表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
切望する魔  作者: 山鳥月弓
アルクの章
1/40

クラニ村

 この辺りで一番高い、この木の上が魔獣の森で一番好きな場所だ。

 登ると遠くに海が見え、ほとんどの時間を海を眺めるか眠るかで過ごす。

 子供が一人で森に入ることに周りからは反対されたが、子供扱いをされるのが嫌で無理矢理、我儘を通していた。

 九歳からやっているが、それから今日までの三年間は問題なかったし、これからだって問題など起きないだろう。

 余り奥へは入るなと言われているが、ここまで来ないと海を見る事ができない。この辺りは結構危険だけれど、どうせ森の中に入らなければならないのであれば、ここまで来ても違いはないはずだ。

 早く実力を付けて独り立ちできると認めさせたい俺は、これくらいの危険を恐れている訳にはいかない。


「さむっ」

 そろそろ春だが、雪解けまではまだまだ二、三ヶ月はあるだろう。

 皇都あたりでは、この時期になるともう雪は無いそうだが、北のこの地は春の暖かさはまだ遠くに感じる。

 そろそろ帰ろうと木を降りると早速、魔獣の気配を感じた。

 この感じは狼だ。魔獣化した狼であっても、普通の狼のように数匹で取り囲むように獲物を狩る。

 多分、三匹。周りの繁みに潜んで俺のことを窺っているようだ。

 目の前の繁みで、わざと俺に判るように移動している奴は囮で、後ろの二匹が襲ってくるというのがこいつらの戦法だ。

 狼はたいていこの方法で襲ってくるが、もう馴れてしまった。


 剣を抜き、身体だけは前の囮を向いて、意識は後ろの二匹に集中させる。

 後ろへ振り向きざまに火炎塊を二匹へ叩き込んでやろう。

 そう思った刹那、不意を突いて「がさっ」という音が右側から聞こえる。

「このぉ」

 右側から飛び出した狼に、まったく気付いていなかった。不意は衝かれたがなんとか左へと跳び除けながら剣を狼の首から肩あたりへと振り降ろし、なんとか倒せた。

 跳ねながら除けたので、そのまま地面に倒れ込んでしまい、その状態で後ろから飛び掛かってくる二匹に対処することになった。

 一匹目は大きく開いた口へ剣を突き刺し、もう一匹へ火炎塊を叩き込む。

 間一髪だった。

 囮役だった狼は逃げて行ったらしい。

 もう気配は感じない。


 立ち上がると右足と右腕に痛みが走る。

 足の方は、小さな小枝が刺さっていた。

 引き抜き、止血をする。

 痛い。

 服に穴が開き血塗れだ。

 腕の方は打撲らしい。どの時点で、どこに打ち付けたのか、まったく判らない。

「くそ、おおかみめ」

 悪態をつきながら家へと歩いた。


 暗い魔獣の森を出てから三十分程歩くと、俺が生れ育ったクラニ村が見えてくる。

 この道は物心ついた時から通っている。

 思い出せる一番古い記憶は、父の背中に背負われてこの道を通った時のものだ。

 その父も母も、三年前の魔獣退治中に死んでしまった。


「ロヒ、ただいま」

「おかえり」

 夕飯の支度をしているロヒは赤の他人だ。

 なぜ俺の世話をしているのか、いまだによく判らない。

 見た目は二十代だと思うが、訊いてみても「忘れた」としか答えてくれなかった。

 村の女共には人気がある。

 赤い髪をして、色白で女みたいな顔付きをしているが、剣の腕前は村の剣豪を名乗る奴よりはるかに強いし、魔法も村一番だった俺の父が敵わないと言っていた程だった。


 昔は冒険者だったらしいが、両親が死ぬ一ヶ月程前に客として住みだし、そのまま居着いてしまった。

 両親が死に、俺の世話をする為に居てくれているのだとは思うが、そろそろ俺の為というのが重荷になってきている。

 一人で暮らすのは確かに寂しいかもしれないが、俺はもう子供じゃない。さっさと冒険者に戻ってくれても良いのだけれど。


 部屋着に着替えながら、それとなく、そんな話をしてみる。

「それは、アルクが一人で魔獣を倒せるようになってからだね」

「もう、倒せるよ。先刻も森で魔獣を三匹倒したんだぜ」

「うーん。無傷で倒せなきゃ。心配で一人にできないよ。夕飯の前に、その右腕と右足の傷は治療しておきなさい」

 いつもこんな感じで心配だと言われる。

 そして不思議な事に、俺の事をなんでも見透かしているような事を言う。

 足の傷はばれてもしかたがないが、右腕の打撲はどうして判ったのだ。夕飯の支度をしながら、ほんの少しだけ振り向いただけで見た目では判らないはずだ。

 そんな魔法があるのかも知れない。


 傷に薬を塗り、夕飯が用意されているテーブルへとつく。

「今日も魚……」

「おいしいじゃないか」

 村では牧畜もやってはいるが、肉はそうおいそれとは口にできない。

 クラニ村は魔獣の森近くに在る。

 魔獣の肉は腐っているようなものらしく、食べることができないので狩りも出来ず、他の村から買ってくることになるが、高価で、月に二、三度食べられれば良い方だった。

「セウラさんが捕って来たものだ。ありがたく思わなきゃ」

 隣に住むセウラさんは父の弟で、叔父ということになる。ロヒが居なければセウラさんに引き取られていただろう。

 ロヒは、クラニ村の人々は強く優しい人が多く、いい村だといっている。

 あまり他の村へ行ったことが無いのでよくは判らないが、強い事は判る。

 そうでなければ他の村に頼まれる魔獣退治を仕事に出来るものじゃないだろう。


 クラニ村は魔獣達から辺りの村を守る事で生計を立てている。百年以上は続いているらしい。

 村人の殆どが近いか遠いかの違いはあるものの血縁関係があると聞く。

 昔から在る村なので、どのような繋がりがある親戚なのか判らない人がほとんどだった。

 遠いとはいえ血の繋がりが有る事は間違い無い。クラニ村の住人のほとんどが魔獣の森から離れて暮らすことができない。

 魔獣の森へ三ヶ月入らなければ左腕が壊死し、それが身体全体へと広がり、最後には死んでしまう。当然、俺もそうだし、隣のセウラさん一家も同じだ。

 こんな呪いみたいな身体を持って生まれてくるのが、この村、クラニ村の人達だ。


 そして、その呪縛は村の人々に共通した苦しみを与えると同時に、結束を固める絆にもなっているとよく聞かされていた。

 村の人々は、それを絆だと言っているが、俺にとっては村人を村に縛る鎖としか思えなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