一章-氷の女王は冷ややかにⅠ
彼女に振られ、意気消沈しつつ廊下を歩いていく。騒がしい教室や、掛け声の聞こえる運動場。全てが耳を通り抜けていく。
意味のない言葉の羅列は、頭の中で形を為さず、消えていく。
ボケーと、しながら歩いていく。何もする気がおきない。
自分の足は、自然と下駄箱に向かっていた。
学校指定のローファーに履き替え、カツカツと小気味いい音を立てながら、歩いていく。
僕の学校は、校門を出るととんでもない下り坂になっている。
私立九十九高校、一応進学校と言って問題ない程度進学実績がある。在籍生徒は1000人くらいいるマンモス校だ。
にしても、土地が安かったのか信じられないくらいの激坂だ。もうちょい他の所は無かったのか...。
冬だって、汗ばむくらい。夏なんてもう地獄絵図だ。僕たちが頑張って登校している中、教員が車で上がっていくのを見ると軽く殺意さえ湧く。
そんな激坂のガードレールにもたれかかっている男子生徒がいる。スマホに何か打ち込んでは、少しニヤついて、また打ち込んでいる。
何アレ、キモっ。どこのどいつだよ。
「おっ、どうだった?」
僕の友達でした^_^
この気持ち悪いのがコースケ、中々憎めない性格してる僕の友人だ。
「んー、ダメだったよ」
「 まあ、しゃあないよな。おまえで43人目か?『氷の女王』の名は伊達じゃないよな」
そう、彼女は数々の男を、43人ものの男を無下にしている。
振りに振っていたその態度と容姿でついたあだ名は『氷の女王』。
彼女といつも共にいる友人も『氷の精霊』と言われているくらいどこか優美な雰囲気がある。
「1年 7組 朝霧 氷華、スリーサイズは上から88・60・84、ついたあだ名は氷の女王ね」
何でスリーサイズとか知ってんだよ。ギャルゲの友達かよ。
「何でスリーサイズとか知ってんだよ...」
「我が情報網と魔眼からは逃れられんよ!ククク...」
何言ってんだ...コイツ...
イケメンなのになぁ...残念イケメン?世の中釣り合うようになってるのなー。
確かに、こいつは、観察能力が異常に高い。後、眼もいい。ただ見るだけでスリーサイズが分かる程とは知らなかったが...。
ていうか、やっぱいい体してるなぁ。ウエスト細すぎじゃない?飯食ってるの?
「んで、次に気になっている女の子とかいる?お前にならタダで教えてやるぜ」
スマホを自慢げに掲げながら、ニヤッと気持ち悪く笑う。
コースケが、女の子の情報を集めてるのは、それを売るためだ。
親に無理を言って、遠くの私立を選び、一人暮らしをしているらしく、生活費は自分で稼がなければならないらしい。ギャルゲの主人公かよ...。
「いや、他の女の子の情報は良いよ。その代わりに朝霧さんってどこでご飯食べたりしてるか知ってる?」
コースケはバカを見るような顔をしてこっちを見つめてくる。なんだよ、その目は、お前にだけはそんな目で見られたくなかったぞ。
「お前、まだ諦めてないのか!?あれは無理だって!男のことを下に見てんだって!まさに氷の女王様だよ!」
ボロクソだなー、朝霧さん。コースケの中ではそんな評価なのか。
「そんなに冷たいかな?朝霧さん。」
ポロっと出てきた呟きにすかさずコースケが反応した。
「冷たいよ!あいつ多分、冷血動物だよ!見てろ、冬になったらあいつ冬眠するぜ!」
どんだけ嫌ってんだよ...。
そんな僕の気持ちを感じ取ったか、コースケは神妙な顔でいきなり語り出す。
「あいつさー...男子に人気じゃん?女子情報屋として、いち早く情報集めようとして、ずっとつけてたんだよ」
あれ、僕の友人やばい奴じゃない?
「んで、告白現場とか、さ、当然見るんだけど...ひっでえもんだよ...あいつは鬼だよ...男の方も悪かったけどさあ...」
どこか疲れながらも、コースケは
「.....まあ、お前が欲しいって言うんなら、好きなだけやるよ...明日教室でメモを渡すわ...」と言ってくれた。
電車でコースケと別れを告げ、自分の駅で降りる。今日は精神的負荷が大きい。寝たい...。
「ただいまー」
気だるく挨拶をしながら、ドアを閉めた。
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