ゼノ様
ゼノ様は作業台で、なにかを作っているようだった。
「すまんが、少し待っててくれ」
こちらを振り返ることもなく、そう念話で伝えると、また作業台の上へ集中しだした。
ゼノ様の部屋はいつ来ても、なにをする物なのか判らない物で溢れている。
そして、毎回、それらは初めて見る物だった。
大きな物もあれば小さい物もある。
現時点でこの部屋に有る物も、次に来る時には別の物と入れ替わっているのだろう。
今、作っている物も、そんな物の一つなのかもしれない。
作業台を覗くと、そこには細く、小さい杖が在った。
魔法を掛けているらしく、ゼノ様はその杖へ手を翳していた。杖はぼんやりと青白く光っている。
少しするとその青白い光りが消えだし、ゼノ様の手も作業台の上へと置かれた。
「ふぅ」
アスモも溜息を吐くらしい。初めて知った。ゼノ様だけだろうか?
「すまんな。待たせた」
そう言ってこちらを向く。
「あ、私は……」
俺が四度目の同じ挨拶をしようとすると、ゼノ様から念話が割り込んだ。
「おまえは……アルク……だったか?」
ティルトに引き続き驚かされる。ゼノ様まで俺の名前を覚えていてくれた。
魔族は皆、記憶力が良いのかもしれない。
「一人か? 親はどうした」
やっぱり、それ程でも無いのだろうか。
俺は、一昨年の面会の時にセウラさんから、「アルクの親は死にました」とゼノ様へ伝えられた事を覚えている。
「三年前に死にました」
「ん? そうか。そういえば、そう聞いた気がするな」
そう云いながら、作っていた作業台に乗っている杖へと目を向け、そのままなにやら考え込んでしまった。
「ゼノ様?」
「ん?」
こちらを向くと、ゼノ様の顔になにかが閃いたような表情が表れ、こちらへと歩いて来た。
俺の横に在る、石で出来た椅子を目で指しながら云う。
「そこへ座って、左腕を見せてくれ」
どれくらいの時間が経ったのだろう。石の椅子は冷たく、そろそろ我慢の限界だ。
待っていろと言われた間も座らなかったのは、椅子が冷たいと判っていたからだ。
そろそろ限界だと伝えようとした、その時、ゼノ様は触ったり揉んだりしていた俺の左腕を離し、そのまま作業台へと歩いて行ってしまった。
それに乗じて俺も椅子から立ち上がる事ができたが、まだ尻は冷たい。
「これはお前が使いなさい」
渡されたその杖は魔導具だった。
ゼノ様の話では、村一番の魔力を持った俺の父親へと渡すつもりだったらしい。
死んだ事を忘れて、その人の為に作っていたというのは、少し間が抜けているような気がするが、そのお陰で俺は魔導具を手に入れることができた。
あまりの嬉しさに、ゼノ様へ色々と訊くつもりだったことも忘れて、すぐに城を後にしてしまった。
村への帰り道では色々な魔法を試してみよう。
頭の中は魔導具の事で一杯になっていた。
まずは飛ぶ練習だ。
魔導具を使えば、なんとか飛ぶ事ができるはずだ。
板の上に乗り、風魔法を使って飛ぶ。それが俺の見た事がある飛び方だった。ロヒは魔導具無しで出来ていたが、村に二人居る魔導具持ちも同じ飛び方をしている。
嬉しさのあまり、楽しみにしていた昇降機の降りる時の感覚など、まったく気にすることなく、気が付くと城の外に出ていた。




