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異世界ファミレス(おまけ)

遥か彼方の地平線まで続く大地の中、、容赦なく照りつける太陽の日差しを背に、僕は目の前にいる一匹の黒い狼と睨み合っていた。


僕の持つ大剣ドラゴニクスで応戦しようにも、ヤツの電光石火のようなスピードには追いつけない。


それはヤツもわかっているのか、ジリジリと少しずつこちらとの距離を詰め、今にも飛びかかろうとしているところだった。


距離にして2メートルもないところまできた。

黒い狼、ウォルフの眼光が鈍く光り、刹那ーーーー


僕は見た、ヤツが飛びかかる一瞬前に後脚がピクリと動くのを見逃さなかった。ドラゴニクスを抜く時間はない、ならば。


腰の後ろに隠した短い短剣を、流れるようなさばきで引き抜き、飛びかかるウォルフの首元に刺し込んだ。


ズプリ。

短剣に突き刺さったウォルフは刺された後も狩人の持つ鋭い眼で僕を睨んでいたが、やがて眼から光は失われ、短剣に突き刺さって宙ぶらりんになったその死骸を、僕は地面にゆっくりと降ろした。


『クエスト完了ってとこだな。早くギルドに戻って報酬を受け取ろう』


この黒いウォルフは、この広大な大地にある国と国を結ぶ国道に現れては、そこを行き交う商人の馬車を襲い、人間、そして食料を食い散らかす魔物だった。


物を売る商人、それを買う国民ひいては国にとっての外敵、そして魔物としてのスペックが高いこの黒ウォルフは難敵というわけだ。

国として出されたこの特別なクエストは、一般のクエストと違い、高い報酬。


手強かったが、まぁ俺の敵ではない。

しかし、それにしても暑い。

あたり一面草の根一つない干からびたこの大地に降り注ぐ直射日光。


帰って最高に美味い酒と肉が食いたい。

高い報酬が受け取れるんだ、浴びるほど飲もう。

そうだ、酒屋のおっちゃんがこの前、変わったレストランがあるから今度紹介してやると言われたのを思い出した。


なんでも、この世界とは違う異世界のレストランらしい。異世界と聞いて若干胡散臭い話だなと顔をしかめたが、美味い飯にありつけるなら乗ってみるのもまた一興。


危険な仕事に見合う高い報酬を受け取ったら、それに見合うような面白い使い方をしてみるのもいいじゃないかと、少し苦しい言い訳を自分にするが、まぁそれはそれで。


閑話休題。


短剣にこびり付くウォルフの血をマントで拭い、腰にしまった。

背中に巻きつけていた水筒の残り少ない水を一気に飲み干し、僕はその場を後にした。


ーーーーーー


「ようにいちゃん。とうとうきたな、準備はいいか?いいよなにいちゃん」


「ノリノリですね店長。僕の返事も待てないくらいの落ち着きのなさ、なんか怖くなってきたんすけど」


酒屋のおっちゃんに案内されたのは、酒屋の裏の倉庫にある古ぼけた扉。

倉庫の大きさからして、扉の奥にレストランがあるようには見えないのだが。


「この先はな、別の世界に繋がってんだ。魔物もいなければ国王も、魔法もない、平和で民主主義で格差のない世界なんだってよ。これは向こうの世界から帰ってきた他の冒険者の話だからどこまで本当かは分からないけどな」


「胡散くせぇ」


そんな世界あるわけがない。

国王の絶対君主も、貧困も、争いもない、そして魔法と魔物がいない世界なんて。別世界じゃないかそんなもの、どこのおとぎ話だ。


「まぁ入ってみなって。この先はその異世界にある、"ファミレス"っちゅーレストランらしいぞ。肉も酒もある。カレーライスとか言ったっけ、香辛料の効いたスープに白米を浸して食べる料理が絶品らしい。」


