林檎飴
林檎飴を食べたいと思った
赤みを帯びたその頬に
甘い朝露を滴らせた
可憐な少女の頬の様な林檎飴
出店の老婆が差し出した
其の皺がれた手の中の赤
揺籠の中のふっくらとした頬に
その瞳から溢れ出した涙が滴った
無垢な赤子の頬の様な林檎飴
頬に噛り付いた
甘美な赤が魅せた幻想に翻弄された
ひんやりと冷たい陶器の固さ
じっとりと舌に纏わりつく甘味
赤が誘う幻想から醒めた
太鼓、笛、鉄板の焼ける音
跳ねた金魚が水面をかき乱す
赤が魅せる夢幻から醒めた
此の役に立たぬ赤い陶器を
そっと内緒にゴミ箱に放りこんだ
祭提灯の赤、金魚の鱗の赤、林檎飴の赤
赤みの帯びた頬に赤い血の通った唇
少女が林檎飴の頬に噛り付いた
林檎飴の様な頬が緩む
私の赤と少女の赤
赤と赤の別世界
少女の赤が恋しくなり
私はしゅんと淋しくなった
祭提灯の赤、金魚の鱗の赤、林檎飴の赤
赤と赤の別世界
少女の赤い世界を
少年の日の私は知っていた