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5 まさかいるとは思いもしなくて

 迷子になると思われているのか、手を引かれながら雑踏の中を進む。どこを見ても、人、人、人。普通の人から見れば大した人の量ではないのだろうが、伊鞠からしてみればとんでもない人の多さだ。

 そのうえ、見たことがないものばかりで、頭がくらくらしそうになる。


「そういえば、名前言ってなかったっけ。俺は遥飛(はるひ)。よろしくね、伊鞠ちゃん」


「あ、はい。よろしくお願いします」


 彼に手を引いてもらうえば、まっすぐ引かれるままに行けばいいのだから、何も考えなくても済むので、正直とても助かる。

 石畳の上を、ただ目の前にいる青年に追いつくために歩いていると、だんだんと人通りがまばらになっていく。

 一体どこまで向かうのだろう。少し不安になってきて、つい青年の手を強く握りしめる。


「そろそろだから、もうちょっと我慢してね」


 伊鞠の不安が伝わったのか、明るい声で遥飛はふと口を開いた。その言葉にこくりと頷き、再び歩くことだけに集中する。

 少し脇道に逸れしばらく歩くと、途端にひらけた景色が広がった。

 大きすぎず、決して小さくはない屋敷。寒凪家とは違い、どこか異国風の外観。緑の中に突如現れた白色は、目にも鮮やかだ。


「すごいですね。綺麗」


「そう? 異国の文化取り入れすぎだろって感じだけど。ま、俺も結構気に入ってる」


 下駄を脱ぎ中に入ると、内装は案外寒凪家と大差ないような。そう言えば間違いになるが、居心地の悪くなるくらい異国の造りに寄せているわけではなさそうだ。ところどころ透明な板、聞けばガラスと言うらしいそれが障子戸の木枠にはめ込まれていたりと、違いを発見していくのは少し楽しいかもしれない。

 

「ここにいるはずだから、ちょっと待ってて」


 木製の重厚な扉を開け、遥飛は中へと入って行く。一気に手持ち無沙汰になってしまった感じがあって、きょろきょろとあたりを見渡してみたり、毛先を指でくるくるともてあそんでみてりしても、そわそわとした気持ちは全く落ち着かない。


(そういえば、私って自分の名前言ってたっけ)


 些細な違和感。それが形になる前に、目の前の扉が薄く開いた。


「もう入ってきていいよ。話通したから」


 扉の隙間から顔を覗かせて手招きをする彼の様子は、幼さを感じさせるほど無邪気だ。思わずくすりと笑ってしまった。招かれるまま扉の中へと入る。

 落ち着いた色合いの調度品。寒凪家にあるものとは全く違うものだ。


「おい、遥飛おまえ話が」


 やはり異国の文化を取り入れた造りの建物なのだなと感心する暇もなく。

 目に入ったのは明らかに動揺した様子の、燃えさかる焔を閉じ込めたかのような赤い髪を持つ青年。

 そこにいるだけで存在感のある姿。それでいてまだ幼さが抜けきらない容貌。少し冷たい印象を与える声音。まあ、若干今は声が上ずっているが。


 もう会えないと思っていた。動揺してしまって、声が裏返る。


「あなた、なんでここに」


「もしかして、二人知り合い? そんな偶然ってあるんだ」


 呑気そうに、沈黙したままの伊鞠と紅を眺める遥飛は、まるで面白がるように口を開いた。

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