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異世界召喚されたらチートを貰えたので帰ります。

作者: 夕響

主人公にとっては、バッドでもなければ、メリーなエンドでもありません。

ですが、読む人によっては、もやもやしたり、胸が悪くなったりするかもです。

それでも大丈夫、とおっしゃる豪気な方だけ、どうぞお進み下さい。


警告は致しましたので、上記理由による苦情は一切お受け致しません。

予めのご了承のほどをお願い申し上げます。






「ようこそ、異界から来られた勇者達よ! 我等は、そなたらを歓迎しよう!!」


数段高い所で、ゴテゴテしい椅子に座った、ちょっと小太りなおっさんは、そう宣った。

正直私は、アホかと言いたかったのだが、同席してる皆様には異議はないようだ。

――― 私と一緒に召喚された、一応知り合いの男女さえ。


「……えーと、まずは現状把握の為、事情などを教えて頂けます、か…?」


痛むこめかみに手をやりながら、下手に出て問いかけてみる。

そして、ゴテゴテ(以下略)おっさんの隣に立っていた、妙にやせ細った神経質そうな上に陰険そうなじいさん曰く。


今、この世界は魔王が復活して、人類絶滅の危機に陥っている。

当然、人間同士で争っている場合ではなく、凡その国が結託して、この危機を乗り越えようとした。

しかし、魔王以下魔族の力は絶大で、防御戦に徹底してるだけ。

このままでは、いずれ人族は敗北するであろうことは必至。

故に、伝説の力を持つ勇者の召喚、と相成ったと。

そんで、その召喚儀式によって呼び出されたのが、勇者(男)と巫女姫(女)と魔術師(私)。


……やっぱり、アホかと言ってやりたいのだが、ダメだろうか?

いや、だって…ねぇ?

何故、私がそんなことをしなくてはならないのだ。

こちらの同意なく勝手に呼び出しておいて、自分達のために命を張れ?

そんな義理がどこにあると?

むしろ、「ふざけんな!」と一蹴して終わっていい案件だと思う。

人非人?

言いたきゃ言えばいい。

こんな縁も所縁もない世界の住人の為に賭ける命は、生憎持ってませんよ私は。

だって、そんなことしたら、私の世界にいる大事な人達を悲しませることになるじゃないか!

そのほうが、この世界の崩壊なんかより、ずっとずっと重要だね!!


しかしながら、私と共に召喚された男女は、そんな私とは反対の意見らしい。


「伝説の勇者! つまり、異世界で俺TUEEEできるのかっ! もしかしてハーレムも夢じゃないのか!!」


とか。


「私が巫女姫! …いやぁん、イケメンに守られて、ドッキドキな日々過ごしちゃうの~!?」


とか。

頭悪すぎだろ、な台詞を吐いて、大興奮中だし。


――― …って、ぅおいっ!!

なんで、そんなノリノリなの!?

少しは『理不尽を怒る』とか、『故郷から切り離された現状を嘆く』とかないの!?


ああ、もう…っ!

常々、この二人とは相容れないとは思ってたけど、これほどまでとは思わなかった。

……うん。

もうこの先、一切係わり合いたくないわ~!


私は、自分の望みを貫くことを決意し、もしかして『するかもしれない後悔』をも受け入れることも含めて決断した。

その方法はもう判ってる。

だって、私は『魔術師』なのだ。


そう。

召喚の魔法陣をくぐってきた異世界人には、もれなくそれぞれの『職業』と、それに必要な『全ての知識』と『能力』、そして所謂ユニークスキルというヤツだろう、その人だけが待つ『職業に関連されたチート』を付与される。

つまり、もしも『剣士』という職業を与えられれば、喧嘩ひとつしたことがない者でも、剣で戦うための知識諸々と、それを扱うことのできる筋力その他が与えられ、戦場にすら即時に立てる『剣士』となれるというわけだ。

そして更にチート…剣士なら『戦闘時のみ筋力がアップする』とか『任意で斬撃の威力の増減ができる』とかだろうか?

