恋の香り
修正やら、付け足しやら、色々としてみました。気に入って下されれば幸いです。
駄文です、よろしくです。
じゃ、どうぞ↓↓
季節は冬。2月の後半に差し掛かり、暖かくなるかと思いきや、シンシンと雪が降り始め、傘を指す者やフードを被る者、カッパを着る者やそのまま歩く者がチラホラと出始める。
その中で、この物語の登場人物である“女性”は、“そのまま歩く者”であった。
黒髪セミロングのひとつ編みに束ね、白いカーディガンとベージュのマキシスカートにダークブラウンの靴を履いた女性が、狭い路地裏をコツコツと歩き、ふと茶色い扉の前に立ち止まった。
女性はいつものように、
コンコンッ…と、2回ノックをした。
「どうぞ~開いてるよ~…」と、軽い間の抜けた声がし、女性はその間の抜けた声を聞き、少し口元が緩み「寝てたのかな?」と思い、笑みが溢れた。
ガチャリと音をたて、扉を開けると……白い匂いがモワァ‥と鼻につき、彼女は「おぅふ…また色んな珈琲の匂いがブレンドしてるなぁ…」と、遠い目で呟いた。
“ココ”に来ると、いつも珈琲の香りが漂う。「喫茶店だから当たり前か…」と、彼女はそう思いながら、目を奥にやると……案の定、“彼”は欠伸をし、眼鏡は横にズレ、目は半開きのまま、クマのヌイグルミを抱えて珈琲を一杯飲んでいた。
案の定が付くのは、二人は大学時代からの古い知り合いで、まあまあ付き合いが長い為である。もはや腐れ縁の域である。
彼女は「何とシュールな……いや、違和感のある光景なんだろう…」と、「大の男がクマさんのヌイグルミを抱いてるって…」と、若干引いた感じの彼女だが、「あっそういや、あのクマのヌイグルミあげたの私だわ…」と、それを思い出した女性は、更に遠い目になった。
でも、少し可愛いな…と、心の中で思った事は、“彼”には内緒である。
“彼”は背筋を伸ばし、
「う~んっ……おはよ~…」
と、また間の抜けた声で挨拶した。
彼女は、
「おはよう……というか今の時刻だと、こんにちわが正しいかな…」と、呆れた顔で言う。
「えっ……いま何時?」
と、ズレた眼鏡を直しながら尋ねる彼。
「昼の12時過ぎ…」
彼女は腕時計を見せながら言った。
「あら~…」
と、彼は椅子にもたれかかり、頭にクマさんの手を乗せ「やっちゃったぁ~…」と言いながら、「あれ?目覚まし鳴った?」と、首を傾げた。
そんな世話なくコロコロと表情を変える彼を見て、彼女は若干呆れ顔で「この人ほんと朝が弱いって言うか、寝起きがアホって言うか、いや天然か…」と、何か変な納得をし、また彼の方へ視線を向けて、クスリ…と「本当にこの人は抜けてるなぁ」と、少し微笑んだ。
「?…何ですか?紅乃さん、僕の顔を見て笑って。あっ寝跡でもついてます?」
彼は自分の顔をペタペタ触りながら、彼女……
紅乃の方へ視線を向けて問い掛けた。
彼女は笑顔をサッと引き、
「いえ、素晴らしいアホ面だなっと思った次第ですハイ」と、言った。
「えぇ~…」と「酷いこと言うなぁ紅乃さんわぁ~」と、その割りにニコニコと笑顔で気にしてる様子のない彼に、紅乃も特に気にしていなかった。こんなやり取りは日常茶飯事である。
だが、実は言うと「少し言い過ぎたかな?」と紅乃は少し心配していた。しかし素知らぬ顔で…。ここはあえてポーカーフェイスで答えようと思ったのだった。
「あれ?紅乃さん、頭とか肩に何だか白いの付いてるけど?」
すると伊阿は何かに気付いたのか、不思議そうにクマの手をそのままクマの頭に乗せて表現しながら、首を傾げて紅乃に言った。
「ここに来る途中、雪に降られてしまって…」
紅乃は窓の方へ視線向けて伊阿の問いに答えた。
「おや、珍しいね…」
伊阿は紅乃にそう言われ、窓の外を見てみた。
シンシンと白い雪が降っていた。
伊阿は「あれ?紅乃さん雪降ってる中、カーディガン一枚で来たの?寒くない?」と、伊阿は心配そうに紅乃を見つめながら尋ねた。
紅乃は「昨日“ここ”にロングコートを忘れて帰ったんで、今日取りに来たんですよ…」と、申し訳なさそうな顔で伊阿の言葉に答えた。
伊阿は「あっそういえばっ!」という感じで「だから2日続けて来たんだねえ~いつもは週一ぐらいで来るから珍しいなぁ~って思ってたんだよ~」と納得したような笑顔で言った。
そんな彼女らの何時もの、のんびりとした掛け合いをしながら、時間はゆったりと、静かに流れゆく……
◇
紅乃は立ってるのが疲れたのか、近くのソファーに「失礼しますね」と言いながら座り、「ふぅ…」と一息ついた。
