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計算された悪意

月曜日の夜9時、客入りがまばらになり始めた頃、ヒョウ柄のシャツに上から白衣を羽織った派手目な女性が来店するのが見え、僕は重いため息をついた。


20代前後の男グループに、老夫婦、40代くらいのサラリーマン、閑散としたこのファミレス内に、白衣を羽織った派手目な女性という異色な存在はやけに際立って見えた。


「Kくん、接客お願いね~」


小早川さんは面倒な匂いがするお客にはまず自分から接客しない。おそらく僕に声がかかるだろうなとは思っていたが案の定だった。


「やや、来てしまったよ、K君。ここで今働いているんだね。調子はどうかな?」


白衣を着たその女性は悪戯っぽい笑みを浮かべて接客として伺いに来た僕をなじるように聞いてきた。


「どうも何も。ぼちぼちです」


小早川さんを横目でちらっと見て、すぐに視線を戻す。

ここでは一番会いたくない人間が来てしまったことに僕は内心辟易していた。


「んふふふ。嫌な表情を隠そうともしないわねあなた。色々聞きたいけどまぁいいわ。とりあえず空いている席まで女性の私をリードしてちょうだいな、男らしくね」


「香山先生、なんか楽しそうですね」


こちらの席にどうぞ、と半ば投げやりに答え、窓際にある喫煙席へ案内する。

ひらひらと白衣が揺らめく中で見える短いスカート、どう見ても彼女が心療内科の先生であることが信じられない。渋谷のキャバ嬢と言われた方がまだ納得できる。


「とりあえずドリア1つ。あと、ドリンクバー2つでお願い」


鞄を置いて足を組み、メニューも開かずに香山先生は注文を入れる。

ドリンクバー2つ?

なぜ2つと疑問が口から洩れかけたが、嫌な予感がする。

なぜかは聞かずに注文だけ取ろうと、ペーサーに注文内容を登録――


「ドリンクバーのもう1つは、あなたの分よ。お姉さんがおごってあげる」


香山先生はニコニコしているが、口元のそれと違い、目は笑っていないことは分かる。


「おそらく君と話すのは初めてね。中学の頃の君よりいくぶんか落ち着いた雰囲気がある。高校生になって眼鏡も外したのね、雰囲気が変わったわ。変わったのは雰囲気だけではないようだけど」


香山先生がどうしてこの場所を突き止めたのかは分からないが、あまり踏み込まれたくはないのが本音だ。今の僕の世界を壊す危険性を彼女は持っている。


「いえ、仕事中ですので。今はちょっと......」


「こんな客少ないんだからどうせ暇でしょう。あと、ただのアルバイトであって、仕事とは呼ばないわね。そこは理解しておきなさい」


邪魔だなぁ、この女。

聞こえるようにぼそっと呟く。が、彼女は全く怯むどころか、挑戦的な笑みを僕に向けて答える。


「私があなたの中の弱音の虫を潰してあげる。それまであなたにピッタリとくっついてあげるから。覚悟しなさい」


そう言って香山先生は、早く行ってと、片手をひらひらさせる。


注文を取って厨房に向かうと、小早川さんが声をかけてくる。


「なんかアクの強そうな人だね、今の人。接客はよろしくね。私、ああいう人苦手。けっこう話してたけど、知り合い?」


「アクが強いというかなんというか......。知り合いですね、中学の時からの。派手で我の強い人です」


香山先生の席をちらっと見ると、彼女はスマホをポチポチと弄りながらコーヒーを飲んでいた。時折左腕を伸ばして腕時計を見ている。


時間を気にするくらいならこんな夜の時間に来なければいいのにと思ったが、僕のシフトに合わせて来たのかと思うと、何とも言えない気持ちになる。

厄介な人に目を付けられたな。いや、もう1人の″K″が頼んだのか。


「我の強い人って自分のペースでしか動かないじゃん?そういう人の口調を聞くと話す気なくなってくるんだよね。自分が一番って態度がなんかね」


小早川さんも香山先生の方を見て苦い顔をする。


同属嫌悪という言葉がここまでしっくりくる場面は久しぶりに見た。

あなたが言うなと口元から出かかったが、すんでのところで口を閉じ、黙る。


「なんか、言った?」


いえ、何も言ってません。

僕の心を読み取ったのであろう小早川さんが鋭い目つきで僕を見据えた。

基本無表情の彼女もこんな怖い顔できるんだなぁと感心するほどだった。


ダメダメ、心をもっと他の事で濁さないと。

彼女に全て見透かされてしまうから。

だから僕は、他の考え事を2つ3つ頭に思い浮かべ、心をぼかさせる作業に努める。


厨房から上がったドリアを片手に、香山先生のテーブルに向かった。

行ってらっしゃいと小早川さんからかけられた言葉は、他人事という無機質で無色透明な鎧を羽織って、僕の身体をずっしりと重くさせる。


「お待たせいたしました。こちらがミラノ風ドリアになります」


ありがとうと返事をし、香山先生は白衣を脱いで丸めて横に置く。

テーブルを見渡すと、すでに香山先生の向かい側に、コーヒーが入ったカップが置かれていた。


「可愛い子じゃないの。小早川さんっていうのね、君のお気に入りの子。ショートで二重の吊り目なトコ、すっごい我の強そうな子。学生時代の私そっくりだわ、あの人を寄せ付けない感じ。あなた、ああいう子がタイプなのね」