まぁ、そういった謂わば反則のような能力を貰えるので、こちらの人間の努力を嘲っている気がするがそれはさておき。


私の職業は、さっき言ったように『魔術師』だ。

そんな私に付与されたチートは ――― 『馬鹿げたほどに膨大な魔力量』。

だから、誰に言われるまでもなく、識っていた。

私の魔力量が、この世界の最高峰の魔力持ちであろう魔王さえ、軽く凌駕できてしまっていることを。

この、人間の中では高能力らしい ―― 魔族の最低ランクに近い ―― 魔術師10人体制で動かしたらしい魔法陣を、たった一人で動かすことなんて容易いことだったりすることを。


そして、魔法陣特典で、もれなく貰える『言語チート』。

それは、この世界のありとあらゆる言語を理解し、読み書き、話すことが出来る、という優れモノだ。

おかげで私 ―― と言うか召喚された者は全員なんだけど ―― は、この世界の古語で書かれているらしい魔法陣の文言も、楽々と解読できる。

言葉を理解し、更に読み書きが出来るのなら、当っ然、自分の望むようにカスタマイズすることも可能だよね?


私は息をするような気軽さで、それを行い、そして時を待つ。

チャンスは1度きりかもしれないからね!

そして ――― その時は来た。


「勇者達よ! どうかその『力』でこの世界を救ってくれ!!」


頼みごとをするというのに、上座で踏ん反り返るゴテゴテ(以下略)おっさんの声に。


「「はい!!」」

「嫌です!」


力強く、『是』と頷くふたつの声と、『否』と、きっぱり答える声がひとつ。

勿論、後者が私だ。

だって、YESと言う必要性が、全く感じられない。


「な、なんだと…っ!?」


否定されるとは思っていなかったのか、大仰までに驚くゴテゴテ(以下略)おっさん達を尻目に、私は鼻で哂う。


「嫌だと言いました。だって、私の命はそんなに安くないのですよ?」


この命は私のものであり、そして私を想ってくれる人達のもの。

だから、この世界の為になんて捧げてやるものか!


