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切望する魔  作者: 山鳥月弓
レモとリノの章
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エテナ旅行

「それじゃ、ゼノ様だけ違って見えるんだ」

「うん。アスモとクラニ村の人達、それと普通の人達、それぞれ違うけど、ゼノ様以外は父さんと同じように見えているみたい」

「へぇ……。俺も見てみたいな……。なんで俺だけ見られないんだ」

 面会からの帰り、来た時と同じように並んで寝ながら話をしていると、兄が魔素の話に興味を持ったらしく色々と訊いてくる。

 兄は魔素を自分だけが見ることができないという事が気に入らないらしい。


 昔のように親子で並んで眠るなんて、こんな機会でもなければないことだ。旅の野宿なんて簡単な食事を済ませれば、あとは眠るだけだ。やることが無いので自然と会話がいつもよりも多くなる。

「俺は他に、渦を巻くような魔素を見たことがあるな。人の中でも特に強い魔力を持っている人だと思うが、一点で渦を巻いていたよ」

「色は?」

「色は普通の人と同じだったな。リノが見れば、また違って見えるかもしれないが」

「へぇ、渦か……。確かにつよそうね……」

 魔素を纏っている人間というのは、ほとんどがあまり濃い魔素ではない。皇都などから来る魔導士ですら、私達クラニ村の人々が纏う魔素よりも薄く、気にしていなければ気付かない程でしかなかった。

 そんな魔素が渦を巻くほどに濃いとすればかなり強力な魔力を持った人なのだろう。


「強いといえば竜も魔力を持っているんだろ? 父さん、竜は見たことないの?」

「竜は見た事がないな。確かに違う見え方をするのかもしれないな」

 兄は来る時に聞いた竜の話に興味津々らしい。ゼノ様にも呪いを解く方法を訊いていたが、呪いと聞いて「ああ、左腕の事か」といって苦笑いを浮べていた。

 自分がやったことを呪いと言われて、あまり良い顔をする人はいないだろう。

 呪いを解く方法は父さんから聞いた事以上に話を聞くことはできず、兄は本当にがっかりしたという顔をして、それを見たゼノ様が「悪かったな。なにか判ったら知らせるよ」と、また苦笑いをしながら言っていた。

 その内、兄がゼノ様を怒らせるような事になるのではないのだろうかと思ってしまい、私の方が怖いほどだった。


「その渦を持った人って、どんな人だったの? 私も見てみたいわ」

 兄が馬鹿な考えを持つ前に、竜から話を逸らした。

「一人は……ロヒ」

「ああ、昔、お婆さんを殺したっていう……」

「まあ、あれは事故だったんだ。……悪い奴という訳ではなかったんだと思うよ。それにお爺さんを育ててくれた恩人でもあったはずだ」

「その人、今どこに居るの?」

「さあな。母さんの、お婆さんの故郷に行けば居場所は判るようにすると言って……」

 父さんは言葉の途中でなにかを考え出したようで、言葉が途切れる。


「父さん? どうかしたの」

「いや、多分、そのロヒという人は、今ではかなりの年寄だろう。もう死んでいるかもしれんな。お爺さんより年上だったのだから……。変だな……」

 またなにかを考え出している。

「なにが変なの?」

「いや……、お婆さんの事故の後、俺が二人と同じ歳くらいの時にばったり会ったことがあったんだ。……でも、その時の姿が……あの時、父さんが四十くらいだと思うが、そうだとするとロヒは五十くらいのはずなんだ……」

「それで?」

「俺の記憶が古すぎて勘違いをしているのかもしれないが、その時のロヒは、まだ二十代くらいに見えた……」

「そのロヒって人、相当の若作りだったのね」

「そうだ……な。それとも俺も歳を取って、少しボケているのかもしれないな。……そろそろ寝よう。明日も頑張って飛ばなきゃならん……」

「うん。おやすみ」

 兄はいつの間にか眠っていた。


「着いたー。疲れたー」

 家へ到着したのは昼過ぎだった。疲れたといっても身体的ではなく気疲れだ。

 四日間、ゼノ様との面会時間以外では、ほとんど飛んでいたため、落ちないように気を張っていたからだろう。

「父さんは少し畑の様子を見てくるよ。どちらか夕飯の支度をしておいてくれないか」

 父さんはそう言うと、家へ着いたばかりだというのに畑へと歩いていってしまった。

 私にはもう動く気力がない。テーブルに腕と顔を俯せに乗せ、顔を伏せたまま、疲れたということを大袈裟に主張しながら兄へとねだる。

「兄さん、夕飯、おねがい」

「……判ったよ。俺が作るよ」

「でも、四日も飛んだのに、疲れてないの?」

「ん? それほど感じないな……」

 兄にとって飛ぶことは疲れることではなく、楽しいことなのだろう。


「夏になったら二人でエテナにでも行ってみなさい」

 夕飯を食べながら言った父さんの言葉は、突然だった。

 面会からの帰りで疲れていた私は半分眠った頭で聞いていたからか、すぐには父さんがなにを言っているのか理解できない。

 父さんの言葉を聞いた兄はフォークを握ったまま椅子から立ち上がり興奮気味に父さんへ訊きなおす。

「エテナへ行っていいの? 本当に?」

「え? エテナ?」

 兄の言葉で、父さんの言葉を理解する。


「なにしに行くの?」

 私はあまり乗り気ではなかった。確かにエテナの町を見てみたいし、ゆっくり観光できるのなら、きっとそれは楽しいことだろう。

 しかし、ゆっくりできるとは思えない。

 行くのであれば、ゼノ様との面会と同じように四日くらいの道程を飛ばなければならないだろう。

 今の私は飛ぶことに少し食傷気味だ。

「これと言って目的はないよ。遊んでくると良い」

「本当にいいの? すごい。やった……」

 兄は立ったままフォークを握りしめて感動しているようだ。

「兄さん、座ってよ。行儀悪いわよ」

「……えっ? あぁ……。うん……」

 座って食事を続けるが、気持ちはもうエテナへ飛んでいるらしい。夢を見ているような顔をして食べている。


「でも、どうして? やけに唐突だと思うのだけど」

「うん。昨日、二人と話をしていて思い出したんだ。俺が初めてエテナへ行ったのも十五だったなって」

「父さんは? なぜ二人?」

「畑をほったらかしには出来ないだろ。二人は来年には十六になる。魔獣退治では主戦力といってもいいだろう。これから先、あまりのんびりとはできない歳になりつつあるんだよ」

「のんびりって、どれくらい行っていて良いの? 一週間じゃ、あんまりのんびりできないわよ」

「そうだな……。二週……、いや三週間でいいな。これならゆっくりできるだろ?」

「……そんなに? いいの?」

「ああ、問題ないよ」

 私の気持ちも兄を追いかけてエテナへと飛んでいってしまった。


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