「違いますよ、というか、やめてください。そんなんじゃないですから。それに、あなただけならまだしも、僕も彼女に警戒されちゃいますから」


にゃははは、といじめっ子特有のいやらしい笑い声を上げる。

タイプは違えど、小早川さんと香山先生は共通してる何かがあると感じはする。決して口には出さない事だけど。


今、若干香山先生と、こっちを軽く見た小早川さんの目が合った気がする。

もう早く上がりたいところだが......


「まあK君、とりあえずここに座ってくつろぎなさいな。ゆっくりお姉さんとお話しましょう」


ほらね。

それではと、一言告げ、僕は香山先生の向かい側に座る。

厨房から店長のきつい視線を感じるが、今は止む無し。無視に努める。


「それで、僕に何か?」


香山先生が入れてくれたコーヒーを啜り、香山先生を見る。


「まずは確認。君の人格と会うのは、今回が初めてね?」


香山先生の問いに、僕はゆっくりと首を縦に振る。


「いつから?」


「中三の時、あるコンビニで急に意識が浮上した。主人格のストレスが限界に達しんたんだと思う。以来、僕が交代でここまで″K″を務めている。特に生活に支障はない」


「ご両親は?」


「僕が多重人格であることはまだ知らない。今は僕は一人暮らしをしているし、以前ほど生活にストレスはないですね。原因を解決してはいませんが、解消はしています」


なるほど、と香山先生はコーヒーを口に含み、何かを考えるように少し押し黙る。

そして、口を再び開ける。


「そう、それはよかった。それで君はこうしてここで働きながら学校生活は送っているというわけね」


「それが何か?」


「どうしてもう一方の子がなかなか出てこないのかなーとね、お姉さん的に心配になってきちゃうわけなんだけど」


「外の世界に憶病になってるだけですよ。もう怖い、きつい、不安になるのは嫌で逃げているだけなので、しばらくすれば、また出てくると思いますが」


「それだけならいいんだけどさ」


先生はテーブルをコツコツと叩く。思考の整理をしているとき、人間はその人固有の癖や仕草をすると本で読んだことがあるが、これは彼女特有の癖なのだろうか。


「君がさ、もう1人の彼に適当なこと吹きこんで、外に出てこないようにしているのかなーと。今の生活は心地よいでしょう。ずっと続けたいと思うでしょう。だから、もう君はずっと外の世界にいたくなったんじゃない?」


「まぁ、今の生活は悪くはないですね。でも別にもう1人の彼に意地悪して今の席にずっと着こうなんて思っていませんよ。ただ、彼が内に籠っている間に、やりたい事とかは色々やっておきたいんですよ。そう思うのは悪いことではありませんよね。それくらいいいでしょ。だってさ、彼の見たくない聞きたくない事は全部僕が引き受けてたんだから。ちょっとくらいリターンを求めても、罰は当たらないはずですよ」


少し喋りすぎたか、喉がカラカラになり、温くなったコーヒーを全て流し込んだ。

僕の話を最後までゆっくり先生は咀嚼し、机をコンコンと軽く叩く。


「罰は当たらないわね。それが人を巻き込むことでなければね?」


「ばかばかしい......」


そう僕は口にして、空のカップを見つめる。


「だといいんだけどね、何か企んでいるような気がしてならないのさ。君みたいに一見大人しそうな子はね、外側に表立ってエネルギーが発露しない分、内側にエネルギーが籠ってしまうのよ。その籠ったエネルギーが、趣味とかスポーツ、ゲーム、何か熱中するものに傾く人と、急に火山のように爆発して誰かに怒りという形で向いてしまう2パターンが存在する。君はね、どちらかというと後者のタイプに見えてしまうのよ」


「学者や先生、医者のような学問を主とする職業の方は、人間やモノを、タイプ分けしてしまう癖があるが、全ての人に当てはまっているわけではないはずです。僕がそういう人間なんて決まっているわけではないでしょうに」


少し早口になってしまったが努めて冷静に僕は答えた。

カップを口につけたが、中身が空になっていることに気づいてすぐにカップをテーブルに置く。


「まあね、確かにちょっと頭が固くなっちゃったかもしれないわね、ごめんなさい。さて、私は、少しトイレに行ってくるわあなたももう仕事に戻ったら?さっきから厨房で30くらいのおばさんがあなたを睨んでいるわよ」


