海賊の島
魔獣討伐の最終日が終わり、父さんと家への帰り道を歩いていた。
飛ぶ練習をしながら考えていた事を父さんへと打ち明けようと思っている。
「父さん」
父さんは立ち止まり、ゆっくりとこちらを振り向き、返事もしないで俺を見詰める。
「今度のゼノ様への面会、俺一人で行ってもいいかな?」
やはり返事もなく、ただ俺を見詰めているだけだ。
「ほら、俺も飛べるから、別々に飛んでいった方が、早く終わらせられるでしょ?」
父さんは返事もせず、ぼんやりとした表情のまま、前を向いて歩きだす。
「父さん?」
「……ああ、そうしなさい」
まったく、なにを考えているのか、俺にはさっぱり理解できない。
夏になり、ゼノ様への面会に出発する日が来た。
「それじゃ父さん、いってくるよ」
まだ朝早い時間だが、隣のセウラさんへ留守中の父さんを頼み、さっそく出発する。
今から真っ直ぐに城を目指し、海の上を飛べば夕方には城へ着くはずだ。
海の上を長距離飛行することに少し不安はあるが、きっと大丈夫だ。
盾へ着けた縄を、自分の右足首へと結びつける。
こうしておけば、盾から落ちても、落下中に縄を手繰って盾を手元に戻すことで、地上や海面に落ちる前に立て直せるはずだ。
そのためには、ちょっと高い位置を飛ぶ必要があるが、その為にこれまで練習をしてきた。
盾の上に立ち、風魔法を盾へと当て、ふわりと浮き上がる。
一気に上空まで飛び上がり、雲の中に入った。
雲で何も見えない状態が少し続き、ぱっと視界が開けて青空が目の前に広がると、そこで上昇をやめて水平に飛ぶ。
雲の上から下の地上は見えないが、遥か前方の雲の切れ間から海が見える。
そこを目指し一気に速度を上げて飛んだ。
上空は寒い。
判っていたことなので、かなりの厚着をしてはいるが、それでも寒い。
この状態で一日中飛ぶことになるのかと思うと少し気後れしそうになるが、無理だと思うまではこのまま行こう。耐えられなくなったら近くの陸地を目指せば良い。
海へ出ると雲があまり見えなくなって来る。
下には海面が見える。青黒い海面はきらきらと光を反射し綺麗だと思った。
背嚢に入れた荷物は少ない。
村の他の人達がゼノ様との面会へ行く時には、かなりの量の荷物を背負っているが、今の俺の背嚢には数日分の食料くらいしか入っていない。
飛べるというだけで、これ程身軽に移動できる。
帰ったら父さんに短い旅に出たいと言ってみよう。飛ぶことが出来る今なら実現できるはずだ。
それが昔から思っていたことだった。
そろそろ昼頃なので昼食にしようと思っていると、前方に少し大きな島が見えてきた。
飛びながら食べるつもりだったけれど、それは少し不安があったので島へ降りて食べることにしよう。
ふと気付くと島の方へと進んでいる船が見えた。
この辺りには海賊が居ると聞いたことがあるが、あの船は海賊船だろうか? そうするとあの島は海賊達の塒なのかもしれない。
海賊は恐ろしい奴等だと聞く。
山賊や追剥と同じように、人から物や命を奪いとり、それを仕事にしている奴等だ。
少し怖いようにも思うが、こちらは飛べることだし、人気の無い場所へ降りれば平気だろう。
島は結構な広さがあった。
遠くから島を一周してみると、島の東側に入江があり、そこに二隻の船が泊まっている。どちらの船にも髑髏模様の旗が掲げられていた。
海賊の塒で間違えないだろう。
その入江から十分に離れた場所へ降り、そこで昼食と休憩を取ることにした。
食べ終えた後、のんびりと海を見ていると、来るときに見えた船が近付いてくる。
船というものをあまり見たことが無かったので、珍しさからしばらくそれに見入っていると、船の中からなにかが飛び出し、入江の方へと飛んで行くのが見えた。
近付いてくるそれを見ていると、それが人だと判る。そしてその人に見覚えがあることに気付いた。
遠いのではっきりとは見えないが、確かに白い靄を纏った、赤い髪の男だ。
その姿は、母さんを殺した仇であり、父さんが廃人のようになってしまった原因を作った奴だ。
それはロヒだった。




