか30ft付近を低速で飛行し始めた。いわゆるスローフライトである。通常、こんな高度するのは危ない気がするが、失速しないように注意しながらボイは飛行を続けた。
『何もありませんね・・・』
『表面はツルツルみたい~♪』
『宝石みたいですね』
ヒギエラ、リサ、エウフロンネがそれぞれ思ったことを口にしていた。
『着陸してみよう』
ボイは着陸を決断した。
特にタッチダウンポイントがあるわけではないので、慎重に高度を下げながら、速度を落とし、右手をスロットルにかけたまま、左手で操縦桿をわずかに引くと、BE36は接地した。見た目通り、凹凸のほとんどない表面のようで、異常な振動は全くない。そのまま、飛行機を停止させ、魔力変換装置のSWを切る。
『降りてみよう』
ボイはそういって、右席に座っていたリサに降りるようにドアを指さした。
予定は未定にして・・・。老人の認識とボイの認識にずれがあるのはね・・・。ボイがやらかすからです。でも、本人はわかってません。