フラグ
体育館の扉の前には教師が一名立っており、避難して来た生徒たちを中へ誘導していた。
健二と雪緒も中へ入る。
体育館の中には数十名の生徒が既に避難を終えていた。
部活の途中だったのか、ジャージ姿の生徒も多数見受けられる。
先程、昇降口の騒ぎから逃げて来た生徒も数名いるようだ。
「ケンジじゃん!お前も残ってたのか」
少し離れた所から、健二のクラスメートの赤羽 蓮が手を振りながら近付いて来る。
「蓮は部活か」
「そっ」
「何かワカンネーけど、大変な事になってンなー」
言いながら、持っていたボールを一度バウンドさせる。
バスケ部の蓮はずっと体育館にいたため、外の騒ぎを何も知らなかったようだ。
「殺人事件て、どーゆー事?」
「校庭でサッカー部のヤツが犬に食われて、昇降口で高橋がサッカー部の顧問に食われた」
「ん、何それマンガの話?」
健二の端的な説明に、蓮は何も理解出来ず惚けた返事をする。
「まぁそーなるよな」
健二も自分で話していて、まるで現実味の無い話にマンガの内容を語っているかのよう気分になった。
「つーか、オレもよくわかんねーし」
「ねぇねぇ」
雪緒が、健二のカーディガンをクイッと引っ張る。
「もしさ、これが本当にゾンビだったら…」
「お前まだ言ってんのかよ…」
健二は呆れ気味だか、
「えー何なに、ゾンビ?」
と、興味津々に蓮が食い付く。
「そう!」
「もしゾンビなら、ここも危ないんじゃない?」
「はぁ?」
雪緒は「あれ」と、奥の方を指差す。
雪緒の指差した方に視線を向けると、先程の昇降口から避難して来た、負傷しているサッカー部員数名が保健医に手当を受けていた。
「アレが何だよ」
健二は雪緒の“ゾンビ説”は全く信じていないため興味が無さそうに返事をするが、雪緒は構わず続ける。
「校庭の犬に噛まれてるんでしょ?」
「て事は」
「感染してるかもー、って事?」
蓮は楽しそうに雪緒の話を聞いている。
「クールじゃん!」
「蓮、お前…雪の話信じてンの…?」
健二は横目で蓮を睨むが、
そういえばコイツもそのテの話が好きなんだ…と思い出して溜め息を吐いた。
「そーゆう訳じゃないけど、色んな事態を想定しておくのは大事だよーって事」
間延びした緊張感のない喋り方で蓮が言う。
「そうそう、ケンちゃんはもっと想像力を鍛えよう!」
「ついてけねぇ…」
「あ、ハルハル!」
校内の生徒全員の避難が完了したらしく、緑川他、数名の教員が体育館に入って来た。
健二達に気付いた緑川が近付いて来て、にっこりと安心感を与える笑顔を向ける。
「無事に防火シャッターを閉めたよ」
「警察はまだ来ないのか?」
後ろでゾンビ談義に花を咲かせる雪緒と蓮を無視して、健二は緑川の方へ駆け寄る。
「まだ時間が掛かるみたいだね…」
「マジかよ、どーなってんだ外は」
「まぁ、焦っても変わらないし、もう少し待と…」
緑川が言いかけた時だった。
「ギャァァァァァァァッ」
体育館の奥から悲鳴が響く。
振り返ると、先程保健医に手当を受けていた数名の生徒が
他の生徒に噛み付いていた。




