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人でなしのいろは  作者: 囲味屋かこみ
第二章 人でなしの姫君
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第二章 1



「起きます」


 そう言って、わたしは身体を起こしました。


 布団を剥ぎ、枕元の携帯を手に取ります。


 時刻は、午前7時。


 2時間程、仮眠できたようでした。


 頭がぼーっとします。睡眠不足でした。


 意識を覚醒させる為に、自分が今いるこの場所を再認識しようと、辺りを見回します。当たり前ですが、わたしの部屋でした。名古屋の割と中心に位置する大須近くの骨董アパート。5畳半、1K、風呂無し、共同トイレ、家賃32000円也。


 部屋には、最低限の家具しかありませんでした。小さな本棚。1人用の折り畳みテーブル。冷蔵庫。お金が、無いのです。事務所を手伝った賃金は、ほとんど学費に消えて、残りは家賃と光熱費と食費に消化されます。現実は、げに厳しきものでした。


「かといって、欲しいものがあるわけではないんですけどね」


 独りごちりながら、わたしは右腕を確認します。曲げ伸ばしをしても痛みはなく、触ってみても後遺症は無さそうでした。


 昨夜受けた、負傷。間違いなく、骨を砕かれていました。


 それが、一晩も経たずに完治する。


 これを、ばけものと言わずに、なんと呼べばよいのでしょうね。


 理由は分かりませんが、わたしの身体は再生治癒能力に大変優れていました。単純な骨折程度ならは、30分もあれば完治しますし、刺し傷ならば5分もかからず根治します。腹に大穴が空いた時は、流石に丸1日かかりました。銃弾は、身体の中で止まると少々面倒です。摘出するまでは、修復と、腐敗の繰り返し。じくじくと熱を持った呪いが、身体の中で終わりなく渦巻きます。


 あの白い部屋で行われていた実験は、より凄惨な実例をわたしにもたらしました。


 内臓を抉り出された時は、1週間。


 四肢を切断された際は、再生に2週間かかります。


 胴を分断されると、1ヶ月。


 曰く、脳——頭部の損傷。

 曰く、心——心臓の損傷。


 それら以外は、時間があれば、全て治癒してしまうそうです。


 なんとまあ、


 笑ってしまうくらいに、ばけもの。

 笑えないくらいに、人でなし。


 もちろん、それが無ければわたしの小さな身体では、織部流の肉体改造についてはいけなかったでしょう——一人で生きていくだけの力を、得る事は出来なかったでしょう。


 それでも——それでも、普通の女の子でいられたら、どんなに良かったことか。思わないわけではありませんでした。


 ——普通の生き方なんか、知らない癖に?


 頭の中で誰かが侮蔑します。


 わたしはそんな声から逃げるように、今日という日を始めます。布団を畳んで押し入れに仕舞いました。そして、キッチンへと向かうと、冷水で顔を洗います。お湯は出ません。ですが、この日ばかりはちょうどよかったと思います。


 部屋に戻り、日課である柔軟体操を始めます。手のひらが床に着くまで上体をそらし、10秒。体勢を戻し、そして屈伸。肘まで、しっかり畳につけて、こちらも10秒。次に、大きく脚を開いて座り、上半身がぴったりと地面に接地するまで曲げます。同じく10秒経ってから、上体を起こし、立ち上がりました。


「んーーーー」


 最後に大きく伸びをすると、着替えを済ませ、寝癖をくしでといて直し、髪をくくり、鞄を持って部屋を後にしました。


 準備時間、30分。


 いわゆる出来る女であるところのわたしに、無駄な行動は許されないのです。


 遅刻しそう、とも言えました。


 頑張って走ります。ファイト。



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