取調室にて......
取調室内で、私は本日何度目か分からないため息をついた。
「君のことをどうにかしようなんて思ってないから正直に答えてほしいな。城君が、刃物を持ったスーツの男に襲われたところまでは分かるんだけどね。その後、何が起こったのかの簡単な説明でもいいからほしいんだ。調書を取るためだけのものだから詳細でなくてもいい、気を楽にしてさ」
「風の銃弾が.......んぐっ。うっ......。女子高生が倒したんです。本当に」
何度聞いても、目の前の彼の口からは、魔法というファンタジーじみた表現が発せられ、気が滅入ることこの上ない。パニックになるのはしょうがないとして、その逃避先が空想になってしまうと、仕事が先に進まないのだ。
夜は23時をまわっていた。
あと1時間で終わってしまう娘の誕生日の日を警察署内で過ごしてしまうなんて、いずれ娘に愛想をつかされてしまうかも。こんなことなら警察なんて仕事選ぶんじゃなかった。
はぁ、まぁ考えても仕方ないことは、閑話休題して。
「女子高生さんはどうにもこちらで確認できていなくてね。犯人は気絶して目も覚まさないし、君の話である程度はまとめておきたいんだ。車にひかれた女性の事もあるしね」
「その、白衣の女性!助かったんですか?」
「地面に強く打ち付けた時に、あばら骨を一本骨折しているね。あとは軽い脳震盪で、命に別状はないけど。君、もしかしてその女性のこと知ってるの?」
ずっとめそめそ泣いていた城と呼ばれる目撃者兼被害者の彼が、女性の存在に強く反応を見せたことが意外で、思わず身体がのけ反ってしまった。いかん、若人の勢いについ。
「はい、その人、俺のバイト先のファミレス、リトルボーイっつーんすけど、今日来店した、そこのお客さんみたいで。いや、そうコバッち、てか、女子高生がそう言ってて」
え?え?
バイト先、女子高生、お客さん?彼はバンドサークルの帰りじゃなかったっけ?
なんでファミレスの話になるの?というか、また女子高生?
学生と話すと楽しい反面、報告のための現状説明と自分の感想や考えがごちゃごちゃになっていたり段取りがなされていなかったりと、話をくみ取るのに苦労するから疲れる。
おまけに彼は空想も混じっているし......
でも確かに、彼が抵抗した痕跡はない。
ただ、実際に加害者の男は傷を受けて気絶している。
その男が何メートルも吹っ飛ばされた跡が残っている。
誰が何を使ってどうしたのかが分からない。
色んなものが抜け落ちている。謎は多い。
だが、ここは大して問題になる部分でもなく時間も割きたくないため、城君の説明にある程度尾ひれを付けてさらっと終わらせるつもりが、まさかここにきて新情報か。
「えぇー、その女子高生は君の知り合いなんだね。それと、白衣の女性は、事件前にそのファミレスに来店していたと。うーん。1つ1つゆっくり深堀して聞いていくから、落ち着いて答えていってね」
余計なことを聞いた気がする。簡単に調書を取って終わらせるつもりが。
うわー、今日中に帰れそうにないなー。
時計の針を見るのがこんなに憂鬱になるなんて思わなかったな。
いつだって仕事に追われる気分にさせるんだ。
鉛を背負ったようにドッと肩が重くなった。