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切望する魔  作者: 山鳥月弓
レモとリノの章
32/40

 夏が来て、エテナへと旅立つ日が来た。

 父さんは気前良く三週間をくれたが、かなり心配しているらしく同じ事を何度も言っている。

「絶対に魔導具は無くすな。帰れなくなるってことは死を意味するぞ」

 大袈裟だ。魔導具が無くても歩けば済む。

「……わかってるわよ」

「野宿なんてしなくて良いからな。お金はそれだけあれば余裕があるはずだ」

 家にこれほどのお金があったのかと思う程の額を持たされた。確かに毎日宿屋に泊って、美味しいご馳走を食べても問題なさそうだった。

「わかってるって。そうするから」

「あまり目立つことはするな。変なのが寄ってくるぞ」

「……」

「それと、それと……」

「もういいって。全部、昨日聞いたよ。それじゃ行ってくる。兄さーん、待ってー」

 兄は父さんの話の途中から既に飛んで先行していた。


「私、エテナじゃなくて皇都の方が良かったかも」

「父さんは皇都へ行ったことがないからな。エテナの方が知っている分、安心できるんだろ」

 ゼノ様との面会が終わり、帰ってからの私は飛ぶ練習を沢山やった。

 おかげで飛びながらでも話せるようになっている。

 これから先、いくらでも飛ぶ機会はあるのでそれほど必死になる必要は無かったのだが、三週間の旅となれば危険な事もあるかもしれない。

 飛ぶ事は、それだけで危険なことだけれど、危険から逃げる為には最適な方法なのだから旅の前に問題無く飛べるように練習をしていた。

 今なら海の上でも、それほど危なげなく飛べると思う。


「なあ、上を飛んで速度を上げないか?」

「だめよ。安全に飛ぶって約束したでしょ」

 父さんと話し、あまり速度は出さないと約束していた。

 今の私であれば、上空を飛ぶことも怖くはないし、出来るとは思うが、やっぱり危険は大きくなる。

「林の中は、あまり見渡せないから風景が見えなくて面白くないよ」

 これも父さんの指示だった。

 あまり目立つことはするなと言われている。魔導具を持っていたとしても飛べるほどの魔導士というのは、それほど居るものではない。

 強い魔力を持つ魔導士はお金の匂いがするらしい。具体的にどういう事なのかは判らないが。


「それじゃ歩く? その方がゆっくり景色を見ながら移動できるわよ」

「……俺が早くエテナへ行きたいことを知っていて、そんなこと言うのだな」

「私も景色を見ながらの方が良いもの」

「判ったよ。ゆっくり林の中を飛ぶよ」

 父さんが兄妹で行くように言ったのは、これも一つの要因だった。

 兄さん一人では危ないことをしまくるだろうという父さんの読みは当っていた。


 最初の町は三年程前に来たことがあった。

 今日は通過するだけだが、この町だって見たことが無いものが多い。

「なあ、もう行こうよ」

「もう、ここだってそんなに来られる場所じゃないのよ……」

 昼食を食べ、南門へと歩く途中で、私は立ち止まり色々と見てしまう。

 かなりゆっくりとした歩みだったのだろう。兄はかなり焦れていた。

 やっと南門へ着き細い路地を歩く。


「父さん、昔ここで魔導具を盗まれそうになったんだってさ」

「え? ここで?」

「細い道だから、わざとぶつかられて、よろけている隙に持って行かれたらしい」

「父さん……。それは間抜けじゃない?」

「そうでもないんじゃないかな。縛っていた縄が一瞬で切られたらしいから相手が上手い盗人なんだと思うよ」

 父さんから魔導具は人目につかないようにした方が良いと言われていたが、そういう理由だったのか。

 なんとなく気になってしまい、背嚢に入れたゼノ様の杖を確認する。

 ちゃんと背嚢の中に入っている。大丈夫だ。

「こんな大きいもの、取られたらすぐに判りそうな気がするけど……」

「そういうのが気の緩みにつながるんだよ」

「えらそうに……」

 南門を抜け、再び街道を外れた林の中を飛んだ。


 国境の町までに一泊して、二日目の夕方には国境の町へ入ることができた。

「やっと国境……」

 兄は急いで飛びたがったが、私が町毎に見て回る為にかなりゆっくりとした旅になっている。

 それでも街道を歩くことを考えれば、馬車などよりも何倍も早いはずだ。

「もう国境よ。二日しか掛かってないのよ。私はもっとゆっくりと見たいのに……」

「今日はここで一泊だな」

「そうね。明日にはエテナに入れるわね」

「おぉ……。明日かぁ……」

 また憧れ病の発作が始まった。

「……とにかく宿を探しましょ」

 父さんが言ったようにお金には余裕がある。

 あまり楽しくない魔獣退治という仕事は、それなりに見入りが良い職業らしい。


「ねえ。お婆さんの村、どうする? すぐに捜す? それともエテナを見終わってからにする?」

 夕飯後、部屋で寛ぎながら兄へと訊く。

 父さんから「もしも気が向いたら、母さん、お前達のお婆さんが生まれた村に寄ってみてくれないか」そう言われていた。私は行くのであれば早めに行った方が良いと思っていた。

「ん? 萎竜賊、ヴィファー村だっけ?」

 夕飯でお腹が膨れ、兄は今にも眠ってしまいそうだ。

 昼間に訊く方が良かったかもしれない。

「私はエテナへ入る前に捜した方が良いと思うの」

 それを聞いて兄はあからさまに嫌な顔をした。

 父さんに貰った地図を見ながら話を続ける。お婆さんの村は地図にはなく、裏に描かれた手書きの地図だけが頼りらしい。

「そうしないと、エテナで遊んでいたら行けなくなるんじゃないかしら? こんな地図じゃ場所を捜すのにも時間が掛かりそうだわ」

 父さんの話すエテナという町は、見て回れば二、三ヶ月はすぐに過ぎてしまうほどに広大らしい。

「お爺さんも父さんも、お婆さんがお嫁に来てから一度も行っていないらしいし、そんなんじゃ、クラニ村の人間はすごく冷たい奴等だと思われちゃっているんじゃないかしら」

 ふと兄を見ると、既に眠っている。

 やっぱり昼間に話すべきだったらしい。


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