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切望する魔  作者: 山鳥月弓
シテンの章
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冒険者

 南門を出て、そこで少し他の冒険者達を待たなければならなかった。

「剣士は十人、確保できたんだけど、魔導士は捕まらなくてね……」

 本当は、あと二人くらいは欲しいらしいが、魔導士はオトイしか居なかったらしい。

「僕一人でも大丈夫だと思うんですが、忙しくなると取り逃がしてしまう者を出してしまう可能性が高くなりますからね。君が居てくれればかなり楽になりますよ」

 ロヒは数十人の海賊をあっという間に片付けていた。このオトイという人も同じくらいの手練であれば俺なんかの手助けは必要ないのではないだろうか。

「山賊の人数は何人くらいいるのですか?」

「二十人くらい、いるらしいですよ」

「二十人を十二人で捕まえるんですか?」

「そうですよ。問題ありません」

 信用して良いのだろうか? 少し不安になる。


 それから三十分ほどの時間で、一人また一人とオトイの周りに、見るからに粗暴そうな人達が集まってきた。

「この人達が剣士さんですか?」

「そうですよ。見た目、あれですが、まあ腕は立つ方々ですので安心してください」

 後ろで俺とオトイの話を聞いていた一人がオトイの背中をバシッっと叩いた。

「見た目があれってのは、なんだよ。がはははは」

 見た目だけではなく、中身もあれのようだ。

「隊長……ごほっ……、聞いてたんですか」

「おう。みんな揃ったんでな。そろそろ行こうや」

「はい。では出発しましょう。隊長、先頭をお願いします。僕達は最後尾に付きますので」

「それはかまわんが、その小僧は連れていくのか?」

 小僧呼ばわりは少しむっとさせられるが、客観的に見て、小僧なのは間違えないだろう。それについては口を挟むことはしないでおこう。

「ええ。この子はこう見えても強いんですよ。大活躍間違えなしです」

 このオトイという人はなにを根拠にそんな事を言うのだ。魔法を使った所すら見てもいないというのに。

「大将がそう言うんなら信じるが……。よろしく頼むぜ」

 隊長と呼ばれたその人は、今度は俺の背中を叩き、笑いながら先頭を歩いていった。

「みんな、出発だー」

 集まっていた荒くれ者達が後に続いた。


 山賊の塒は山の中腹にあるらしく、大胆なことに、あの町から三時間程の場所にあるらしい。

 もっと町から離れた所に居るものじゃないのだろうか。

 山を一時間程登り、少し疲れてきた。飛んで行ければ楽なのだが、一人で行っても意味がないし、飛ぶ所はあまり人に見せたくはない。

「ところで、先刻、俺がクラニ村の人間だと見抜かれていましたけど、どうして判ったんですか?」

 先刻は山賊退治という、冒険心を擽る話に夢中になっていて訊きそびれてしまったが、今になって疑問が湧いてきてしまった。

「え? あ、……。なぜでしょう? そんな気がしたんですよ……。あはは」

 なんだか頼りなく笑うオトイは、なにかを隠しているように感じた。


 山の中腹まで来るとオトイから注意があった。

「そろそろ奴等のアジトです。あまり大きな音を立てないように慎重に歩いてください」

 前を歩く剣士達が剣を抜く。

 少し前屈みになり、慎重に歩いていた。

 一人の剣士が手を後ろへ翳した。待ての合図らしい。

 別の剣士が地面近くでなにかをやっている。

「罠があったみたいです」

 なんだか、冒険者になった気分だ。怖いのに、わくわくしている。

 待ての合図をした剣士が、今度は進めの合図をする。

 皆が動きだす。

 そこから数歩も歩かない内に、今度はオトイが声を上げた。

「あ……、うあぁ」

 オトイの身体が網に包まれ、地上から三メートル程持ち上げられた。オトイは網の中でもがいている。

 剣士達は、最初はびっくりして振り返り、唖然として見ていたが、すぐに大笑いへと変わった。

「大将、勘弁してくれよ」

 剣士の一人が呆れたように笑いながら、網を剣で切り、オトイは地上へと落ちてきた。風魔法で落下速度を和らげていたが、結局は尻餅をついている。

 剣士達はまだ笑っていて、それに釣られるようにオトイも尻餅をついたまま苦笑いをしていた。


「来たぞ」

 先頭にいた隊長が声を掛けると、笑っていた皆がいっせいに身構え、オトイも飛び起きるように立ち上がり、真剣な顔に戻った。

 木が多く、良くは見えないが、十メートル程先に切り立った崖があり、その崖にあいている洞窟から何人かが出てきたようだった。


「木に隠れて。奴等から見えないように身を隠してください」

 オトイの指示通りに山賊達から身を隠すが、これでは攻撃もできないのではないだろうか。

「火炎塊でも雷光でも構いませんので、味方に当てないように、適当に撃ってください。山賊さんに当てる必要もありません。ただ攪乱すれば良いだけですので」

 言われた通りに、山賊達が居そうな所へ火炎塊を飛ばす。

「山賊に当てる必要は無いって、当てちゃだめなんですか?」

「まあ、殺しちゃっても構いはしないのですが、あまり気分の良いものではないでしょ?」

 そう言うオトイは雷光を山賊達へと当て、動けなくしていた。

 なるほど、町で見たように、弱めの雷光なら当てても殺すことなく動けなくできるのか。

 俺もやってみようとするが、火炎塊と違い、雷光はすぐに狙いが逸れてしまって上手く当てることができなかった。


「伏せて」

 オトイの声にはっとして、横を見た瞬間、目の前の空中で炎が広がった。

「うあぁ」

 驚き、後ろへと倒れて尻餅をつく。

 どうやら山賊の中にも魔導士が居て、火炎塊を俺に目掛けて飛ばしたらしい。

 既の所でオトイが飛んできた火炎塊に風魔法を当て、散らしたようだ。

「身を隠して、適当に撃ってください」

 オトイは火炎塊を撃ってきたと思われる相手へ雷光を撃ち、気絶させ、俺へ再度同じ指示を出してきた。

 それからは指示通り、木に隠れたまま、あまり人が居なそうな所へと火炎塊を撃つだけに徹した。


 倒しても、倒しても、山賊達は出てくる。とっくに二十人は倒しているはずだ。

 後で知ることになるが全部で五十人ほど居たらしい。

 最後の一人が倒れる頃には、俺は疲れ切ってしまっていたが、オトイは疲れなどまったく感じていない様子で、それどころか退屈そうに欠伸までしていた。


 この日、人生初めて経験した対人戦闘が終わった。


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