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かき分ける雪

作者: 裏打ちの山手

「私、あなたのように人を差別して分析する人間は嫌い。」


初めての恋がシャットダウンした、と言うよりもログアウトされたと言った方が適切だったろう。2両編成の窓の外は暗く、線路脇の灯から外は吹雪いてることが伺えた。かの言われた「差別し分析する人間」であるはずの自分が元恋人のことを差別し分析することができなかった。いや、心のどこかでしたくない自分がいたのだ。2両編成は院内駅に着いた。雪で20分ほど遅れているとのアナウンスがあった。普段なら赤黒い壮大なレンガ造りの駅舎が、鉛のように冷たく固まった廃墟みたいに自分の目に写った。2両編成は秋田に向けて、ただ前を向いて北上して行った。冷たい地に向かってる1号車は完全に自分だった。秋田駅からはタクシーで市内外れの鄙びた一軒家に向かった。上京する際に飛び出したあの日のちんけ家とは打って変わった別のものに見えた。鍵が空いている。無意識に鋭利な目付きでいた自分がこの時だけニンマリした。見るもおぞましい顔をしていただろう。リビングは常夜灯が灯ってあり、飼っている真っ白な猫が擦り寄ってきた。小さな灯の中でじっとこっちを見つめる奴は何だか寛大に見えた。普段は外を眺めることが好きな奴が自分に擦り寄って来たのは、偶然でもなんでもないことは一瞬で理解った。指を差し出し、匂いを嗅がせ、少し舐めてもらうと途端に奴はそっぽをむき毛布の上に身を臥した。自分の思惑通りにいった奴の行動に哺乳類の頂天に君臨する人類として誇りを持ちたかった。奴は素直である。しかし、自分は完全に動物界で劣ってるように思えた。そもそも自分はまず情報を得てから動き出すことを豪語してるが、裏を返せば確証的事実がなければ動き出せないという貧弱さも同時に露呈している。奴とは真逆である。おそらく最たる弱さの理由がこれであろう。なぜか。真実なんかどうでも良くてただただ事実を知りたいだけであって、結局、自分の興味がある者は自分がその人の情報を知りたいだけだからである。その情報を単なる誰かの弱みと履き違えていただけであった。かの言う人も結局は知るところを知り尽くしていたからこそ、好きであったのに違いない。いや、弱みみたいなものを握っているだけであった。人には一長一短があり、たまたま自分のそれは醜かったものであるが、一長一短も人の見る角度も違えば移る世界は違うのである。まるで陽の光が写すものの陰が画一的ではないように。差別する人が嫌いと言われて、反論する気もさらさらなかったが、最も差別する人を嫌いと言って差別している人を差別している自分は自分のことを嫌いなように見えなかったのは圧巻であった。


翌日、家には誰もいなかった、家の中から食料を物色していると祖母の遺影の場所が変わっていたことに気づいた。眼球は真っ直ぐ力強く今にも何か語りかけてきそうだった。そうすると無性に一人でどこか不意に行きたくなった。まるで祖母にどっかに行ってこいと突き動かされたように。湿った靴を履き雪をはらう。自分の生きている証拠たる吐く白い息は高々と晴天に舞い上がった。すると昨日の暗黒の秋田駅は見事なほど綺麗で暖かく感じた。しかしなぜか自分の祖母が急に脳裏に過ぎった。つくづく変な老婆だったことを思い出した。「身内でも自分の進みたい方向に進ませてくれない奴は義絶していい。」なんてことを、平気で抜かしてしまう、救済措置が全くない変態であったことは手に取るように当時から分かっていた。やりたいことがないと言えば、何もしないでいたいと勝手に解釈をされてしまった。そこからであろう、自分の性格に歪みが生じてしまった。まったくもって辟易するのだが、なぜか気分は爽快であった。「自分のしたいことをただするだけの人生」。この音だけきくと、客体を顧みない自分だけの世界が無尽蔵に溢れる利己的な人間のようであるが、そもそも動物はそうである。だからなのかあの白い猫はいつも祖母の近くにいた。自分が動かない限りは、永遠と変わらぬままである。それを気付かずいつの間にか、誰かに追い抜かれたとか、時代が変わりすぎなどと言っている奴は所詮、動物の相対の不動物(うごかずもの)である。自分は誇りをもてる動物(うごくもの)ではあった。動物(うごくもの)の事を野次を飛ばしたり、何も出来ないと嘆いたりしてる不動物が最も世で劣ってることは明瞭であった。午後2時半である。照らしつける太陽がとても大きく明るく見えた。自分の性が正しくない訳がないことを自負し、そんな祖母の小さいはずの背中を想起していたら、壁がベコベコに凹んだ金属製の3両編成の電車が重い雪をスノープラウではけながらやって来た。晴天のおかげか、雪が動きやすくなっていた。3両編成はぎごちない無骨なジョイント音を轟かせながらも、確かに力強い音であった。乗り心地は良いものである。無論、自分にそっくりな3号車に乗り、前の車に引っ張られて北へ向かう。

最後まで読んで下さって、ありがとうございます。処女作なので、ぎこちない文であったり、表現がおかしかったりしたかもしれませんが、少しでも何か感じてくれたのであれば、ほんとうに幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 言葉の選び方が素敵でした。 [一言] とても素晴らしい作品でした。 これからも楽しみにしています。
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