表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/16

幸せの中の偽物

「お疲れさまです、今出勤ですか?」


休憩室に入ってきた小早川さんに僕は笑顔で聞いた。

もう人出は十分足りているはずだが一体どうしたのだろうか。


「あー、いや、ロッカーに置きっぱなしにしてた音楽プレイヤー取りにきただけ。なんか忙しそうだね」


「いや、もうだいぶ落ち着いてきましたけどね。雛森さんよりに休憩いただいています」


「それにしてはずいぶん汗かいてるけど」


そういえば、額と首元が汗でびっしょりと濡れていることに気づいた。休憩室のクーラーがやけにヒンヤリと感じたのはこのせいだったのかと納得した。


こんなに汗をかいた覚えはないが、おそらく......


「いや、でももう大丈夫です」


表情の陰りを押し隠し、僕は笑顔を張り付ける。

ふーんと、これといって興味はないことを隠さず小早川さんは生返事をする。


「そういえばさ、幸せの手紙って、今このファミレスで噂になってるじゃん?」


「ん?うん、そうですね。お客さんの間で噂のやつですね。あれがどうかしました?」


彼女からそんな話題を振ってくるなんて珍しい、と悠長に構えていたのもつかの間、彼女のまとってる雰囲気が変わっていた。鋭利な刃物を彷彿とさせる冷たさ。


彼女の冷たい目が僕の目をじっと見つめる。先ほどまでの、行き場のない両目が、明確な目的をもって僕を捉える。


「あれ実は、私が作ってるんだけどさ、魔法のまじないを込めてね。私が見覚えのない偽物が混じってるみたいなんだよ。今いるお客さんで三人組の子供いたじゃん?あの子には手紙を出した覚えはないんだ。なんでなんだろう。何か知らない?」


すでに心の中で目星はつけている、言葉ではなく彼女の目がそう告げている。


幸せの手紙の作成者が自分であるとあっさり明かすほどに、彼女は僕に対して強いメッセージを送ろうという気持ちが伝わる。


だから僕は、彼女の両目を見つめ返し言葉を投げつける。


「知らないな。僕は何も関わっていないよ」


僕は張り付けた笑顔を崩さず答えた。

そして右手に入った紙切れを、ぐしゃぐしゃに握り潰した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