彼女は「というか、さっきから気になって居たんですが…」と、思い出したかのように彼に何気に話し掛けた。
彼は
「ん~?なに~?」
と、クマのヌイグルミの首をコテンっとして聞いた。
「そのクマのヌイグルミ、なんで抱きしめているんですか?」
「えっ?だって君がくれたじゃない?昨日の夕方にさ。」
「ええあげましたけども…。飾るか捨てるか、もしくは部屋の奥にしまってるかな?と思ったんですが……、なんか普通に抱き枕にして、しかも使い馴れたかのように扱いこなして居るもんだから…何か気になって…」
「可愛いでしょ?」
「ええまぁ、可愛いですが……クマ、好きでしたっけ?伊阿さん?」
「うーん…好きでも嫌いでもないけど、なんか一緒にいると、愛らしく感じてきちゃって」彼は茶目っ気溢れる笑顔で答える。
「…まぁ、喜んでくれたなら良かったです。昨日“ココ”に寄る途中で、ふとクレーンゲームしたくなって、たまたま取れたクマでしたけど…」
◇
仕事が終わり、そそくさと職場を後にした私は、いつも通り伊阿さんの喫茶店に向かっていました。すると、リズミカルに流れる音楽が私の耳に入った。私は歩いていた足を止め、音楽のなっている方向へと視線を向けた。そこには、たぶん最近出来たばかりなのだろう、とても綺麗な内装をしたゲームセンターがあった。その入り口近くにはクレーンのゲームコーナーがあり、私は大のクレーンゲーム好きであるため、どうにも体がウズウズとやりたい気持ちが押さえられなくなり、クレーンゲームコーナーに直行した。どれを取ろうかと悩んでいると、ふと大きな茶色いクマのヌイグルミが目に入り、その時……伊阿さんの顔が頭に浮かんだ。伊阿さん、いくまさん…クマさん……何をくだらないことを考えているんだろうと、自分で自分を殴りたくなった。
でも…………
私は小銭を手に握り、大きな熊のヌイグルミのあるクレーンコーナーに向かっていた……
◇
「………(絶対言えない、というか言いたくない!)」
「?…紅乃さん?どうしたの?」
伊阿は急に黙り混んで固まっていた紅乃に、不思議そうな顔で訪ねた。
「いえ、お気に為さらずに……」
「?……それにしても、紅乃さんってクレーンゲーム好きだよね~顔に似合わず~、腕も達人クラスじゃない?」
「達人って程では無いですけど……まぁ確かに好きですね、クレーンゲームは。と言うか顔に似合わずは余計です。」
ムスッとした顔で答える紅乃。
「ごめんごめん。まぁずっと抱いてるのはそれだけの理由じゃないけどね?」
「?…何ですか?」
紅乃は首を傾げた。
「紅乃さん初めてじゃない?僕にプレゼントしてくれたのって?」
彼は紅乃にニコッと笑顔で言った。
「そう…でしたか?…あぁ……そうかも、しれませんね…」
紅乃は伊阿の言葉を聞いて、過去を遡ってみたが、そう言えばあげてなかったなぁと、思い出していた。
「まぁ僕達ってイベント事に無頓着なところがあるし、あげる機会がなかったって言うのはあるだろうね。でも……
だからかな、紅乃さんから初めてプレゼント貰ったとき、とても驚いたし、同時にとても嬉しかったんだ。ふふっ、イベント事も何にもない時にくれる辺り、紅乃さんらしいなって昨日は思ったものだよ」
コロコロとした笑顔で伊阿は「今度は僕からプレゼントを送るね?」と、紅乃に優しく微笑みかけながら言った。
「………本当に、貴方は変わり者ですね…」
伊阿の言葉に、紅乃は少し反応に困ったような、呆れたような、曖昧な笑みを浮かべて返事をした。同時に「この人には敵わないなぁ」と、改めて実感もした。
妙な気持ちになった紅乃は「もう少しまともな物をやるべきだったな…」と、内心少し後悔していた。しかし、そのことはまだ、秘密にしておきたいと思う。
若干後悔ぎみな紅乃の事も露知らず彼は「ふふっ、紅乃さんだと思って一緒に寝たよ~」と、クマを抱きながら笑顔で言う。
「アホですか?」
すかさず真顔で切り返す紅乃。
「アホなんです。」
そうニッコリと笑う彼は、一緒に居ると何故か切なくなるような、でも一緒にいて何処かホッとするような…
彼女の掛け替えのない、友人の一人であった。
◇
一頻り(ひとしきり)二人で話した後、伊阿は椅子から腰を上げ、パキパキッと骨を鳴らしながら立ち上がった。
「あっ」と伊阿は思い出したように手をポンッと叩き、「紅乃さん、珈琲飲む?」と笑顔で問い掛けた。
「…そうですね、飲ませて頂きます。砂糖とミルクたっぷり用意しといて下さい」
「紅乃さんはほんと甘党だよねぇ~…もう珈琲の良さ消し去って飲んでるよね…」
伊阿が遠い目で言うと…
