わんわんわんっ
「!?」
驚いた健二は、ドアノブから手を離し、校庭が見渡せる方向のフェンスに駆け寄る。
校庭には、部活動を始めている運動部の生徒たちと、一匹の中型犬がいた。
「は、犬?」
何で犬が?
あの悲鳴は何だ?
と、混乱しながら校庭を眺めていると、何やら様子がおかしい事に気付く。
犬が、倒れている女子生徒を-----食べている。
「うェ…まじかよ…」
よくよく見ると、食べられている女子生徒の周りには、血を流した生徒や顧問の教師もいる。
顧問の教師が犬を抑えながら、生徒たちに何かを叫んでいるようだ。
--なるほどな、これはアレか
健二は考えた、
--まだ夢か、あいつマジで呪ってやる
そして健二は、考えるのをやめた。
その時、
ガチャッ!
突然勢いよく、背後の扉が開いた。
「!?」
健二は再び驚いて振り向く。
「ケンちゃん!やっぱココだぁ!」
入って来たのは、女子と見間違える程に小柄で可愛らしい外見の男子生徒。
健二のルームメイトの、白石 雪緒だ。
「おい雪!テメェ呪うぞ!」
「へぇっ、何で!?」
「お前の所為で変な夢見ただろーが」
突然の言いがかりに「え、ごめん…」と謝る雪緒だが、ふと思い出したように
「いやそれ所じゃなくて!」
雪緒の大きな瞳が更に大きく見開き、興奮気味に語る。
「今ね、委員会が終わって帰ろうと思って、教室に戻ったんだけど…」
「ウチの教室、校庭のすぐ上でしょ?」
雪緒のクラス、2年B組は、2階の校庭側にあり、窓からはすぐに校庭の様子が見える。
「アレ、か?」
健二は校庭をチラリと見て指を指す。
雪緒も柵に近付き校庭を見下ろす。
「そうそう!」
「あ、犬だぁーって見てたら、その犬が…部活中の子達を襲い始めて…」
雪緒の顔が健二に向き直る。
その目は再び大きく見開き、キラキラと輝いていた。
「でね、キタコレ!ってィタアッ!」
話し途中の雪緒の頭頂部に、健二の拳骨が見舞われる。
健二を朝までDVD観賞に付き合わせた張本人である雪緒は、大のB級スプラッタ映画マニアで、健二は雪緒が現在校庭で起こっている事態に興奮している事を察した。
健二も事態を飲み込めている訳ではないものの、人が血を流して倒れている以上、恐らく不謹慎極まりないであろう雪緒の態度にとりあえず制裁を下したという訳だ。
「…夢じゃねーか」
痛がる雪緒を見てボソッと呟く健二。
雪緒は殴られた頭を右手でさすりながら、「でもさ…」と続ける。
「突然どうしたんだろうね。首輪してるから野良犬って訳でもなさそうだし、人を…食べるなんて」
犬は雑食で、肉も食べるとはいえ、人間を食べる犬など雪緒は映画の演出以外では見た事が無かった。
そういった事件をニュース等では時々耳
にするものの、現実に、ましてや自分が通う学校の敷地内で起こるとは、誰も想像すらしないだろう。
「狂犬病とか?」
健二は狂犬病がどんな症状かはわかっていないが、適当にそれっぽい病名を挙げた。
「えー、狂犬病ってあんなだっけ?」
「さぁ?」
答えが出る筈もなく、目の前で起こっている事件に対してまるで昨晩のDVDの感想を語り合うかのような、他人事のような会話を繰り広げる。
「まぁ、どうせすぐ警察が来るだろ」
「とりあえず帰ろうぜ」と、
二人は屋上を後にして、荷物を取りに2階にある自分の教室に向かう。
健二のクラスは2年D組で、B組の雪緒とは違う教室だが、既に自分の荷物を持ち、帰る支度の出来ていた雪緒は健二と一緒にD組の教室に向かった。