「はぁ。まぁ、でも入ってみます」


そして

ほい、酒屋のおっちゃんから差し出された両手。


「え、なに。てこれ、まさか......」


「入館料」


きったねぇ。汚ねえおっさん。顔もきたなけりゃ金にまで汚いってか。


僕はため息をつけながら、100gold渡した。

ワクワクを体験するにも金がかかるってことか。


でも。


期待に震える。

震える僕の右手で、ゆっくりと扉を開けた。

ギィイイイという音とともに開かれた先にはーー。


「いらっしゃいませ」


ネームプレートに、"小早川"という名前が刻まれている女性が、エプロン?らしきものを着て出迎えてくれた。メイド?にしては覇気がなく、面倒くさそうな対応を隠す気もなく押し出している。


「何名様ですか?」


「え?ひ、1人っす」


「好きな席をご自由に」


好きな席、どこにしよう。

というか、広っ!!


レストランだった。扉の先にこんな空間なかった、はず。

壁にはお洒落な絵画がいくつか飾られ、椅子やテーブルも綺麗で清潔感がある。


「ていうか、柔らかっ!!」

座ったテーブル席の椅子が皮でできているのか、やけに柔らかい。


「メニューお決まりになりましたら手元のスイッチを押してください。」


先ほどの小早川という女性が冷たい水の入ったコップを差し出した。


「待て、僕は水なんて頼んでないぞ。いくらだこれは?」


それに対して小早川は、はぁ?と馬鹿でも見るような目つきで僕をみた。


「無料ですが」


む、むりょーーーーー!!

なんだこのレストランは。

なんだこのレストランは!!


水が無料とな。本当に異世界。


まずはコップの水を飲み、周りを見渡してみたが、1人の金髪の少女が離れたテーブル席にいる以外見当たらない。

窓の外は暗いから、夜......か。


「メニューお決まりになりました?」


ボタンを押す前にさっきの小早川という女性が不機嫌な態度で僕に投げかけてきた。

コイツはなんかさっきから喧嘩でも売りにきてるのか?やっちゃうよ?ドラゴニクスでやっちゃうよ?


「じ、じゃあカレーで。」


焦ったせいか酒屋のおっちゃんに勧められたメニューがするりと口先に出てしまった。


「カレー1つ。以上で?」


「あと、酒が欲しい。」


「なんの?」


「は?」


「どのお酒ですかお客様?」


小早川はメニュー表に指先をトントンと叩き、にっこりとこちらに話しかける。若干笑顔が引きつってる。


急いでメニューを開いた僕は、


「び、びーる?」


「ビール1つで。少々お待ちください」


しばし待て、ドラゴニクス。

お前の出番はカレーを食したあとだ。


怒りを抑え、30分ほど待つと先ほどの小早川がカレー?とよばれる土の色に濁った液体と白米が乗った皿と、黄金色に輝く液体の入った大きなグラスを持ってきた。


「ごゆっくりどうぞ〜」


匂いをまずは嗅ぐ。

これは、なんだこれは!!


経験したことのないスパイシーな香りと、どっかりと入った野菜、そして肉。食欲をかけたてる白米、そしてびーる?とよばれる黄金色に輝く酒。


特別な野菜スープみたいなものか?

手が震える、震えるぅううう。

ゆっくりとスプーンでカレーをすくい、口に入れた。


う、美味すぎる!!

茹だったスープ、ガツンとくる辛さに白米と絡む濃厚な味。そしてーー


キンキンに冷えたビール!!

シュワシュワ?口と喉を焼くように刺激するその泡感と、火照った身体に突き抜けるようなその冷たい酒は、たまらなく僕の身体を波打たせた。


おっさん、あんたに払った入館料。

この感動に比べちゃ安すぎるぜ。


ガツガツとカレーを口に運び、ビールを浴びるように飲む。

離れた席に座る、金髪の少女の視線など露知らず、僕は夢中になって、食って飲んだ。


ドラゴニクス、お前の出番はなさそうだ。


また、来よう。


また来るぞ、この異世界のこのファミレスに。

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