「私は帰ります!」


言うが否や、私が流し始めた魔力を受けて、魔法陣が青白く光り出す。

それを見て、やせ細った(以下略)じいさんが、私を小馬鹿にしたように哂う。


「バカめ! ソレは召喚の魔法陣だ。動かせたところで帰れるものか!!」


だから、私は更に判りやすい嘲笑を浮かべてやった。


「バカはアンタらのほうでしょ。私は、『言語チート』と『魔力量チート』を与えられた『魔術師』よ?」


その言葉の意味することを理解したのだろう、やせ細った(以下略)じいさんの顔色が一気に悪くなる。

そして、口の端に泡を浮かべながら、配下の魔術師に私を止めろと喚き始めた。

次いで、ゴテゴテ(以下略)おっさんも、周りの騎士達に同様の命令を下す。

でも、無駄だ。

だって、私に勝てる魔術師なんて、この世界には存在しない。

そして魔術が使えるなら、騎士達を無力化するなんて容易い仕事だ。


ちろり、と、共にこの世界に喚ばれた二人を見遣った。

二人は何が起きているかわかっていないのか、揃って間抜け面を晒している。

そんな二人に私は、手を ――― 伸ばさなかった。

だって、選ぶ権利は彼等にある。


「それでは皆様、ごきげんよう?」


その言葉を合図に、魔法陣は目を灼くような光を発し、私の望みのままに起動した。

自分でやったこととは言え、あまりの眩しさに閉ざしていた目を再び開けた時、そこは召喚前にいた場所。

つまり、私はちゃんと元の世界に帰ってこられたのだ。

但し、直前まで傍にいた二人は今はいない。

そのことに、ほんの少しだけ胸が痛む気がした。

だけど、仕方ない。

私は、魔法陣に記されていた『我等の望む者をこの地へ』という一文を、『望む者を望む場所へ』と書き換えた。

それは、顕在しているものだけじゃなく、潜在しているものにも有効だった。

そして、私の隣にあって、魔法陣の上にいた彼等にも、当然等しく魔法は起動したのにも関わらず、二人はここにいない。

それは、そういう意味なのだろう。


自然と眉根が下がり、唇が苦笑を形作る。

これは所謂『感傷』ってヤツかな、と自嘲したタイミングで自分を呼ぶ声が聞こえた。

背後から聞こえたそれに振り返れば、親友がこちらへと駆けてくるところだ。


「おはよー。今日も早いね~」


私の所まで走り寄って、定番の挨拶をしてきた親友は、ふと辺りを見渡し、首を傾げる。


「どうしたの?」

「えっ!? ……いやぁ、アンタの傍に、ストーカー男と勘違い女がいないのは珍しいなぁ、っと思ってさー」


一瞬気まずそうにしたくせに、あっけらかんと心情をバラされて、私は苦笑せざるを得なかった。


「…あー……そーだねー」

「えっ、なになに! あのストーカー男、やっとアンタのこと諦めてくれたってこと?」

「んー?」

「あ! まさか、ついにあの勘違い女にオトされちゃったの? だとしたら、お似合いだね!?」


曖昧に言葉を濁す私に、親友は、あははは、と快活に笑う。

自分で言った言葉を、欠片も信じちゃいないし、勿論後半部分は完全なる揶揄なのだが。

そんな彼女に苦笑を深め、私はポツリと零す。


「そうね……まぁ、もう二度と現れないんじゃない? 二人とも」


だって、あいつら異世界で『勇者』と『巫女』やるらしいから、ね?

心の中でそう嘯く。


彼等が帰る術は、私が完全に潰してきた。

世界中に散らばる召喚の魔法陣を全て探し出し、その全部を跡形もないほど破壊した上に、その情報を記載している本やら何やらも全て無に帰してきてやったのだ。

魔力チート様々ってヤツだね。

あんな短時間だったのに、何の苦もなく、本当に呼吸をするくらいの容易さで行えたよ!


え?

私が使った帰還の魔法陣があるって?

勿論、アレも私が還った後は自壊するようにしてきたに決まってるじゃない。

そもそもアレ、私と同等の魔力がないと動かない仕様にしちゃってたし。

一応、アイツらのために残しておくことも考えたけど、アレを研究されちゃって、その結果、召喚魔法再現、なんてことになったら、すごく迷惑でしょう?

これ以上、あの世界のための生贄をくれやる意味が判らないし、ね?


「拉致、誘拐、強制労働に監禁。…どれも犯罪だよねぇ…」

「は…?」


こちらの意思も確認せず自分の陣地に引き込み、そして己の実力的支配内に移し、選択肢も用意せずに役目を押し付ける。

更に、元いた場所には帰せないから、ここで一生涯暮らせ、と囲い込む。


…うん、どれも法治国家なら『犯罪』とされる類だ。

それが当たり前に、さも当然のように行われてるなんて、異世界って随分とコワイとこだよね、まったく!


向こうに残った二人は、せいぜい頑張って、『勇者』と『巫女』の役目を全うすればいいと思う。

あんなにノリノリだったんだから、大丈夫でしょうよ。

二人だけで魔王を倒せるのか、とか、もし倒せたとしても、その後はどうするのか、とか考えない訳でもないけど、役目を放棄してきた私が考えても仕方ないことよね。

大体、過去も現在も未来に至るまで、あちらの世界で起こった『何か』に、私が責任を負う義理は全くないんだし。

でも、だからこそ、私は声高に言ってやろう!


「端から帰す気のない異世界召喚は、立派な犯罪だ!」


…うん?

帰す気があれば召喚してもいいのか、と言われても答えは否だよね。

じゃあ、こう…かな?


「本人承認のない異世界召喚は、立派な犯罪行為です! そもそも、自分の世界の厄介事は、自分達で何とかしやがれ下さいっ!!」


―― 吠えた私を、親友が頬を引き攣らせて見ていることに気づき、己の頬も引き攣らせることなるのは、もう間もなくのことである。


…うん!

やっぱり、異世界召喚は悪だ ――― っ!!!

帰れる条件が揃っているのに、それを行使しない理由はないよなぁ。

…という感じで浮かんだ話でした。


主人公は『悪人』ではありませんが、『善人』でもありません。

なので、見知らぬ異世界の人々のことは自分には無関係だと割り切れるし、勇者(笑)や巫女(笑)のことは、本人達に選択権を与えることで二人を慮りました。

だって、前半は召喚されなければ本当に無関係ですし、二人のことは本人達が心から望むことなら、それを否定する権利はないですから。

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― 新着の感想 ―
他に拉致された人は状況理解できてなかっただけでは それ掘本人がの責任とか言うのは無理あるな
[一言] 人を無理やり誘拐してる連中が困ろうと知ったことでは無いし、帰る気ゼロの2人を置いてくのも主人公の勝手だと思う。 (まぁ、2人は一時的なノリではしゃいでた可能性の方が高いので、状況がよく分から…
[気になる点] 犯罪です・・・と断定しているけど これは日本の法を前提として思考してしまっていて 地域や文化が違うと法も違うということを忘れてしまっている それシンガポールでは違法だから罰金ね・・・…
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