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切望する魔  作者: 山鳥月弓
アルクの章
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独り立ち

 派手な転倒をしてからは、魔獣の森へ入る事は週二回程へと減らし、ロヒの仕事の手伝いをして過ごしている。

 カウへ会うのも二、三週に一度程になってしまったが、やはり俺が悪いのだし、魔導具が手に入った事に浮かれすぎていたのも事実だ。

 魔獣の森に入るのでなければ魔導具はそれほど必要なかったのだが、ロヒは取り上げる事もなく、そのまま使うことを許してくれていた。


 赤の他人であるロヒに迷惑や心配を掛けていながら、独り立ちしたいなどと言えたものじゃない。そろそろロヒを安心させなければ、冒険者に戻るのが遅くなってしまう。

 ロヒはこの村の生まれではない。この村に縛り付けている原因が自分だと思うと気が咎める。

 俺だって、そろそろ十三歳になる。大人として行動するのも悪くないだろう。


 しかし、ロヒが安心してくれるまでには、まだ後、四年の月日が必要だった。


 俺が十六歳の夏の日、とうとうその日が来る。

 夕飯を食べ終わり、食器の片付けをしていた。最近では俺が夕飯を作る事も増えている。

「今日の魚料理、おいしかったね。作り方はセウラさんの奥さんに訊いたの?」

「うん。でも俺なりの工夫もしてるよ」

「そうか。……うん。おいしかったよ」

 ロヒは俺が作った料理を褒めることが多い。お世辞なのだろうが、やっぱり嬉しい。

「へへ。もう独り立ちできるよね」

 いつもこう言うが、これまではまだまだ心配だとしか返ってこなかった。


「うん。そろそろ良いかもしれないね」

 食器を洗う手が止まってしまった。

「え? どういうこと? ロヒ……、出て行くの?」

 心待ちにしていた事だった。そのはずだったのに、突然すぎて戸惑ってしまう。

「ああ。冬になったら出て行こうかと思っている」

「え? あ……。うん……」

 言葉が出てこない。

 本当に俺は心待ちにしていたのだろうか?


 すぐに冬はやって来た。

 夏が短い、この北の地では秋というものが一瞬で消えてしまう。

 ロヒが出て行くその日、周りはすっかり雪景色となり、空からも雪がゆっくりと降りて来ていた。

 村の出口にはセウラさん一家や村の重鎮、沢山の女共、俺ですらよく知らないような人までもが見送りに来ている。


「それじゃ行くよ」

 ロヒは村の皆と別れの挨拶を済ますと、俺にそういって荷物を背負う。

「……次は、いつ……帰ってくる?」

 『次』は無いし、『帰る』というのもロヒからすればおかしな言葉だ。判っているが言わずにいられなかった。


「……そうだな……。まあ、近くまで来たら寄ることにするよ」

 いつもの穏やかな笑顔でそう答える。ロヒにとって、この村は帰る村ではない。ただ数年を過ごしただけの村だ。

 冒険者といえば危険な仕事も多いだろう。国中どころか、この大陸の行ける場所、どこへでも行くことになるかもしれない。海を越えて別の大陸へ行くことだって考えられる。

 もう二度と生きて会うことは無いかもしれない。

 そう思うと、別れの言葉は言いたくなかった。


「冒険者が嫌になったら、……ここに帰ってくれば、今度は……俺が世話して……やるから……」

 それ以上、声を出すことができなかった。

「ああ、そうするよ」

 そう言うと、俺の頭を右手でくしゃくしゃにして、村を出て行った。

 振り返ることがなかったロヒの顔は、いつもの穏やかな笑顔だっただろうか?


 ロヒが出て行ってからは一人で畑仕事や炊事をすることになる。

 一人は気楽だ。サボったとしても、その付けは自分に跳ね返るだけでロヒや他人に迷惑を掛けることは、あまりない。

 まあ、サボってばかりもいられないので適当に働き、適当に遊んで暮らしていた。


 そしてロヒが出て行ってから丸二年が過ぎ、俺は十九歳になっていた。


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