「基本苦いのは嫌いなんです。たまに苦さを欲する時もありますが、今はそんな気分じゃないんで…」
「成る程、紅乃さんらしいや。じゃ、たっぷり砂糖とミルク持って来るね。」
と、伊阿はパッと直ぐ笑顔に切り替えて、慣れた手つきで珈琲を入れる準備に取り掛かった。
「あっ!紅乃さん、珈琲入れる間、このクマさん預かってて」
と、伊阿はクマのヌイグルミを紅乃に手渡した。
「あ、はい。」と、紅乃は咄嗟に受け取ったが…「いや机でも何処でもそこら辺にクマ置けば良いじゃん」と「置くスペース幾らでもあるんだから…」と思ったが、まぁとにかく預かって置く事にした。
紅乃は待っている間、目をつむり、耳をすませた……
ガリガリと豆を挽く音、グツグツと煮える音、トポトポッと珈琲を入れる音が、紅乃の耳に入る。もう何年も聞き慣れたこの音たち。その音たちを聞き、少し自分の心が穏やかに和らいでゆくことを、紅乃は感じていた。
少し…落ち着いた気持ちになった彼女は、何となく…クマのヌイグルミを、ギュウ…と、優しく抱き締めてみた。
柔らかなヌイグルミのふわふわとした感触と……ほんのりと、クマのヌイグルミから珈琲の香りが漂った…。
「昨日渡したばかりなのに、もう匂いが付いてる」と、紅乃は少し可笑しくなって微笑んだ。
“どうしてだろうな…この珈琲の匂いが、最近とても落ち着く…”
“貴方”の匂いだからかな……
っと、紅乃は冗談っぽく笑い、“なに馬鹿なこと考えているんだろう…”そう思い、直ぐに考えを打ち消した。
「?…どうしたの?珈琲出来たよ?」
紅乃が考え事をしていると、彼はカップを持って不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
「あぁ…、ありがとう。頂くね」
彼女は直ぐに何時もの無表情に戻り、伊阿からカップを受け取った。
ふんわりと芳しい匂いが紅乃の鼻に香る。その匂いに、思わず笑みを浮かべてしまう私は、彼の珈琲好きに感化されたのだろう。私もまた、この珈琲が好きになりつつあるようだ。
紅乃がカップに口を付けようとすると……
彼は
「美味しい?」
と、訪ねる。
「いやまだ飲んでないから…」
彼女は呆れた表情で彼に答える。
「うん、でも美味しいよ?僕が入れたのだから。」
彼は得意気に胸を張って言う。
「その貴方が入れた珈琲を今から私が砂糖やらミルクやらで台無しにするから安心して」
彼女は真顔で砂糖とミルクをドバドバと入れ、スプーンでかき混ぜた。
「だっ大丈夫!まだ僕の愛情が残っているっ!!」
彼はドバドバと遠慮なしに砂糖やらミルクやらを入れる彼女の行動に若干引きながらも、涙目で親指をグッとしながらそんな事を言った。
彼女は「何を訳の分からん事を言ってるんだろう?この馬鹿は?」と、可哀想な目で伊阿を見て「親指へし折りたい」と言う何気に怖い欲求が見え隠れしたが…。
彼女は珈琲を一頻りかき混ぜた後、その如何にも甘ったるそうな珈琲を何の躊躇いもなくコクコクッと飲み……
「あっ…美味しい…」
ポソッ‥と、紅乃が漏らした声に…
「でしょう?
愛情がたっぷり入ってるからね?」
と、彼はドヤ顔で嬉しそうに微笑んだ。
「何それ…」
彼女が呆れたように笑ったが、
「うん、まぁ……伊阿さんが入れた珈琲は、何入れても美味しいですね」と、彼女もまた、少し目を細めて微笑んだ。
二人の男女の笑顔が、そこにはあった。
町の外れにある、
細やかながらに開かれている喫茶店、名は《アングレカム》。
そこには……
黒髪セミロングのひとつ編みに束ね、スッとした細い目、唇には一応リップなども塗っている、服装は白いカーディガンとベージュのマキシスカート、もう7年近く履き続けている彼女のお気に入りのダークブラウンの靴を履いた女性が一人。
少しクセっ毛気味な黒髪に、 仕事着であろう、白のカッターシャツに黒のベストきっちりと着こなして、目元には四角の黒渕眼鏡をかけ、その眼鏡から優しげな蒼い瞳を伺わせる青年が一人。
町外れにある、細やかながらに開かれている喫茶店の営業外には、いつの間にか外の雪が止んでおり、空を覆っていた雲から僅かに暖かな陽の日差しを浴びて、二つの男女の影が、くっきりと映っていたのだった。
ーーーーーーーーーー
まだ恋のつぼみも咲かない、
二人の男女の果てしなく長く、
儚く、恋の一幕が……
ほんの少しだけど…
ゆっくりと扉を開き出したのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
最後までこの駄文を読んで頂き、ありがとうございました。