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切望する魔  作者: 山鳥月弓
シテンの章
18/40

カウ

 ゼノ様の部屋を出ると、ゼノ様側近のティルトがいつものように書き物をしている。

「終わったのか?」

「はい」

「そうか、ごくろう」

 そう言って、また書き物へ向いだした。一日中、なにかを書いて過ごしているのだろうか?

「あの、ティルトさん」

 訝しげに俺を見るが、いつもの事だ。

「ん? ああ、泊るのだな。部屋は判るか?」

「はい。判ります。お借りします」

 夜にこの城を訪れる者は泊る部屋を借りることができる。別段、そういう決まりではなく、外で寝ても良いのだが、風や雪を凌げる部屋の中で過せるので、あえて外で寝るような者はいない。


「それとですね……」

 今日、やるべき事は終わった。あとは部屋へ行って寝るだけだ。

 まだ寝るには早い時間なので、駄目元で訊いてみたいことがあった。


「まだなにかあるのか?」

「ええ。少し伺いたいことがあるのですが。いいでしょうか?」

「答えられる事なら答えるが。なにかな?」

 多分、答えられないとは思うが訊いてみる。

「俺の母さんが死んだ時のことを訊きたいのですが」

「私に? 人の村で起きたことなど、私には判らんと思うが?」

「いえ、その時にアスモが居たらしいのです」

「ふむ。それで?」

「そのアスモのことが訊きたかったのですが……」

「うむ。カウだね」

 驚いた。訊いても無駄なことだと思っていた。


「知っているのですか?」

「知っていると思ったから訊いたのではないのか?」

「いえ、正直、知らないと言われるかと思っていました」

「……長い事、人間というものを見てきたが、やはり理解できないものだな」

「はぁ……。それで、そのカウというアスモは、なぜそこに居たのかを知りたかったのですが……」

 これはさすがに知らないだろう。


「アルク、つまりお前の父親に会いに行ったらしいな」

 この人はなんでも知っているのだろうか。

「どうした? 驚いた顔をしているように見えるが」

「はい。驚いています。なぜ知っているのです? そのカウというアスモと知り合いなのですか?」

「なぜかは、カウから直接聞いたからだ。会ったのはその一回だけだがな」

「そうなのですか……」

「その事は、とっくにアルクへ伝えたがな」

 父さんとその事件の事について話すことはできない。落ち着いている父さんの心を乱すような話はしたくはなかった。

「父はそのカウとどういう関係だったのでしょう?」

「友達といっていたな」

「友達ですか……」

 ティルトから訊いた事件の切っ掛けは、カウと別の二体のアスモが人の村へと父さんを訪ねて行った事から始まったらしい。

 アルク、つまり、俺の父さんに会う事ができないまま、何度も行く度に人間に騒がれ、最後には酷い悪態を吐かれた事に我慢の限界を超えてしまい、人を殺してしまったということだった。

 そのアスモ退治に来たのがロヒということだろう。


「そのカウというアスモは、この城に?」

 ティルトと話すことができるということは、城の外に住むように言われているアスモではないだろう。この城にいるのであれば、そのカウというアスモに会って当時の事を訊いてみたかった。

「……カウが、アルクに会いに行った理由は別れを言いたかったからなんだ。カウは今、ハムト星に居るよ」

「ハムト星?」

「ああ、お前達はこの星以外の事を知らないのだったな。カウは帰ってくることが出来ない、片道一年掛かる場所まで移住したのだよ」

 星とか移住とか、良く判らないが、カウは父さんに永遠の別れを伝える為に会いに来たらしい。

 飛ぶことができるアスモが片道に一年も掛かる場所というのはどれ程の距離があるのか見当もつかないが、この世界は広いのだと思い知らされ、それと同時にその世界を見て回りたいという気持ちも湧き上がってきていた。


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