そう言って香山先生は厨房の方を睨み返す。

あなたも20代後半でしょうとは、僕も突っ込まない。

そこまで命知らずではないし、面倒ごとは嫌いだからだ。そして、女性が主にこの面倒ごとというのを引っ張り込んでくると僕は思う。


トイレに向かう香山先生の背中を見て、僕も仕事に戻ろうと席を立つ。

ふと、彼女の座っていた席に、彼女のモノらしいシックな赤いバックがあるのに気づく。

医者というものはやはり高給取りなのだろうと思わせる、上品なデザイン。


そのバックを見て、僕は口の端をにんまりと歪めた。

そして、スマホを取り出し、メールを送信した。


――――——


リトルボーイを後にした私は、コンビニに寄って切らしていた煙草を買った。

駅までの道のりは約3キロ、歩いて30分以上はかかる道のりで持て余した時間はやはり煙草に限る。


私はバックからライターを取り出し、煙草に火をつけた。

夜の澄んだ空気に一本の煙が揺らめく。

煙草を吸い、ほっと一息つきながら、私はリトルボーイで会話した″Kくん″を思い返した。


存在感が薄く、地味であまり目立つタイプではないのは以前と変わらないが、彼の心に何らかの火が灯っていることは明らかだった。明確な意志を持ってそこで働いている。なんとなくアルバイトをして和気あいあいと楽しんでいるのとは別種の何かに感じられる。


その何かが、小早川さんと繋がっていると私の心療内科医としての勘が騒ぎ立ててはいるのだが、その根拠はない。さっきのやりとりだけでは深くまで汲み取れなかったが、彼を観察する上での、当てるべき焦点は付けられそうだ。


高速道路を跨ぐ大きな陸橋を渡りながら、私は今後の憂鬱に頭を悩ませた。

これからあのファミレスに何回か通うことになりそうだが、毎回この陸橋を渡って歩かなければならないのか、面倒くさい。


そもそも彼自身がこちらに通院に来ない以上、彼の治療も金にはならず、慈善事業みたいなものなのだ。悪態の1つも付きたくなるものなのだ。


ただ、彼をほっとく理由にはならない。″Kくん″、主人格の彼も、ついさっきの彼も、大人のエゴが生んだ被害者なだけなのだ。高い理想を求める父の要求に応えられない息子が虐待を受け、母はそれを見て見ぬふり。逃げ場を失った彼は、心の中のもう一人の自分を作り出し、嫌な現実を全て彼に放り投げた。その彼が今なお身体を支配している。


ほっとくと、もっと何か大きなことが起こる。そんな予感が胸をざわつかせる。


陸橋をようやく渡り切り、交差点を越えて少し歩けば、駅に着く。

煙草を吸い終え、携帯灰皿に吸殻を入れ、煙草の箱とライターをバックにしまったとき。


ん?

入れた覚えのないモノに指が当たる。


それは紙切れだった。

折りたたまれたそれを開くと、


″車は、あなたを安寧の世界へと運ぶ幸せの象徴。あなたはそれに自ら飛び込む″


なんかサイコ系か、スピリットな匂いを漂わせる文面ね......

質の悪い悪戯だけど、こういう方に偏った患者の悪戯?そんな患者いなかったような......

辺りは住宅もなくコンビニなどもないためこれを捨てるゴミ箱も駅まで歩かないと見つからない。


文面をよく見ると、気づく。

丁寧な字ではあったが、男っぽい筆跡であることに。

まさかね......


文面を見るのに夢中であった私は、背後から迫る者に全く気付かなかった。

人通りは少ないが、車通りはそこそこで、車の走行音のせいで気づかなかった、そんな言い訳誰が聞いてくれるものか。


ドン、と背中に軽い衝撃を受ける。

強くはないが、体勢を崩して前に倒れるには十分な力だった。


交差点を走る車のライトに照らされる瞬間、文面の内容はこういうことだったのか、犯人はやはりあいつかと、冷静に思考する。


終わりだ、地面に身体を打ち付けたとき、走ってくる車に衝突する直前の、刹那と呼ばれる瞬間の世界の中で私の澄んだ視界は、ヨレヨレのスーツを着た4髪の薄いサラリーマンを捉えた。


××さん、あなたが――――


僕のせいじゃない僕のせいじゃない僕のせいじゃない僕のせいじゃない僕のせいじゃない僕のせいじゃない僕のせいじゃない僕のせいじゃない僕のせいじゃない僕のせいじゃない


病的に繰り返される彼のセリフが、走馬燈を見る私のBGMになっていた。


――――


うわー、やっべーもん見ちまった。まじやっべー。


長い金髪を指でくるくるといじりながら内心テンパっていた。

目の前でサラリーマンが白衣の女を突き飛ばして車に引かれる瞬間を目撃した俺は、焦るに焦る。


警察に電話?女性の介抱?救急車?いやいや、目の前の殺人者を捕まえる?

