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スプーンに時雨  作者: 水菜月
第2章 引っ越したら境
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第12話 あ、境さんがやってきた


「ああ、結花。今夜、さかいが来るよ」

 境というのは時雨さんの恋人であり、カフェ『雨の庭』のオーナーのことだ。

 いよいよ直接対決だっ! はぁーと拳に息を吹きかけて、ぶんぶん腕を振り回してみる。


 しかし、玄関のドアを開けて二人を迎えた私は、あまりのオーラに言葉を失った。はいっ、白旗ホールドアップ。リングに立ったものの、瞬時にタオルが飛んでキター。


 片方は日焼けした顔に渋い髭を蓄えた背の高い男、もう片方は端正な顔立ちの色白の美しい男(女だけど)。

 ピコーン! いや、どう考えても立つでしょ、BLフラグ。でもね、この人たちの方が実はノーマルなんだよね。


「この度、こちらでお世話になっております、たちばな結花ゆかです。よろしくお願い……」

 まだご挨拶を言い終わらないうちに、いきなり境さんが笑い出した。私を見て、くくくくって。しまいにはお腹抱えて大声で笑ってる。

「菜月、また今回はずいぶんちっこいの引っかけたなー」

 むぅー。ちっこくて悪かったなぁ。失礼なんだからっ!


 そして「また」&「今回」という言葉が気にかかる。ああ。家に女の子入れるの、はじめてじゃないんだよね。軽く嫉妬がわく。

「境、笑い過ぎだよ。結花ちゃん、八の字マユになっちゃったよ」

「ま、俺といるより、お前らの方が自然にカップルに見えるけどな」

 大笑いのあと、ふと境さんは真顔になってこう言った。

「君、菜月をよろしくね。こう見えてこいつ、相当なさみしがり屋だから覚悟しといて」

 余裕の発言だなぁ。自分に絶対の自信があるんだろうな。



 境さんはカフェのオーナーだけど、それは家の事情で引き継いだらしくて(つまりはボンボンだ!)店は時雨さんに任せて、自分はすきな仕事であちこち飛び回っているみたい。

 頂いた名刺には「フリーライター 境京一さかいきょういち」って書いてあるよ。ふぅーん、なんか謎でカッコイイ感じが漂うなー。


 日本国内だけじゃなく海外も含めて色んな土地を訪れて、自分の気の向くままに取材した記事書いて、方々の出版社の雑誌に掲載しているらしい。

 その間にカフェ関連で繋ぐことも忘れずに、おいしいものがあれば直接契約して仕入れたりしているんだって。この間のディルも境さんが見つけたらしい。


 傍から見れば理想の生き方だよなぁ。「今、輝く男特集」とかに掲載されても不思議じゃないよ。ああ、こんな完璧男、各所で相当モテモテなんじゃなかろうか。そして、帰れば時雨さんのようなステキな人が待ってるとか。

 正直言うと「男たちの敵!」だよね。本来女であれば、こちらに恋するのが正しい矢印の気がする。ま、私では「こども対大人」な感じが否めないけどね。


 でも、どうしてだろう。お話してるとね、目を輝かせて話す旅の話が楽しくて、まさに少年がそのまま素直に大人になってしまったみたいな人で、にくめない。

 あっという間に相手をトリコにしてしまいそう。これは相当ズルイなぁ。



「ほれ、今回のみやげ」

と言って、境さんが出したお菓子の箱をふと見ると、なんと徳島銘菓「金長まんじゅう」じゃないですきゃーーー!

「ああ、なつかしー」と頬をすりすりする私。

「君は、もしや徳島出身?」

「はい、そうです!」


 解説致しますと、徳島「阿波」には有名な「阿波のたぬき」がおりまして、その顔が描かれた「金長まんじゅう」は子供の頃からだいすきなおやつ。

 チョコレート風味の皮に白あんが入ったおまんじゅうなのです。大人はお茶に合わせるけど、こどもは断然ミルク! ほんとにおいしいんだよ。


 私が宝物を食べるかの如くしあわせに震えて食べていると、時雨さんと境さんが小声で「ほら、りす」「ほんとだ、りす」とこそこそ言ってるのが聞こえてくる。

 何とでも言って下さい。時々実家から送ってもらっているけど、まさかまったく違うとこから現れるとか、奇跡か、たぬき?

 二人は渋そうな玉露に合わせて、「あ、ほんとだ。おいしい」などと言いながら食べてる。私は未だにミルクに合わせちゃう。境さんは二口で食べたよ。大人の男は、けほけほしないのかなぁ。


 今回、境さんは徳島に取材に行っていたそうで、暑い日は川でラフティングしたり泳いだりしたよだって。そう、もちろん海もあるんだけど立派な川もあるの。こどもの頃は近くの川に毎日ちゃぷちゃぷ泳ぎに行ってた。吉野川じゃない、もっと支流の小さな川ね。私の田舎。



 今夜はきっと境さん泊まっていくんだよね……。隣で二人が寝てたら、私やっぱり聞き耳立てちゃいそう。

 壁に耳あり障子にメアリー、だよぉ。でもでもそれって、めっちゃ悪趣味じゃない? だいいち声とか漏れ聞こえちゃったら、もうそれなんの罰ゲームって感じだよね。残酷物語だよ。

 そいでもって想像して悶えちゃったら、私は百合の上に精神的なSMも追加で、アブノーマルの道まっしぐらだよ、あ、もうだめ。


 うう、ヘッドホンでハードロックでも聴くか。……などと勝手な一人帰着妄想をしていたら、「じゃあ、またな」と言って、境さんが帰り支度を始めた。

 遠慮してるのかな、私に。えー、ごめんなさーい。


 手を振って見送りながら、時雨さんに

「いいんですか?」って聞いたら

「は? 何が?」って。

「境さん、てっきり泊まっていくのかと」

「いや、いつも帰るよ。ああ、そっか」


 しばらく考え込んだ後、時雨さんはこう言った。

「えとね、境と私は複雑な事情が絡まって、今はそこまで踏み込めないんだよね」


 そっか。

 その事情を聞くにはまだ早い気がして、私はそこで黙っていた。

 ……めっちゃ気になるけどー。






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