板作り
私はゼノ様の杖を使うことになった。
兄はお土産の腕輪、父さんはお土産の杖。父さんがそう決めた理由は簡単なことからだった。
「三人とも飛べるようになりたいだろ? 私の見立てではレモはどれを使っても飛べると思う。私もぎりぎり腕輪でも大丈夫だが、かなりキツい。リノはゼノ様の杖でなければ無理だと思う」
つまり三人共に飛ぶ事ができる。それが魔導具を揃えた理由だったようだ。
本当の事を言えば、杖よりも腕輪の方が良かった。飛べるようになる事を考えればゼノ様の杖が良いのだけれど、あんな野暮ったい物を持って歩かなければならないかと思うと、あまり嬉しさが湧いてこない。
ゼノ様の杖がもっと可愛いものだったら良かったのだけれど。
まあ、そうは言っても飛べる事に対しての嬉しさはあった。魔導具を持っていても飛べない人は飛べないのだからありがたく頂くことにしよう。
次の日から飛ぶ練習としたかったが、残念ながらその為には板が必要だ。
家には二枚の飛ぶ為の板がある。
昔からある盾はお爺さんがゼノ様の城で貰ったものらしいが、そうとう古く、あちこちが欠けていたり傷だらけだったりしている。重そうだし兄妹二人で父さん専用だと決め、しぶしぶ父さんが使うことになった。
もう一つは父さんが昔作ったもので、これもかなり古く、あちこち痛んでいる。とりあえずは兄が使うことになった。
「いいか、この板の反りが重要なんだ」
父さんはそう言って兄が使うはずの板を見せながら作り方だけ教えて、さっさと畑へと行ってしまった。
兄は私が見ていた板をひったくって自分だけ飛ぶ練習に入っている。
私は一人で作らなければならないらしい。
最初は嫌だった板作りは、出来上がるにつれ、段々と面白くなってきた。
兄が使っている板を、兄が墜落した時を見計らい、見せてもらっては作業を続ける。
日頃から家の事をやっている私に取って、こんな板を作るくらいはどうということは無い。
夢中になって作り終えたころには丁度夕飯になっていて、今日一日、板を作るだけで終わってしまった。
「どうだい、飛ぶ練習は」
「まだ風に煽られるとふらつくけど、かなり上手くなったと思うよ」
父さんの問い掛けに答える兄。
私は練習なんて出来なかったというのに良い気なものだ。
「なにそれ。人が板を作っているのを手伝いもしないで……」
「ゼノ様の杖を使うんだから、すぐに飛べるようになるさ。明日は作るのを手伝うよ」
「もう板は出来ちゃったわよ」
「あ、そうなんだ……」
「二人共飛べるようになったらゼノ様の所へ行こう」
「あ、もうそんな時期か……」
「前みたいに何日もかからないから楽だぞ」
早く飛べるようになりたい。
次の日、朝の鍛錬を終え、さっそく飛ぶ練習に入る。
兄は貰った剣をうっとりと眺めながら家へと仕舞いに行った。
私は貰った剣が重すぎて疲れてしまったが、飛べると思えば、こんな疲れはすぐに忘れられる、はずだ。
残念ながら飛ぶ事はそれほど簡単ではなかった。
私は風魔法そのものがあまり得意ではなく、風を当てる場所が狭く、それも視界の中ではない足元へと向けなければならないことに苦労していた。
いつの間にか隣で飛んでいた兄は、既に自由自在という飛びかたをしている。
またもや差を付けられてしまった。
一日中練習をして、やっと出来るようになったことは、なんとか浮いていることだけだった。
「リノは、あとどれくらいで飛べるようになりそうだい?」
「……まだ判らないわよ。今日、やっと浮けるようになったわ」
「おお。浮けるようになったのなら、もうすぐだと思うよ。バランスを取ることが一番難しいからね」
父さんは気楽に言うが、今日、前に進もうとして何度落ちたことか。
「父さんも数日かかったんだ。リノが下手というわけではないさ」
「そうそう。俺が凄いだけなんだぞ」
別に兄と競争しているわけじゃない。偉そうにする兄は癪にさわった。
「はいはい。そうですね。兄さんは凄い、凄い。」
「そう不貞腐れるなよ。明日、俺が見てやるからさ」
「いらないわよ。一人で飛べるようになるわ」
明日こそは飛んでやる。
次の日も練習をする。
前に進もうとするが、すぐにバランスを崩し板から落ちてしまった。何度も墜落を繰り返していると練習するのが嫌になってくる。
やはり私には兄のような才能は無いらしい。
ふと、隣で飛んでいた兄を見ると、いつの間にか姿を消している。
「なによ。教えてくれるんじゃなかったの」
疲れて地面へとへたり込んでいると、兄は家の玄関先に出て来て、なにやら工作を始めだした。
どうやら板を修理しているらしい。
「どうしたの? 壊しちゃった?」
「うん。バランスを崩して落ちた時に割れちゃったんだ」
「父さんの盾なら割れることもないのに。あっちでやったら?」
「あんな重そうなのやだよ」
「でも父さんは重さはあまり関係無いっていってたわよ」
「でも盾はいやだよ。町へ行くときなんかあんな派手な盾、持ちたくないだろ」
「……それもそうね」
派手というほど派手だとは思わないが、重装備の剣士が持っていそうな盾であることには違いがない。身軽なちょっとした冒険者という風情になるであろう私達には不釣り合いな盾だ。
確かにあの盾を持って町を歩くのは恥しいかもしれない。
いつの間にか私も町へ飛んで行ける事を当たり前のように話している。
兄ではないが、やっぱり町へ飛んで行くことができるという事には憧れる。
兄はほっといて飛ぶ練習だ。
今日中には飛べるようになりたい。