ないわー。どうするよ城!どうするよ俺!


サラリーマンはガタガタと身体を震わせ、周囲をキョロキョロとさせている。

そして、真後ろにいた俺と目が合う。


っべーわ。まじやっべー。

逃げるしかないっしょ、もう。


そうは考えるが、両足が笑ってしまい、思ったように走れない。

焦って狭くなった視界に入る、目の前の小道に向かってもつれながら小走りで向かった。


後ろからサラリーマンがすごい形相で追いかけてくる。

うぇ、おぇ、うぅ、と嗚咽を漏らしながら俺もなんとか走る。


やばいやばいやばいやばい。

殺される。こんなことになるなら亜莉子と仲直りしておけばよかった。

汗と涙と鼻水が口に入ってシェイクされ、しょっぱさを口に感じながらこれまでの自分を色々反省する。


死ぬ瞬間にならないと自分の過ちや後悔に向き合わない自分の馬鹿さ加減に半ば呆れつつ、必死で走るが、異常環境下における体力の消耗は凄まじく、あっという間に息が切れ、走る足は止まってしまった。


「君は悪くない。でも僕も悪くない。さっきの女性も悪くないんだ」


同じく息を切らしたサラリーマンは、鞄から包丁を取り出し、そう語りかけた。


「でもね、自分を守るためには、闘わなくちゃいけないんだ。おじさんはそう思う」


「な、なにがっすか?」


震える声でなんとか答えたが、もうなんか目の前のおっさん、完全に自分のワールドに入ってるよ。目が逝ってる。マジで俺、OWARIDEATH。


街灯に照らされ妖しい輝きを放つ刃物を、サラリーマンは俺に向ける。


ごめんね。一言残し、包丁を刺そうとこっちに向かっていくサラリーマンが、やけにスローで動いているように見えた。死ぬ瞬間ってこんなんなのか。


熱に浮かされてぼやけた意識の中、まさに刃物が俺の腹部に接する瞬間、突如、強い突風が吹き、俺は横に倒れた。

リーマンの手から包丁が離れるのを目にし、熱でぼやけた俺の意識がクリアになる。


風?このタイミングで?超ラッキーじゃね?神か、神の加護なのか?


「神なんていないよ。そんなもの誰も救ってくれないからね」


テンションの低い女の子の声が後ろから聴こえた。


「ミューズ?いや、君、コバッち!?」


高校の制服を着た彼女は、同じアルバイターの小早川さんだった。

挑戦的な強い目をサラリーマンに向ける。


「あなたのしてることはさすがに見過ごせないから。ここで眠ってて」


立ち上がり、刃物を拾うサラリーマンに、小早川さんは、片手で拳銃のポーズを取り、サラリーマンに向ける。


「コバッち!?なにふざけてんの?ガチのマジでやばいんだって!ふざけてる場合ちゃうねんて!!早く逃げろ!いや、逃げる前に警察呼んで!!」


俺の呼びかけに、リーマンはくすくすと笑う。


「ごめんね、君も一緒に逝ってもらうから。でも二人一緒なら寂しくないね、よかった」


本当にホッとしたリーマンの様子は、背筋をぞくぞくとざわつかせる。


「じゃ、まずは女の子の君から。ごめんね」


そう告げて全速力で向かってくるリーマンに、コバッちは相変わらず拳銃もどき(笑)を向ける。馬鹿二人だと大人一人に勝てないって皮肉かよちくしょー。


そう自虐したが


パァン!と、本物の銃を撃ったような強烈な音が耳を突く。


リーマンは吹き飛ばされ、意識を失ったのか倒れたまま起き上がらない。白目を剥いてぴくぴくさせていた。


コバッちはニヤっとした余裕しゃくしゃくな笑みを浮かべている。


ホワイ?Why?

何が起こったの?


「風の銃弾だよ。大気を動かす風の魔法は、応用すればこんな使い方もできるの。大気を動かし一か所に圧縮して打ち出す」


すごい疲れたと、コバッちは肩をたたいている。

ナニイッテンダコイツ。


力が抜ける。

ふぅーと一息。

腰が抜け、地面に尻を付けた。


なにがなんだか。なにがなんだか。

ポケットの中のスマホを取り出し、警察を呼ぶために、画面をタップした。

視界がまたぼやける。涙のせいだ。


この割れたスマホの画面、誰が弁償してくれんだよ。

もうなんなんだよ。

わけがわからねえよ。


急展開する場面に、唐突に訪れる安心感。

気持ちが追い付かず、身体も限界で、俺は自分に降りかかった不幸という名の理不尽を、スマホという身近な物に集約させ、独り、うめいた。

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