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切望する魔  作者: 山鳥月弓
レモとリノの章
36/40

場所

「それじゃ、やっぱりロヒって竜なんですね?」

「……ああ、そうなるね」

 父さんが見ることが出来る魔素の渦が『竜心』と呼ばれる場所だったのだ。

 私はまだ魔素の渦を見たことは無いが、多分、見る事が出来るのではないだろうか。

 父さんがゼノ様との面会の帰り、ロヒが若く見えたと言っていたのは竜だったからなのだろう。

 竜の寿命は、ゼノ様達アスモ族と同じく、数千年とか、寿命など無いといわれている。どちらにしても人の歳の尺度では考えることができない生物なのだろう。

 竜が人の姿になることが出来るということを知っていたら、もっと早くに気付いていただろう。


「しかし、驚いたね。数百年も途絶えていた魔力が復活するなんて……」

 ワランさんの周りにも、この村の人々にも、魔素の靄を纏っているのが見える。

 ただ、それは見る気にならなければ気付くことが無い程に薄いものだった。

 その魔力は父さんの中でゼノ様が変質させた魔素と反応し、再び力を取り戻したのだろう。

「ティタお婆さんも私達の村の人達と同じような先祖を持っていたなんて、なんだか不思議な巡り合わせだったんですね」

「正直、言い伝えがどれ程の信憑性を持っているのか判らなかったが、ほとんど事実だったのだろうね」

 魔力が無ければあまり信じることが出来そうにない昔話だった。

 ワランさんは感慨深げな顔をしている。剣技だけが受け継がれていたこの村で、これからそれを習得する人々へ、胸を張って、その剣技が本当に竜を倒した事があるのだと言えるだろう。

「我々以外にも竜に貰った魔力を持つ人がいるのかもしれないな。君達は魔王からもだったか」

 似たような先祖を持つ、二つの村の話で盛り上がり、夜は更けていく。


 楽しいはずの宴なのだけれど、その中で話をしている兄の顔が、楽しいからではなく、なにか別の事に対して微笑を浮べている事に気付き、私の中に小さな不安とも恐れとも判らないものが生まれていた。


 次の日の朝、多くの人の気配で目が覚める。

 村長の家に泊らせてもらったのだが、隣には大きな道場と広場があり、そこへ村の人々が集ってきているらしい。

 若者から年寄まで、村人の殆どが集まり剣や木刀を振っていた。

 昨日、聞いた話では、村人全員が萎竜賊流の剣士であり、日の出から日が暮れるまで、誰かしらはここで鍛錬をしているらしい。


 ふと兄が目に止まる。

 兄も日の出と共に起きて鍛錬を始めたらしいが、数人の老人達に囲まれて、なにやら話をしている。

 多分、ティタお婆さんの孫が来たと聞いて、昔の知り合いが話を聞きに来たのだろう。


 双子の妹は鍛錬を怠けていると思われるのも嫌なので、私も鍛錬に参加することにした。

 本当は旅先で鍛錬なんてしたいとは思っていなかったのだけど。


 広場へ出るとワランさんを見付け挨拶をする。

「おはようございます」

 ワランさんが見ているものへ目を向けると、そこには村の老人達から解放された兄の姿と、ワランさんの息子でこの道場の師範、つまり父さんの従兄弟となる人と話をしていた。

「ああ、おはよう。リノも鍛錬するんだね」

「は、はい。あまり熱心ではありませんが……」

「リノもレモと同じくらいに強いのかい?」

「いえ、兄さんは父さんにも勝てる程ですが、私は父さんにも兄さんにも敵いません」

「そうか。……しかし、レモは強いね。あと数年もすれば、この村でも敵う奴が殆どいなくなるかもしれん」

「そうですか……」

 兄が更に強くなると言うワランさんの言葉に、私の中に在る不安は大きくなっていく。

「ああ、大したものだよ。完璧に基礎が出来ている。しかも変な癖もなく、素直な剣だ。あの歳まで基礎練習だけをひたすらに続けてきた賜物だな。我々は基礎が出来る前に技を覚えようとしてしまって、あんなに純粋な剣の振りかたができないものなんだ」

「そうなんですか……」

「ん? どうしたんだい? 私は褒めているんだよ。褒められているのだから、兄妹であれば嬉しいと思うものじゃないのかね?」

「いえ……。もちろん兄さんが強いと褒められるのは嬉しいのですが、実は……強ければ強い程、不安の方が大きくなるのです」

 ワランさんは驚いた顔で理由を聞いてきた。


 昨日の晩に聞いた竜を一撃で倒してしまう竜心の事は、私にとっては不安の種となってしまった。

 竜心の事を知った兄は竜を倒す為に必要な鍵を手に入れてしまったのだ。

 これまでは不可能だと思っていたことが、突然、実現可能なこととなってしまい、兄はそこに希望を持ってしまった。

 あとは剣技を習得すれば、竜であるロヒを倒し、ゼノ様へその遺骸を差し出すことで、左腕の呪いから解放される。


「なるほど……。レモがロヒを殺すのではないかと心配しているのだね?」

「はい。手に入れた力は使ってみたくなるものではありませんか? しかもその先にはこれまで夢でしかなかった事が実現できるんです」

「そうだな……。でも大丈夫さ。君が反対すれば、それに逆らってまで殺しはしないだろ?」

「そうですね。それに兄さんは魔素が見えないんです。つまり竜心も見えないと思います。いくら兄さんでも見えない竜心を壊せはしないでしょうから、必ず私か父さんへ協力するように言ってくるでしょう」

「そうだったのか、それでレモは竜心の場所を訊いてきたのだな」

「え? 兄さんが……」

「もちろん答えてはいないよ。今の私達には見えないものだからね。知らないものは教えられない。それに、竜心は竜毎に場所が違うからね。一般的にここに在ると答えられるものじゃない」

「そうですか。よかった」


「ただ……。ロヒの居場所は答えてしまったよ……」

 兄は呪いから解放されることを諦めてはいないらしい。


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